
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第44回 岡本雄矢『僕の悲しみで君は跳んでくれ』

共通した「忘れられない瞬間」がある。
学校祭の中庭のライブで見た、瀬川壮平の跳躍だ。
当時の仲間が同窓会と称して集まっていたある日、
母校の中庭がなくなるというニュースが。
もう一度、あの場所で、あの瞬間を共有したい!
しかし……。
不器用な青春を送り、不器用な大人になった
すべての人の心を揺さぶる青春小説。
皆さん、こんにちは。清酒よりも青春が好きなアルパカ内田です。
いや~、まさに抱きしめたくなるような作品。切にこういう物語を待っていた。冒頭から一気にエモーショナルな物語世界に没入。そして読み終えてしばらくは我を忘れ、興奮が収まらなかった。
こんなに身震いするような読書体験は、いったいいつ以来であろうか。理屈じゃない。素晴らしい音を、言葉を、風景を全身に感じて、何度読み返しても「やっぱりこの物語、好きだなあ」としみじみ思った。
かき鳴らされるエレキギターの「ジャーン」の音に何度も電流が走り、身体が自然に跳び跳ねた。五感を震わす描写の連続、仲間たちと一体となれるライブ感。これはぜったいにAIには真似ができない。体感すべき文学といえよう。
いい物語はけっして読者を置き去りにはしない。年代や場所は違えども、登場人物たちの中に、読者自身や自分を取り巻く人々の姿が見えることだろう。僕も確かにあの頃の自分に再会できた。これが本物の「共感」なのだ。
ともあれ、さすが「歌人芸人」の筆づかい。ままならなくて、もどかしくて、どうにもならない気持ちが、ものの見事に言語化されていて、ページをめくりながらずっと唸り、膝を打っていた。
名シーン、名ゼリフも盛りだくさん。とりわけ上空に飛ぶしゃぼん玉(垂直軸)、波打ち際の砂に書かれた文字(水平軸)の描写に心を打たれた。降り注ぐ言葉に沸きあがる感情。この一冊は、むき出しの青春模様を完璧に再現した、まぎれもなく僕らの物語なのだ。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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