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極北でアートを学ぶ

2021.11.23 更新 ツイート

マイナス37度の世界で考える冷蔵庫の存在 吉村静

ドーソン・シティはここ数日で一気に気温が下がって、マイナス30度を下回る日が続いている。初めてマイナス30度を体感した日は「やった~!」とか、はしゃいでいたけれど、数日続いただけですでに「これ、私、冬越えられんのか?」と不安になってきた。

昨日はマイナス37度に達し、さすがに外に出る気がしなかった。外を歩くときは肌を露出しないようにマフラーなどで顔を覆う。そうしないと肌が寒さにやられてしまう。特にドーソンは空気がとても乾燥しているので、ただでさえ肌を露出したまま歩いただけでカピカピになってしまう。

 
まつ毛は凍るし、鼻の中も凍ってシャリシャリする。
外にある温度計はほぼマイナス40度を指している。

日照時間も短くて、日の出は午前11時、日没は5時だ。朝学校に行く9時過ぎは普通にまだ暗いし、毎日太陽の光なしで起きるのは難しい。アートスクールの課題で映像を撮るときも、日照時間を考慮して綿密にスケジュールを組まないといけないし、ちゃんと組んだとしてもマイナス30度だから長い時間外で撮影できないし、寒さで充電がすぐに無くなるしで、色々極北暮らしの洗礼を受けている。

でもマイナス30度の世界を映像に収める機会はなかなかないし、不自由さはあるけれど、クラスメイトと工夫しながらやりくりしている。

パートナーのルイスとクラスメイト。露出してるのは目の部分のみ。

ユーコン川の水もついに凍り、安全確認の取れたところを歩くのが可能になった。もう少ししたら「アイス・ブリッジ」と呼ばれる道ができるそうで、対岸への車での通行も可能になる。向こう岸はウエスト・ドーソンといって、300人ほどの住民が暮らしている。私も早速凍った川の上を歩いてみた。純粋に川の上に「立っている」ことに感動する。

川の上に立ったどー!
これが凍った川。水しぶきのうねりがそのまま氷になっている。

ウエスト・ドーソンにはスーパーなどがなく、川が凍る前はフェリーやカヌーで渡ることができたんだけれど、氷が流れてきてそれらが完全に凍るまでの約4週間ほどは他の世界から完全に隔離される。ある意味では静かな冬の休息期間みたいなものなのかな? とか想像するけれど、実際はわからない。

でもウエスト・ドーソンに暮らす人たちの生活が気になるから、今後、橋ができて向こう側に安全に渡れるようになったらぜひ住民の人たちに話を聞いてみたい。でもこの寒さの中で世界とさらに切り離されるってすごいなぁ。

夕暮れのドーソン。アート学校のすぐそば。

寒いとはいえ景色が美しいので、ほぼ毎日ユーコン川の横を歩いている。散歩中の犬たちはみんな寒さ対策の靴下を履いてるし、工事現場のコンクリートのトラックは凍らないように断熱材が巻かれている。車のエンジンはブロック・ヒーターというエンジンを前もって温めるものをみんな使ってるし、極北暮らしでの生活の違いが知恵を垣間見るのが楽しい。

木の枝も全部凍る。こんな寒いのに冬を超えられる植物たちはすごい。

そんな極寒のある日。家に帰ってきた時に、ふと冷蔵庫が気になった。ジーっていう電気の音と、どっしりとした四角いブロックの存在感。寒い世界から帰ってきて、やっとあったかい部屋の中に入って、ほんでまたその中にある一定の寒さをキープした空間があることへの違和感。こんな世界の果てみたいなところでのこの大きな人工物と一緒に暮らす不思議さ。もちろん冷蔵庫の恩恵に授かっているのだけれど、そのために電力も使うし、もし壊れたらリサイクルするの難しそうだし、それ以来冷蔵庫の存在が気にかかる。

この前見た夕焼けがきれいだった。

あまりに大きな自然の中にいるからか、もうすでに寒さがそこにあるのに、それをうまく利用できていない感じにもどかしさを感じる。でもある意味では人間って生活が便利になるようにいろんなものを生み出すの上手やなぁと改めて思った。ドーソンに暮らしていると、静かだからいろんな音や今まで気にならなかったことに五感が反応する。まだ11月でまだまだ冬は長いけど、でも極北の暮らしはシンプルで豊かだ。

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極北でアートを学ぶ

カナダへ移住して4年半。バンクーバーを飛び出し、私はドーソン・シティへ引っ越した。目的は、ビジュアル・アートを学ぶため。氷点下40度に達し、オーロラの見える極北の地で、どんな人と、どんな風景と出会えるだろう。ありのままの生き方を探す、ゆったりエッセイ。
[バナーデザイン:宗幸(UMMM)]

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吉村静

1987年、新潟県長岡市生まれのランナー。走歴25年。ランニング雑誌の出版社に勤めた後にカナダへ渡り、トレイルランニングやハイキング、日々のお散歩に没頭する。カナダで2年過ごしたのちに南米やニュージーランド、インドなど様々な国で写真を撮りながら旅をする。2019年からカナダの永住権を取得し、現在はバンクーバーで暮らす。トレイルランニング用品専門店Run Boys! Run girls!のウェブにてアウトドアスポーツのある生活を綴る「Tip of the iceberg Newspaper」という名のブログも更新中。バンクーバーのヌーディストビーチで開催される裸のランニング大会Bare Buns Run2014年大会女子の部優勝。

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