昭和100年目の2026年、二人の時代の目撃者が〈激動の昭和〉と〈混沌する今〉を射抜いた新書『一寸先は闇』を緊急出版。これまで以上に、予測不能かつ瞬時に変貌する世界情勢の中で、変わらぬもの、変わるべきものとは何か。混沌を生き抜く勇気が灯る本書から、一部をご紹介します。

まえがき
いま世界と日本が大きく変わりつつある。
二度の世界大戦を経て、国際法的に戦争は違法化され、国際紛争は国連を通じた話し合いで解決されるのが基本的なルールとされた。
もちろん、朝鮮戦争、中東戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争など、戦争を根絶することはできなかったが、第三次世界大戦のような事態が起きることはないとの前提を人類は共有していた。
しかし、ロシア-ウクライナ戦争は、ロシアと西側連合の総力戦で、事実上の第三次世界大戦の性格を帯びている。
4年以上にわたるこの戦争で可視化されたのは、アメリカを中心とする西側連合がロシアに対して敗北しつつあるという現実だ。その過程で、アメリカが変容した。
トランプ米大統領は、おそらく無意識のうちに、ロシアのプーチン大統領の影響を受け、帝国主義的な発想をし、武力をちらつかせて国益の拡張に走っている。
多くの日本人が、「このままでは私たちは生き残っていけないのではないか」という不安を覚えるようになっている。

2月の衆議院議員総選挙で、既に政治的活力を失っていた自民党が地滑り的な勝利をおさめたのも、高市早苗首相に白紙委任状を渡し、大統領型の強い指導者のもとでの生き残りに多くの国民が希望を託しているからだと思う。
今後、数か月で、行政権(内閣)が立法権(国会)、司法権(裁判所)に優越する形での国家再編が行われるであろう。
防衛力が増強され、スパイ防止法が制定される。スパイ防止法の制定に伴い、通信傍受法が改正され、裁判所の許可を必要とせずに、警察がすべての人と組織の通信を傍受することが合法化される。
憲法改正も視野に入ってくる。これを「善い」とか「悪い」とかいった価値観で判断しても、あまり意味はないと私は考えている。
歴史を動かすには、当事者の意思とは関係のない道理がある。
一見、おかしなことに思えてもそこには道理があることを解明したのが、平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した天台座主の慈円だ。
慈円は主著『愚管抄』で道理の類型を7つ示す。そのうちのひとつが
「現世の人間にはこれが道理だと思われ、すべての人がそれを認めているのに、それが目に見えぬ神仏の御心にかなわないという道理がつぎにあらわれるのである」
(大隅和雄訳『愚管抄 全現代語訳』2012年、講談社学術文庫、381頁)
というものだ。
今回、五木寛之氏と昭和、平成、令和にまたがる過去100年に関し、私たちは表層にとどまらず、魂のレベルでの対談につとめた。
少年時代にあの戦争の現実を体験した五木氏の言葉には命と共に道理が宿っていることを私は痛感した。
五木氏は現代日本を代表する作家であると同時に、時代に関する鋭い観察眼を持つ知識人だ。それだけでなく他人の気持ちになって、考え、苦悩を共にする。
五木氏の言葉を通じて、私たちは昭和の最初の20年、戦前と戦中の日本人の心情を追体験できる。
あの時代、日本人が信じていた道理を追体験し、その限界を知ることが、「新しい戦前」を生きている私たちが「新しい戦中」に突き進んでいかないようにするためには重要だと私は信じている。
佐藤優
※次回は4/10(金)公開予定です
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一寸先は闇

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