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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2026.02.28 公開 ポスト

第265回 左膝いとうあさこ

よく申し上げておりますが、私は直近のことは忘れがちですが、何故か昔のことは覚えていることが多い。まあその記憶が、勘違い・思い違い、と言うか。“事実”とちょっとズレちゃっていることも往々にしてございますが。

 

例えば小学校の思い出で言えば、頭の中に思い浮かんでくるものはいくつもある。大きい思い出はもちろんのこと、「給食のパン、最初1枚だったのに、高学年になったら2枚になったなぁ」とか。「小学校の運動会で、体育のミネシマ先生(ショートカットでスラッと背の高い女性の先生)が借り物競争か何かでルパンに出てくる“次元”の仮装をしていてかっこよかったなぁ」とか。「修学旅行で京都に行った時、バスが大渋滞にハマったせいで、お昼ご飯がおやつの時間くらいになってしまって、晩御飯の時、まだ全然お腹すいてなくて悔しかったなぁ」などなど、ちっちゃな思い出もたくさん出てくる。ただ、そういう心に残った思い出の他に、目で見て思い出す思い出がある。それは、傷痕。ちっちゃい頃から走り回っていた私は、何度かこのコラムに書きましたが、まあまあケガの多い子で。そのケガの中で、今でも痕が残っている傷たち。箇所として断トツで多いのが左膝。左膝にはいくら謝っても足りないくらい、何度も傷つけられた痕が残っているのです。

一番古いものだと小学6年生の時の傷。当時、新校舎建設中で、仮校舎で過ごしておりました。ある日の放課後、何で急いでいたのかは覚えてませんが、学校から走って出てきたんです。別棟のプレハブみたいなところにあった靴箱から道路に出るまでの広いスペースには一面、砂利が敷き詰められていて。で、そこがカーブになっていたんですよね。猛ダッシュしていた私は砂利に足をとられ、そのカーブのとこで上手に曲がり切れず。そこは、私の記憶が確かならば、右に曲がったカーブだったので、もしケガをするなら右足のような気もしますが、もしかしたら咄嗟に立て直そうとしたんですかね。左膝をズザーッ。小砂利が膝の中に入っちゃうほど、ガッツリ擦りむきました。ちょうど通りがかった同級生に抱えられ、保健室へ。出来る限り、砂利はとってもらったのですが、まるでまだ小砂利が入っているかの如く、赤茶色のボコボコした痕が左膝に残ってしまいました。

そこからだいぶ時は経ち、2022年。あさこ、52歳。はい、本当にだいぶ時、経ちました。“前十字靭帯断裂&半月板ビリビリ”事件。これも、左膝でした。たださすが現代医療。手術痕はかなり小さい。膝を囲うように小さな穴が3カ所。それと1本、足の腱を抜きまして、人工の靭帯を作っていただいたのですが、その腱を抜いたとこが数センチだけ縫い合わせた痕が残っている。そうなるとむしろ、小6の“砂利”痕の方が派手かも。センターの“砂利”痕を囲んで点が3つ&短い線が1本。その図柄だけで言えば、縄文時代の住居跡、とかの例で出てきそうな感じ。

そして実は最近、左膝に“新参者”の傷が出来まして。また、擦り傷です。先日オンエアになった「世界の果てまでイッテQ!」の『いとうあさこのミステリーツアー』というコーナーでドイツに行った時のこと。“人の動きを操る謎の男”としてエリックさんという方とお会いした。要は、動画遊びなのですが、まず事前に打ち合わせをしまして。そこで決めた動きを、エリックの指示通りにワンアクションずつ、ゆっくりやっていく。右足を上げる、右足をおろす、左足を上げる、左足をおろす、みたいに。それをエリックが携帯で動画を撮りながら、ご自分の片手をカメラに映るように出し、私の動きに合わせて、まるで私をつまんだり、離したりして見えるように、指を動かしていく。その出来た動画を早回しすると、私はエリックの手との遠近法で、かなり小さな操り人形のように見え、エリックが私を指で操っているように見える動画が出来上がる。都度都度動画をチェックすると、面白いくらいちゃんと出来ていて。エリックにも「あさこはセンスあるよ」なんて褒められたりして。そんな中、操り人形・あさこの小さな背中をエリックの大きな手のひらがトンと押すとあさこが吹っ飛んでいく、というシーンを撮影することに。ここはこれまでのゆっくりの動きとは別に「GO!」の合図で猛ダッシュ。しかもより“勢い”感を出すために、一度反り返ってから、前へダッシュすることに。いくぜ、55歳。エリックの「GO!」の掛け声と共に一度そっくり返りまして。その勢いで前へ走り出す、予定だった。いや、走り出したんですよ。走り出したんですけど、その反り返りからの戻りの勢いが、自分で思っているより強かったみたいで。そのまま、前に思いっきり転んでしまった。自分の体感では十秒ちかく、転ぶまで何度も体勢を戻そうと、両手を使って前へ後ろへバランスを取ろうと努めた、と思っておりましたが、周りで見ていた人に聞くと、ものの1、2秒で、まあまあの距離、すっ飛んでいった、とのこと。オットットットッズザーッ、くらい。もうバタバタしている間に靴も両方脱げちゃって。恥ずかしい。あれ、不思議なんですが、ズボンは破けてないのよ。まったく破けてないのですが、中の膝小僧だけ血まみれ、みたいな。どうやってあれ、中だけ切れるんだろうね。ま、そんなわけで、めっちゃくちゃ切りました。小6の時の“砂利”傷の真上に、結構深く、がっつり。傷が塞がるまで1ヶ月半かかったくらい。こうして膝の傷、上書き、されました。しかも今度は同じく赤茶色い、ぷっくりとした、一辺1.2㎝くらいの逆三角の痕に。ほら、高層ビルとかの窓に貼ってあるあの赤い逆三角形やつ、みたいな感じ。この痕とはきっと、一生お付き合いになるのかな。また上書きされない限り。とりあえず左膝にはお詫びの意味もこめて、お風呂上りのニベア、ちょっと多めに塗っています。

【本日の乾杯】ズッキーニの1本焼き。小さい頃、知らなかったズッキーニ。キュウリと茄子のいいとこ取りみたい。水分たっぷり。こういうシンプルなものが年々好きになる。

 

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などなど、今回も盛りだくさんの内容となっていますので、ぜひチェックしてみてください。

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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