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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

2025.10.18 公開 ポスト

#67

やっぱりみちのくはいいなあ 東北ロケハン編相場英雄

使用機材<FujifilmXhalf,BMW220i coupe>

〈絶対に連載を途切れさせてはいけない〉

二〇年近く前、作家デビューが決まった際に業界の大先輩から言われた一言を、私は忠実に守っている。

作家の大まかな収入構成は以下の通りだ。

〈雑誌(文芸誌、月刊誌、週刊誌等々)に作品を連載する〉→〈連載終了後に単行本を刊行〉→〈文庫本を出版〉

連載時は原稿料を頂戴し、単行本と文庫本が刊行されたあかつきには、それぞれ印税をいただく。そもそも雑誌等の連載がなければ、日々のお金が入ってこない(日銭は大事だよ)。その上、単行本を出す元ネタがない。もちろん、多くの読者に届く文庫本など出ないのだ。

毎日コツコツ原稿を書き、連載の締め切りに間に合わせるのが作家の仕事であり、日々の糧を得る基本的な手段だと大先輩が教えてくださった。

前置きが長くなった。

今回のテーマは、ロケハンだ。現在、G舎の文芸誌で『水の女王』という最新長編の連載を開始したばかりだが、実は年末にかけて別の出版社で新たな連載の開始を控えている。

本欄で何度も触れてきたが、私は元記者だ。自分の足で街を歩き、人々の話を直接聞かないと原稿が書けないタイプの作家だ。ということで、新たな連載に向けて物語の舞台となりそうな場所へ出かけ、街の空気に触れ、地元民の声を聞いてきた。

遠出して街を歩けば腹が減る。特に私は食への執着が人一倍だ。厄介なことに、全国チェーンのコンビニやファミレスで食事するのがとても苦手なので、いつも取材に行くと地元食堂や居酒屋に繰り出す。

今回の新連載向けのロケハンでとりわけ気に入ったのが、山形県山形市の小さなラーメン店だ。

山形市の人気店、あっさりベースの中華そば。芳醇な鯛とアサリの出汁にノックアウト。

総務省が今年二月に発表した二〇二四年の家計調査では、山形市のラーメン消費量は三年連続で日本一を記録した(二位は新潟市、三位は仙台市)。

ちなみに一世帯あたりのラーメンの年間支出額は二万円を超える。要するに麺食いの街だ。ロケハンであちこちを回る途中、私の腹が猛烈に鳴り出した。街のそこかしこからラーメン店の煮干しや鶏ガラ、豚骨の匂いがこぼれ出していたからだ。

地元民のオススメで一軒のお店へ。開店間もないのに、二〇名近い行列ができていた。あいにくの雨だったが、店の中から魚介出汁の芳醇な香りが漂うので、三〇分近く待つことに。結果、大当たり。鯛とアサリから抽出した出汁が旨みの塊なのだ。そして極太でコシが強い麺との相性もバッチリ。山形は太くてコシが強く、かつ真っ黒な蕎麦が多いエリアだが、このお店の麺はご当地蕎麦の雰囲気を強く感じさせる一杯だった。

我が営業車で宮城・山形を駆け抜ける。二日間で900キロを楽々走破。蔵王から仙台平野をのぞむ。
ロケハン旅の最初は塩釜水産物仲卸市場で朝食。鮮度抜群の天然岩牡蠣を。運転手なのでノンアルコールビール。
塩釜のマグロはウマい。もちろん、中トロを破格の値段で海鮮丼に。
塩釜の市場で自作の海鮮丼。たくさんのお店から好きなネタをチョイス。東京で食べたら目の玉が飛び出す価格。
宮城沖で獲れた本マグロ。中トロがこの量で700円。都内だったら、一切れの価格。

山形市のほか、仙台市、塩竈市も回った。そして宮城南部の村田町では、大好きな一軒宿に行き、地酒と山菜、そして源泉かけ流しの風呂をたらふく楽しんだ。

まだどこをメインの舞台にするか決めかねているが、それぞれの街で食べた一杯、一皿は私の脳内に強烈な印象を残してくれた。

テレビのMCの仕事を始めて以降、東海や関西へ出張する機会が激増した。かつて東北を舞台にした作品を多く書いてきた私は、今回のロケハンで〈やっぱりみちのくはいいなあ〉と強く感じ、帰郷した気分になった(他のエリアが嫌いなわけじゃないので、念のため)。

次のロケハンでは、何を食べようかな(こればっかりだよ)。

蔵王連峰の中腹にある一軒宿。創業149年の超老舗の湯治宿。山並みを愛でながら貸し切り露天風呂。
一軒宿で地酒をいただく至福。もちろん、飲み過ぎました。。
宿の名物、仙台油麩汁。油麩と地物野菜、凍み豆腐の滋味深い味わい。一見豪華でバエる料理はないけど、最高のおもてなしを受ける。

 

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勝手に!裏ゲーテ 街場の旨いメシとBar

食い意地と物欲は右に出るものがいない作家・相場英雄が教える、とっておきの街場メシ&気取らないのに光るBar。高いカネを出さずとも世の中に旨いものはある!

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相場英雄

1967年新潟県生まれ。元時事通信社記者。主な著書に『震える牛』(小学館文庫)、『血の轍』、『KID』(ともに幻冬舎文庫)、『トップリーグ』  『トップリーグ2/アフターアワーズ』(ともにハルキ文庫)。近著は『血の雫』(幻冬舎文庫)、『レッドネック』(ハルキ文庫)、『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)、『覇王の轍』(小学館)、『心眼』(実業之日本社)、『サドンデス』(幻冬舎)、『イグジット』(小学館文庫)『ゼロ打ち』(角川春樹事務)、『マンモスの抜け殻』(文春文庫)。『覇王の轍』(小学館文庫)、『浸潤』(別冊文藝春秋連載中)

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