
使用機材<FujifilmXhalf,BMW220i coupe>
〈絶対に連載を途切れさせてはいけない〉
二〇年近く前、作家デビューが決まった際に業界の大先輩から言われた一言を、私は忠実に守っている。
作家の大まかな収入構成は以下の通りだ。
〈雑誌(文芸誌、月刊誌、週刊誌等々)に作品を連載する〉→〈連載終了後に単行本を刊行〉→〈文庫本を出版〉
連載時は原稿料を頂戴し、単行本と文庫本が刊行されたあかつきには、それぞれ印税をいただく。そもそも雑誌等の連載がなければ、日々のお金が入ってこない(日銭は大事だよ)。その上、単行本を出す元ネタがない。もちろん、多くの読者に届く文庫本など出ないのだ。
毎日コツコツ原稿を書き、連載の締め切りに間に合わせるのが作家の仕事であり、日々の糧を得る基本的な手段だと大先輩が教えてくださった。
前置きが長くなった。
今回のテーマは、ロケハンだ。現在、G舎の文芸誌で『水の女王』という最新長編の連載を開始したばかりだが、実は年末にかけて別の出版社で新たな連載の開始を控えている。
本欄で何度も触れてきたが、私は元記者だ。自分の足で街を歩き、人々の話を直接聞かないと原稿が書けないタイプの作家だ。ということで、新たな連載に向けて物語の舞台となりそうな場所へ出かけ、街の空気に触れ、地元民の声を聞いてきた。
遠出して街を歩けば腹が減る。特に私は食への執着が人一倍だ。厄介なことに、全国チェーンのコンビニやファミレスで食事するのがとても苦手なので、いつも取材に行くと地元食堂や居酒屋に繰り出す。
今回の新連載向けのロケハンでとりわけ気に入ったのが、山形県山形市の小さなラーメン店だ。

総務省が今年二月に発表した二〇二四年の家計調査では、山形市のラーメン消費量は三年連続で日本一を記録した(二位は新潟市、三位は仙台市)。
ちなみに一世帯あたりのラーメンの年間支出額は二万円を超える。要するに麺食いの街だ。ロケハンであちこちを回る途中、私の腹が猛烈に鳴り出した。街のそこかしこからラーメン店の煮干しや鶏ガラ、豚骨の匂いがこぼれ出していたからだ。
地元民のオススメで一軒のお店へ。開店間もないのに、二〇名近い行列ができていた。あいにくの雨だったが、店の中から魚介出汁の芳醇な香りが漂うので、三〇分近く待つことに。結果、大当たり。鯛とアサリから抽出した出汁が旨みの塊なのだ。そして極太でコシが強い麺との相性もバッチリ。山形は太くてコシが強く、かつ真っ黒な蕎麦が多いエリアだが、このお店の麺はご当地蕎麦の雰囲気を強く感じさせる一杯だった。





山形市のほか、仙台市、塩竈市も回った。そして宮城南部の村田町では、大好きな一軒宿に行き、地酒と山菜、そして源泉かけ流しの風呂をたらふく楽しんだ。
まだどこをメインの舞台にするか決めかねているが、それぞれの街で食べた一杯、一皿は私の脳内に強烈な印象を残してくれた。
テレビのMCの仕事を始めて以降、東海や関西へ出張する機会が激増した。かつて東北を舞台にした作品を多く書いてきた私は、今回のロケハンで〈やっぱりみちのくはいいなあ〉と強く感じ、帰郷した気分になった(他のエリアが嫌いなわけじゃないので、念のため)。
次のロケハンでは、何を食べようかな(こればっかりだよ)。



勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!
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