村に住んで一年半が過ぎて、ふと気づいた。
わたしは村に友達がいない。
顔見知り程度なら数人いる。でもその人たちとだって、たぶんまともに会話したことがない。一番たくさん口をきいたのは近くの農園のおじいさん。おじいさんはわたしを「(夫の名字)さんの奥さん」と呼ぶので、わたし個人を認識しているわけではない。その次は図書館の司書さんか飲食店の店員さん。その二人はわたし相手にただ仕事をしただけだ。お互い名前すら知らない。司書さんはわたしの名前を知っているかもしれないけれど。
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愛の病
恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。