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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2026.02.27 公開 ポスト

作家にとって「おもしろい」はアイドルにとっての「カワイイ」や「カッコいい」と同義-3次元の推し方を引き続き考えるーカレー沢薫

3次元の推し方がよくわからないので、まず推しをフォロー、観察するだけのインスタ裏アカを制作した。

「半年ロムれ」が死ぬまで消えない老人のムーブだが、本人の投稿だけでなく、それにつく「コメント」も観察させてもらっている。

そもそも私が常駐しているXが森ならインスタはタタラ場、と思っているのはX民だけで、インスタからするとXは日陰にあるでかい石であり、どかすと下から見たことがない虫が出てくるから触れないようにしている場所だろう。

そして、わざわざ石をどかして「キモい虫が出て来たぞどうしてくれる」と一日中怒り狂っているのが我々X民だ。

人間が使っている以上、インスタにも石の裏部分はあると思うが、表面的にはXとインスタの明度が違うのは明らかだ。

そもそも推しの投稿に対し、ファンが直接コメントを投げかけるという形式自体、二次元にはあまりない文化だ。

二次元キャラには声がけしないのか、と言われたらゴンゴンに喋りかけてはいるのだが、それが本人に届いているのかと言われたら「俺の中では」としか言いようがない。

本人が本当にそれを読んでいるのかは別として、人格と心がある相手に声をかけるというのは緊張感がある、こっちは毎回それができずにクラス替え初日で孤立してきた歴史があるのだ。

よって、まず諸先輩方がどのようなコメントを書いているのかを見学させてもらうことにしたのだ。

推しがアイドルや俳優の場合、インスタには本人の世界一カワイイ写真、または逆に地球が割れるほどカッコいいショットが投稿されたりする。

それらに対し、ファンからどのようなコメントがされているかというと「カワイイ」「カッコいい」など、見たままの感想が寄せられている。

当然もっとバリエーションはあるが、どれもストレートかつ、シンプルな賛辞の声が並んでいるのだ。

Xでは知らない人に罵声を浴びせる辻斬りが横行している上、被害を訴えたら「歩いていた方が悪い」と言われるスラムである。

もちろんXにも賛辞が寄せられるような投稿はある、しかし人間からの言葉は最初だけであり、すぐにインプレゾンビが大量に沸いてラクーンシティが建設されるのが今のXだ。

そんな無差別殺人やゾンビの群れ、ヘリの爆発を見続けた人間にとって、インスタのコメント欄はそんじょそこらの緑よりも目に優しく、視力が0.2ぐらい戻ってきた。

同時に「そんなに難しく考えることではない」とも思えた。

推しがカワイイ写真を投稿し終わった時には「カワイイ!」とコメントし終えているぐらい、率直に応援していい世界なのだ。

「カワイイ」や「カッコいい」などのポジティブワードを投げかけられて嫌な気分になる人はいない、いるかもしれないが、そういう人は芸能人にならないはずだ。

しかし、単純に心に浮かんだポジティブワードを発せばいいのに、難しく考えてしまい、何も言えなくなってしまうのが、我々新学期ワンマンアーミー勢なのだろう。

アイドルを推すのと作家を推すのは全く別の話だとは思うが、「好きな作品の作者にファンレターを送りたいが『おもしろかったです』など、語彙が死んだことしか言えず、送るのを躊躇してしまう」という悩みを抱えるものが一定数いるのだ。

作家にとって「おもしろい」はアイドルにとっての「カワイイ」や「カッコいい」と同義であり、いくら聞いても聞き飽きない褒め言葉だろう。

しかしそれをシンプルイズベストではなく「語彙が死んでいる」と、悪いことのように捉えてしまうタイプもいるのだ。

しかしこのタイプは仮に語彙を生き生きさせることができたとしても、今度は「長文過ぎてキモい」という理由で送るのを躊躇し、結局何も言えずに夏、どころか春夏秋冬を経て推しが活動を休止してしまうことさえあるのだ。

インスタのコメント欄のように真っすぐ推している人にとって、マントルに到達するほどの「足踏み」を続けてしまう我々は難儀な性質に見えるかもしれないし、自分でもそう思う。

しかし、推し方は人それぞれであり、私のように「考え込む」のが好きな人間もいるのだ。

よって去年からできた三次元の推したちにはまず「ここまで考え込ませてくれてありがとう」とお礼をいいたい、言いたいがこれをインスタのコメントに書いたら意味不明すぎるので、また考え込んでしまう。

ちなみに、私が三次元の推しに対し「推し方がわからない」になってしまったのは、二次元の時にやっていた「好きなキャラができたらとりあえず描く」が封じられているせいもある。

別に肖像権とかを気にしているわけではない、それを言い出したら二次元の二次創作だって厳密に言えばグレーだ。

ただ二次元の場合、髪型や服装などが特徴的なため、画力がなくてもどのキャラを描いたか大体わかるのに対し、相手が三次元だと全く似ず、ファンアートであることさえ伝わらないというのが現状だ。

つまり私の絵がもう少し上手ければこの問題は解決だった、それができないので、またしばらく考え込むことにする。

 

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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