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「小説幻冬」編集部より

2021.11.23 公開 ツイート

「けんご重版」で注目の小説紹介クリエイターが語る。「若者の読書離れは偏見」!? けんご/松昭教

TikTok(ティックトック)で紹介した作品が次々とヒットして注目される、けんごさん。「けんご重版」という言葉も生まれるほどの影響力の持ち主に、創刊から「小説幻冬」のブックデザインを手がける人気装幀家の松昭教さんがインタビューしました。どうすれば本の魅力を届けられるのか、探っています。(小説幻冬11月号より転載)

インタビューアー/ 装幀家 松昭教  構成/篠原知存  写真/吉成大輔

小説の素晴らしさ、『白夜行』で知った

――私がけんごさんを知ったきっかけは村崎羯諦さんの『余命3000文字』のヒットです。新人の作家の方で、書店で凄く盛り上がっている訳でもないのに、続々重版して10万部を突破。最初は意味がわからなかった。けんごさんが紹介していたからだと知って、以来追いかけてきました。

筒井康隆さんの『残像に口紅を』がリバイバルヒットして、間違いなく本物だと。出版界に救世主が現れた! と思っています。小説を好きになった経緯を教えてもらえますか。

 

僕はいま23歳なのですが、小説を読み始めたのは大学1年の時です。高校時代より時間に余裕ができたので、お金が比較的かからないのに長く楽しむことができる、コスパの良い趣味が欲しかった。

最初に手に取ったのは東野圭吾さんの『白夜行』です。860ページある本ですが、時間はかかったけど最後まで読めました。物語の素晴らしさももちろんなのですが、読み切ることができたことにも達成感があって、小説っていいなと思えた。それからいろいろな作品を読み始めました。読書歴はまだ5年ぐらいです。

 

――小説との付き合い方は、5年前と現在とで変わりましたか。

 

趣味として読み始めたんですけど、昨年11月にTikTokで小説紹介を始めてからは、出版社の方や作家の方からの声なども届くようになって、ただの趣味ではすまないかな、と感じるようになりました。

すごく感動できたり、落ち込んでる時に励ましてくれたり、いろんな小説と出会えたので、僕だけじゃなくて多くの人に共有してもらいたい。何より小説に興味のない人とか、これまで読んだことがないっていう人に届けたい。小説の良さを知るきっかけになれたらいいなと思っています。

 

――小説紹介では「面白い」「感動」といった言葉を避けていらっしゃいます。

 

漠然としないように、何が面白いのか、何に感動するのか、きちんと明確にしないと、小説を読んだことがない人には伝わらない。なるべく具体的に言語化して伝えようと努力しています。

 

――例えば本の帯などで端的に伝えるのは効果的ではないということですか。少し前だと「泣ける」が多用されたりしていましたね。

 

僕自身、本を選ぶ時には帯に書かれた文章やあらすじを参考にしていますが、どの作品にも「泣ける」と書いてあったりすると、同じなのかなって思ってしまう(笑)。それよりは、他にあまりないようなものに惹かれます。楪一志さんの『レゾンデートルの祈り』も最初に帯を見た時、「こんなに苦しいのに、生きる意味ってなんだろう。」と書かれていてよかったです。そういうものを手に取りたくなります。

読んでいない人に目線を固定させる

――ではご自身が、TikTokで語る時に気を付けていることや意識していることを教えてもらえますか。

 

いま(10月1日現在)、26万人以上のフォロワーさんがいるんですが、意識しているのは、小説を読んだことのない人に、この動画を見て、読んでもらえるかどうかということです。目線はそこに固定しようと考えています。もともと小説が好きな人に動画を見ていただいて、また面白そうな本を見つけた、と思ってもらうことも、もちろん大切なんですが。

 

――読んでない人に向けて言葉を投げる、と。

 

僕も読むまでは、小説って長いですし、自分には読めないかなと思っていた。でも最初に手に取った『白夜行』を読むことができたんです。勝手な思い込みでした。いまは、100ページの作品も800ページの作品も、ただ短い長いがあるだけで、面白さは変わらないと思っています。

 

――紙の本はオールドメディアと呼ばれたりもします。電子化などもあって逆風だと思われているなかで、けんごさんの紹介でベストセラーが次々に生まれる。認識を改めなきゃいけないなと思いました。まだ売れる可能性があるのに、こちらの伝え方や考え方がズレていたのかもしれない。

 

若者の読書離れとか言われるじゃないですか。でも、若者だから読書をしないというのは間違っている気がします。アニメだったり漫画だったり、エンタメがたくさんあるなかで、小説って出会うきっかけが少ないだけ。映画だったら、好きな俳優やアイドルが出ているから見ようとか、漫画なら週刊少年漫画雑誌に好きな作家の別の作品が載っているから読もうとか、きっかけがある。小説ってきっかけが最も少ないエンタメなんじゃないでしょうか。

僕の小説紹介で『残像に口紅を』という30年以上前の作品が売れたように、きっかけさえ作れば読んでくれるはずです。

 

――実は私も『残像に口紅を』は読んでいませんでした。けんごさんのおかげで読んでみようと思った。いまの作品でも昔のでも、関係なく紹介していますね。

 

100万部や200万部のベストセラーを紹介する一方、どなたかのデビュー作も紹介します。僕にとっては、そこに何の違いもない。

「そんなベストセラーをいまさら紹介しても」と時折言われたりするんですが、読書未経験の人に向けて紹介しているので。「100万部突破」と言われても、読書経験のない人はわからないはずなんです。「ついに10刷」というのはもっとわからない。だから『残像に口紅を』も同じですね。30年以上前の作品でも、新しい気持ちで紹介しました。

 

――時間を凌駕している。作っている側は、刊行されて時間が経つと、古くなってしまっているような気がするけど、そうじゃない。時間に関係なく面白い本はずっと面白い。その面白さを伝えることができれば、いつまでも大丈夫かもしれないって、けんごさんの活動を見て感じました。作る側は鮮度が落ちると思っているけど、落ちないということなんですね。

 

ぐりとぐら』という絵本がずっと愛されているじゃないですか。小説だって同じことだと思います。

 

――書店では「ジャケ買いはしない」と、どこかでお話しされていました。デザイナーとしてはちょっとショックでして(笑)。カバーや帯は、けんごさんにはどのように映っているんですか。

 

僕自身は、購入する時にはあまり重視しないのですが、フォロワーさんはやっぱりカバーや帯というのをすごく大切にされていますよ。とくに中高生は、きれいなカバーやイラストの本を好んで手に取っている印象があります。

デザインは必要。イメージが膨らむ

――本のデザインって、そもそも必要なんでしょうか。

 

絶対に必要だと思います。重視しないと言いつつも、たとえば『レゾンデートルの祈り』は、カバーを見て、「あぁ、この子が主人公なんだな」と思い描きながら読ませてもらいました。情景描写などもイメージがしやすくなるので、すごく大事だと思います。

 

――デザイナーとしては、イラスト入りのカバーは作品内容を投影する手法の一つで、登場人物、キャラクター、世界観を提示している。それは伝わっている、ということですね。

 

もちろんです。僕はTikTokを始めるまではライト文芸を読んだことがなかったんですよ。でも、中高生ユーザーが多いTikTokというメディアで、小説の魅力を伝えていくことを考えているうちに、最初は見た目でもいいのかなと思えるようになりました。

人間も、可愛いなとか格好いいなとか、見た目から入るじゃないですか、中身とは関係なく(笑)。小説もそれでいいかもしれないと思って。もちろん、見た目はあくまでもきっかけで、結局は中身次第なんですけれど。

 

――では、本を購入する時は、どうやって選んでいるんですか。

 

あらすじですね。この続きを読んでみたい、と感じるかどうか。それで、たとえば10冊買って、これは面白かった、自分に合っていたって思える本は5割くらいです。読書を重ねていくうちに、これは合いそうだなっていうものはなんとなくわかっていきますよね。そういう気がします。

 

――デザインで気になった本はありますか。

 

村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』の真っ青に塗りつぶされたカバーを見て、「なんだ、これは」と思って手に取りました。有川ひろさんの『ストーリー・セラー』も良かったですね。これそのままプレゼントとして渡せそう、とか思って。

デザインって、初見でどうこうというより、読みながら、こういう意味があったのかって思って眺めたりとか、そういうこともあるかもしれないです。あと、部屋に飾っていてきれいだなと思ったり。

 

――本の形やサイズってあまり変化がありません。この形態で本当にいいんだろうかとも思うんですが、こうなったらいいのに、と考えたことはありますか?

 

そこまではあまり考えないですね。僕は電子書籍では小説を読まない。好きなのは単行本。持っておきたいので、それなら単行本、という気持ちがあります。

この形はこの形でいいんじゃないですか。本って質感や重さありきだと思います。僕はハードカバーがいいですね。硬さとか。たまに書籍になる前のゲラを読ませてもらったりするんですけど、あれはちょっと(笑)。

 

――そうですか。本って、意外と最終形なのかもしれないですね。

 

電子書籍では漫画は全然大丈夫なんですけど、小説は頭に入ってこない。それはきっと僕だけではなくて、漫画のアプリはいろいろなものが流行ってますけど、小説のアプリはあまり流行らないですよね。そういうことだと思うんです。

面白い作品だけ、紹介するルール

――けんごさんに対する信用や共感はどこから生まれていると、ご自身では思っていますか。

 

本当に面白いと思った、自分が満足した作品だけを紹介していることじゃないでしょうか。献本していただいても、何も約束はしませんし、頼まれてPRするようなことは、TikTokでは一度もやっていません。そこは大事にしています。

一読書好きの僕が薦めるのと、出版社が薦めるのには、紹介に見えるか、宣伝に見えるかの違いがあります。でも、それは仕方がないこと。小説に限らず、どこの企業でも、たとえば飲食業界でもそうですよね。そこは難しいと思います。

 

――SNSなどで本を紹介している人は他にもいらっしゃいますが、けんごさんの活動が話題になったきっかけはなんだと思いますか。

 

やはり、筒井康隆さんの『残像に口紅を』です。TikTokとかを見ていなかった大人の人も僕の存在に気づいてくださったので、大きなきっかけだったと思います。

僕自身は最初、『時をかける少女』から筒井康隆さんを読み始めたんです。それから『虚人たち』とか『残像に口紅を』とかも、すごく面白いと思って。紹介しようと思ったきっかけもたいしたことはなくて、何気なく本棚を漁ってたら、久しぶりに『残像に口紅を』が出てきて、これは設定も斬新で面白いから紹介してみよう、と。

 

――数ある作品の中から、どうやって紹介する作品を探しているんですか。

 

最近はよく献本もしていただけるので、まずそれは読みます。書店に行ったら単行本から見始めて、あらすじを確認して面白そうだなと思ったら買う。書店で選ぶことが多いですね。

 

「面白そう」より、「読んだ」を目指す

――インフルエンサーとして注目の的ですが、ここまで到達してやろうという目標などはあったのですか。

 

いや、まったく意図していなかったので、僕自身がびっくりしています。始めてから一週間も経たないうちに紹介した作品が重版して、「えっ!」と思いました。

ショート動画でも、うまく紹介すれば購買につながるんだとわかって、そのうちに「面白そう」と思われるだけじゃなくて、「読みます、読みました」がゴールかなと思い始めた。なので、重版というのは指針になっています。

 

――話題を集めるようになったいま、自分の役割や活動について、次のステップをイメージされていますか。

 

僕としては、なるべく長くこの活動を続けることかなと思っています。SNSは流行りも廃りも早い。今日紹介する作品に一生懸命に取り組んで、多くの人に届けられるように工夫していきたい。

 

――本のインフルエンサーを目指している人にアドバイスをいただけますか。

 

作品のことを考えること。自分が有名になろうとするのではなく、まず作品を届けようという気持ちがあればいいと思います。

僕の活動も、作品の力、作家さんの力、出版社さんに魅力的な作品を出す力があったおかげで、こうなっている。主役は作品と作家さんだと思っています。

 

――自分にあった本の探し方とは。

 

本は読んでみないとわからないところがあります。気になった作品はとりあえず読んでみること。僕も最初、まったくわからないところから始めて、読んでいるうちになんとなく自分の好きな作品というのがつかめるようになってきました。

まったく初めてでさっぱりわからないときは「とりあえず本屋大賞から選んで」って言ってます(笑)。

 

――本の商品価値については、どう考えていますか。

 

エンタメって、誰の人生にも必要不可欠なもの。衣食住とか、そういうものと同等だと思います。エンタメがない人生なんて考えられない。ずっと仕事とか、ずっと飯食って寝てるとか、面白くないじゃないですか。人生はエンタメありきだと思っています。

だから、本というのは、これからも変わらずにあり続けるんじゃないでしょうか。1冊手元にあったら、すごく長い間、充実した時間を過ごせる。

 

――本をどこで買っていいのかわからない人がいます。僕らは本屋さんで買うのが当たり前だと思っていました。ネットでものを買うのが当たり前の世代には、本屋という概念もあやふやになっているんでしょうか。

 

そこもきっかけだと思うんです。いままで本屋さんに行くきっかけがなかった人がいるだけです。本が本屋で売ってることも知らないの、っていうのは、僕に言わせたら、ただの本好きのエゴ(笑)。僕は野球好きですけど、たとえば大谷翔平選手がいるエンゼルスの4番が誰だか知ってますか? それと同じだと思うんですよ。機会がなかった人が本屋さんに行ってみたら、こんなに素敵なところがあったんだって気づいてくれるかもしれない。そこがスタートだと思います。

僕は動画の冒頭の3秒間ぐらいをものすごく意識しています。そこで興味を持ってもらう。本の帯の惹句もそういうことに近いかもしれないです。

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けんご

1998年9月17日生まれ。2020年11月下旬よりTikTokで動画投稿を開始。

松昭教

京都精華大学ビジュアルコミュニケーション学科卒業。bookwall代表。デザイン事務所勤務を経て独立、2009年にbookwall設立。

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