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銀行の本店はなぜ仰々しいのか?

2026.04.06 公開 ポスト

野村證券は生き残れるのか? SBIの急成長と証券業界の地殻変動鈴木雅光(金融ジャーナリスト)

銀行の本店はなぜ、あれほど仰々しいのか。なぜ銀行は儲かるのか。証券会社や保険会社は、本当に顧客本位で動いているのか――。私たちの生活に深く関わる金融の世界には、知っているようで知らない“仕組み”と“裏側”があります。

そんな金融業界のリアルを解き明かすのが、金融ジャーナリスト・鈴木雅光さんの著書『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』。本書では、銀行・証券・保険といった身近な金融機関の構造や慣習、そして不祥事が繰り返される背景まで、豊富な知見と取材をもとにわかりやすく解説しています。本記事では、その一部をご紹介します。

*   *   *

野村證券は生き残れるのか

現在、国内証券会社の最大手は、誰が何と言おうとも野村證券です。

今の野村グループはホールディングス化されており、野村證券もその傘下に入っています。それ以外に野村アセットマネジメント、野村信託銀行、野村キャピタル・パートナーズなど国内23法人、海外4法人を擁しています。

ちなみに、同じ「野村」の名を冠する企業として、野村不動産や野村総合研究所がありますが、これらは野村ホールディングスの傘下ではありません。

ただし、野村不動産の持株会社である野村不動産ホールディングスの発行済株式の37.09%、野村総合研究所の発行済株式の20.14%は、野村ホールディングスが保有しています(2025年9月末現在)。

とはいえ、いずれも議決権の50%に届かないため、連結子会社ではなく「関連会社」に位置づけられます。両社は非常に高収益な企業であるだけに、ここを完全にグループ化できていない点は、野村ホールディングスにとって残念なところではあります。

そのなかで野村證券の立ち位置はどういうものでしょうか。野村ホールディングスにとっては祖業中の祖業である証券会社ですが、一部でささやかれているのが、野村證券売却説です。

とはいえ2023年から株価が大きく回復した結果、2025年3月期決算の野村ホールディングスの当期純利益は、19年ぶりに過去最高になっています。

その額は3407億円で、証券業界2位がSBIホールディングスの1621億円ですから、口座数では確かにSBI証券の後塵を拝しているものの、野村證券の底力を見せつけた感はあります。

決算を見る限りにおいて、まあまあ順調であるという印象は受けますが、長期的に考えた時、今後、野村證券には本当に活路があるのだろうかという思いが浮かぶのも、また事実です。

個人向け営業はインターネット証券会社に食われてしまいましたし、「ウェルス・マネジメント」と称している富裕層向け資産管理サービスも、競争の激しいレッドオーシャンです。

では投資銀行ビジネスはどうなのかというと、今後大きく動き出すとみられているのが「銀証ファイアーウォール規制」の緩和です。これは、1993年に銀行が「業態別子会社」という形で証券業務に参入できるようになった際に設けられた規制で、当時、銀行の優越的地位を懸念した証券業界から出ていたことに由来します。

優越的地位とは、たとえば資金を貸しつけている銀行が、借り手となる企業に対して強い立場を持つため、その企業が株式や債券を発行する際に、自行の系列証券会社を利用するよう要請するといった行為を指します。

もしこれが横行すれば、証券ビジネスを収益源とする証券会社は、一気に不利な立場に追い込まれてしまう──証券業界はこれを恐れたわけです。

このため、銀行が証券子会社を保有していたとしても、銀行と証券子会社の間で顧客の非公開情報を共有することは認められていませんでした。こうした制限を緩和しようというのが、銀証ファイアーウォール規制の見直しです。

しかし現状では、2022年のSMBC日興証券による相場操縦事件で、ファイアーウォール規制違反が認定されたこともあり、規制緩和の議論は一時停止しています。

ただし、こうした事件が完全に決着すれば、議論は再開される見通しであり、ファイアーウォール規制は高い確度で緩和に向かうと考えられます。

そうなれば、投資銀行ビジネスにおいては、野村證券よりもメガバンク系証券会社のほうが優位になる可能性は十分あります。

その場合、野村證券は今後どこに活路を見出すべきなのか、その道筋がますます不透明になってきます。こうした状況を背景に、野村ホールディングスが野村證券を売却するのではないかという噂が、まことしやかにささやかれているのでしょう。

私たちの間でも半ば冗談として語られるのですが、野村證券のコーポレートカラーが赤であることから、同じ赤を基調とする三菱UFJフィナンシャル・グループの傘下に入るのではないか、という見方さえあります。

もちろんあくまで冗談半分ではありますが、独立系の大手証券会社として長年続いてきた野村證券と大和証券の2社が、このままの体制で今後も存続できるのかと問われれば、現実的にはかなり厳しい局面にあると言わざるを得ないのです。

快進撃のSBI証券、その原点は大沢証券だった

口座数では日本最大手証券会社の野村證券を超えた、SBIホールディングスの傘下のSBI証券の前身が誕生したのは、何と第二次世界大戦中の1944年でした。

といってもSBI証券などという洒落た名前を用いていたはずはなく、当時の社名は大沢証券でした。おそらく聞いたことのない証券会社だと思います。

それもそのはずで、1998年時点で持っていた支店数は5店舗。従業員は65名という小さな証券会社でした。それが折からの証券不況によって業績が悪化し、経営危機に陥っていたのです。

それを救ったのが、ソフトバンクです。当時、マネックス証券をはじめとしてインターネット証券が次々に立ち上がるなか、ソフトバンクも証券ビジネスに参入する機会をうかがっていました。とはいえ、証券会社のための準備会社を設立し、東京証券取引所の会員権や証券取引を行うための免許を取得するには、時間がかかります。

そこはさすが孫さんと言うべきか、その時間を節約して、一気に証券ビジネスへ参入するため、その両方を持っている大沢証券を買収したのです。

そして、米国のE*TRADEグループと共に合弁会社である「イー・トレード株式会社」を設立し、ソフトバンクグループがその株式の58%を取得することになりました。

1998年10月、イー・トレード株式会社を通じて大沢証券の全株式を取得し、1999年に「イー・トレード証券株式会社」に商号を変更。これが現在のインターネット証券会社であるSBI証券の始祖になります。

イー・トレード証券がSBI証券になるまでの経緯を簡単に言うと、2003年にイー・トレード証券の親会社であるイー・トレード株式会社を、ソフトバンク・インベストメントが買収しました。このソフトバンク・インベストメントの頭文字を取ったのが、SBIです。

その3年後の2006年に、イー・トレード証券は商号をSBIイー・トレード証券に変更しますが、2008年にE*TRADEの商標使用ライセンス契約が終了したことに伴い、株式会社SBI証券に商号が変更されました。これがSBI証券誕生までの経緯です。

また、SBIホールディングスは、1999年にソフトバンクの金融子会社であるソフトバンク・インベストメントとして、その歴史をスタートさせました。

その時、ソフトバンク・インベストメントの代表に就任したのが、野村證券でキャリアを築いてきた北尾吉孝現SBIホールディングス代表取締役会長兼社長です。

これは孫正義ソフトバンク会長からの直々のスカウトだったと聞いています。

その後、紆余曲折を経て、2005年7月に持株会社体制に移行し、SBIホールディングスを設立。2006年8月には、ソフトバンクから完全に独立しました。

現在、証券関連・銀行関連・保険関連・不動産関連・フィンテックなどの金融サービス事業、資産運用事業、投資事業、暗号資産事業、次世代事業という5つの事業領域ごとに、それぞれ多数の企業を傘下に収めて、一大金融グループを形成しています。

SBIホールディングスのネックは後継者がいないこと?

まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのSBIホールディングスですが、果たして将来性はどうなのかと考えた時、いささか怖い面があるのも事実です。

それは、まだご存命中なのに、このようなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが、現在、同ホールディングスの代表取締役会長兼社長を務めている北尾吉孝氏が引退した時、このグループはどうなってしまうのだろうということです。

これは前章で触れた話ですが、SBIホールディングスは第4のメガバンク構想や新生銀行の買収、3000億円ものSBI新生銀行の公的資金返済など資金はいくらあっても足りない状態でした。

そこで2022年6月に、三井住友フィナンシャルグループはSBIホールディングスに出資し、包括的資本業務提携を結ぶと発表しました。

つまり、資金繰りに困ったと思われるSBIホールディングスが、三井住友フィナンシャルグループから出資を仰いだことになりますが、果たしてこの話に乗るべきか否かで、三井住友フィナンシャルグループでは議論が紛糾したそうです。

「もしもこの話に乗ったら、三井住友フィナンシャルグループが北尾氏に食われてしまう」というのが本音だったのでしょう。

最終的に包括的資本業務提携を決断したのは、太田純前三井住友フィナンシャルグループ代表執行役社長でした。

「SBIホールディングスには北尾氏に匹敵するだけの人材がいない。だから、このディールは私たちの勝ちだ」ということで出資を決断したと言われています。

当時、太田前社長は64歳、対して北尾吉孝会長兼社長が71歳でしたから、年齢的に考えれば、先に第一線を退くのは北尾氏です。そういう読みも、おそらく出資を決断した背景にはあったのだろうと推察します。

しかし、そう読んで判断を下した太田前社長が、病によって先に鬼籍に入ることになろうとは、この時点では全く想定されていませんでした。

こうした経緯を鑑みると、SBIホールディングスの後継者が北尾氏と同等の経営手腕を発揮できるのかという懸念は、根強く残ります。

野村證券で培われた北尾氏の圧倒的な手腕と実績が、現在の一大グループ形成の原動力であることは論を俟ちません。

北尾氏の跡を継ぐ人物に、同氏を凌ぐほどのプロフェッショナルとしての知見が備わっているかどうか。この一点こそが、SBIホールディングスの持続的な成長を左右する、最大の鍵と言えます。

関連書籍

鈴木雅光『銀行の本店はなぜ仰々しいのか? 金融業界の謎』

銀行や証券、生命保険、ゆうちょ。これらと無縁に生活している人は、今やほとんどいないだろう。だが、その仕組みや実態について疑問を抱いたことはないだろうか。銀行の本店はなぜ、あれほど仰々しいのか。メガバンクは他行を吸収合併し、近年では通信会社との業務提携も加速させている。だが、それらは果たして本当に成功しているのか。コンプライアンスに人一倍厳しいはずの金融業界で、なぜ不祥事が後を絶たないのか……。金融業界の“裏側”を深く知ることで、世の中を見る解像度が劇的に上がる一冊。

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銀行の本店はなぜ仰々しいのか?

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鈴木雅光 金融ジャーナリスト

金融ジャーナリスト。JOYnt代表。一九六七年生まれ。一九八九年岡三証券入社。その後、金融専門紙記者を経て、投資信託データベースを扱う会社に入社し、投信業界を中心に取材。二〇〇四年独立。出版プロデュースやコンテンツ制作にも関わっている。

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