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大人バレエの世界

2023.11.08 公開 ツイート

愛が重い 丸山裕子

愛が強すぎてしんどい。
そんな経験はないだろうか。

好きが過ぎてしんどい。このしんどさから解放されたい。できることなら好きな気持ちを失くしてしまいたい。
が、それは無理。
ならば、せめてこの気持ちを「持っていること」を忘れよう。

 

そうだ、距離をおこう。(京都には行かない)

距離をおいて時間が経てば、日常にかまけているうちに愛情の「記憶」が薄まるだろう。愛情自体はなくならなくとも、遠ざけていればそういう感情を持っていたことを忘れるはず。「それほど好きじゃなかったかも」「なくても平気かも?」なんて思い始めるにちがいない。


あ。
なんの話かというと、私とバレエの関係です。
色恋ではござらぬ。断じて。


バレエが好きで好きで、時間もエネルギーもなけなしのお金もドバドバ費やしていました。睡眠を削り、机の上のやりかけの仕事を横目にレッスンに通っていました。多い時は週3回、1日2レッスンとポワントクラス、全てのレッスンに出席。発表会にももちろん出演。出ないという選択肢などない! 一人2曲までと言われれば、もちろん2曲踊らせていただきます。

舞台も観に行きます。国内遠征は思うところあってあまりしなくなりましたが、近隣でよい公演があると聞けば、早々にチケットを確保して観に行きました。

仕事時間を圧迫しているのは「さすがに本末転倒やろ自分」と思うものの、とにかくレッスンに行きたくて仕方がないのです。冷静になるべき、この時間を仕事や将来に関わることに使うべきとわかっていても、自ら離れることはできませんでした。


そこにやってきたのがコロナ禍です。
レッスン通いも劇場通いも強制終了。
チーン。。


こんなにも愛しているのに、距離を置かざるを得ないなんて。つら。

生活の中で多くを占めていたレッスンに行けないのは、ものすごいストレスでした。身体を動かすことは心のリフレッシュにもなっていましたし、それより何より、14年かけてコツコツ修正してきた身体がみるみる原状回復していくのが嫌でした。舞台を配信でしか観られないことにもフラストレーションを感じました。

が、人は何にでも慣れるものです。

運動不足で緩みゆく身体に最初は抵抗してみたものの、家で細々とやる筋トレでは止めようもなく。やがて、鏡の中のわが姿に見慣れ、仕方がないと受け入れ、しまいには「歳がいけばこのくらい脂肪がついてる方が可愛くていいんじゃないのぉ?」なんて、肯定するようにさえなりました。何たるポジティヴシンキング!

相変わらずバレエは好きだし生活の中にあれば嬉しい。だけど「なくてもまあ平気なもの」のような気がしていました。かつてあった強い愛は消え、睡眠をきちんととり仕事をし、真っ当な配分で生活を送れるようになっていました。


そうして今年、コロナによる規制がなくなり久しぶりに受けたレッスン。
一気に3年前に引き戻されました。
チーン。。


熱い想いを「持っていること」を一時的に忘れたとしても、心の奥底にある熱い想い自体は消えはしないのです。

もー、バレエ好きだーー
大好きだーー
大大大好きだーーー
めっちゃ好きだー
細部に至るまでどこもかしこも大好きだーーー

先生の見本を見るだけで楽しい。
それを自分の体で再現しようとするのもめっちゃ楽しい。
できてもできなくても楽しい。
楽しくて仕方がない。
いや、楽しいなんて言葉じゃ足りない。

萌える

これだ。
一挙手一投足に萌える。
まーじーでーキュンキュンする。
バレエのバレエらしい動きの全てに。

好きだーーーーーーーーーー!

この美しい動きを自分の体で再現できたらどんなに素敵だろう、そう思って熱心にレッスンに通っていたのでした。たとえ実現の可能性が激薄な願望であったとしてもです。この動きをする自分を内側から感じてみたいと思っていました。

ああバレエ好きだー。大好きだー。
毎日レッスンに通いたいし、毎日舞台を観ていたい。


せっかく冷静になっていたのに、たった一度のレッスンでバレエへの強すぎる愛を再認識してしまい、また苦しくなっている大人バレリーナです。抑えていた分溢れる愛。自分の愛が重いぜ。

思えばコロナ禍とはいえレッスンに通うこともできたのに、敢えて再開しなかったのは、愛が強すぎてしんどい自分に戻りたくなかったからでした。今思い出した。後の祭りや. . 。

いや、しかし、これからはもう少し大人になろう。
体脂肪満載の揺れる身体と引き換えに手に入れたこの冷静さじゃないか。
睡眠と仕事の時間(当たり前)は削らずに、適切な距離を保ってバレエと付き合おう。
今度は細く長くだ!

ああ、でも、でも、でも、今日もレッスンに行きたいんだよう!(仕事してます)
バレエホリック。

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大人バレエの世界

いくつになっても憧れる華やかなバレエの世界。アラフォーからバレエを始めた著者による、楽しく、たくましく、哀しくもおかしい“大人バレリーナ”の日常。

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丸山裕子 イラストレーター

京都市出身。踊るイラストレーター。健康のために始めたバレエにはまり、寝る間を惜しんでレッスンに通う。『バレエ語辞典』の全イラストを担当。書籍や雑誌、広告にイラストを描いている。女性、育児、健康、犬と花に関するものが多い。イラストエッセイは『しあわせな犬生活を』(ドッグワールド)、『極楽いぬ生活』(ペピイ)。布花作家でもあり、『まんまるさん®︎』という古布を使ったオリジナルのアクセサリーを作っている。
Instagram  @yuco.illustrations

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