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キリ番踏んだら私のターン

2021.10.10 更新 ツイート

その愚痴、体内熟成させてませんか? 長井短

10月ってことは今年も佳境ですけど、皆さんいかがお過ごしですか? 

良いことも悪いこともいっぱいあったなぁ……。ありがたいことに年々忙しくなっているので、今年もしっかり目が回って死にそうになりました。あぁ…生きるの超大変…

できるだけ、人に話すのは良いことにしたいと思って生きているけど、やっぱり限界はあるので、いろんな人に愚痴を聞いてもらいながら過ごしています。スッキリする反面、愚痴るのって疲れんだよな。

 

そもそも「嫌だったことを思い出して言語化する」っていう作業がめちゃくちゃストレスになるから、出来れば愚痴なんて言いたくない。でも一人で抱えていても胃に穴が開くだけだってことを私は経験済みなので言うようにしてるんだけど。どうしたらもっとストレスなく愚痴を話せるようになるんだろう。目下の課題をテーマに今月はお送りします。

愚痴ったのにスッキリしないこと、ありません?

ただでさえ腹が立ってたり悲しい思いをしているのに、それを人に話すときにもう一度ダメージを喰らうっていうシステムに納得できない。嫌な思いはもうしたんだから、そのことを人に聞いてもらう時くらい癒されたいのに。事情を知らない友人に話を聞いてもらうために、登場人物を紹介、関係性を説明、あ、そもそもなんで知り合ったのか環境の話もしなきゃ。全てのセットアップが終わったところでようやく本題に入る。

でももう、この時点で結構な時間私はしゃべってしまっていて、あれ? 話長いかな? 退屈に思ってないかな? 不安が押し寄せるともう遅い。私は一番話したかったはずの「辛かった時間」についての描写を短縮して、重すぎない、なんとなく笑えるくらいの小咄に落ち着かせる。そうすると当然聞き手のリアクションは軽やかなものになって、あれぇ…結局全然愚痴を言えてないじゃん…

「話長いかな?」って不安が押し寄せてこなくてもうまくいかないことは多い。正直に気持ちを打ち明けられると、今度は別の不安が押し寄せる。

「私の性格…悪すぎ?」

愚痴を話している時点で、相手とはそれなりの信頼関係があるけれど、だからこそ、嫌われたくないとか引かないでほしいっていうブレーキがかかってしまう。こっちのパターンは本当にタチが悪い。ブレーキは「相手を庇う」という方法として出現してしまうのだ。

「いや、悪い人じゃないとは思うんだけど」だとか「向こうの気持ちもまぁわかるはわかるんだけど」みたいに、何故か相手を尊重してしまう。するすると出てくる肩持ち言葉は止まらない。一体私の体のどこにこんな言葉が眠っていたのだろう。そして、心にもない言葉達は真っ直ぐに私を傷つけるのだ。

楽屋の窓から外を見たら綺麗に室外機が並んでいて可愛かった。誰の目にも留まらない場所で淡々と働き続けてて偉い。

上手に愚痴を言えない。嫌だったことを、身内にくらいめちゃくちゃ口汚く話したいのに。どうしてもブレーキがかかってしまって発散できない思いは、私の体の中で増幅していく。さっき口にした「悪い人じゃない」って言葉をかき消すために、心の中で何度も嫌だったことを思い出して「だからやっぱ悪い人なんだ」って自分に言い聞かせる。この時間が一番自分を疲弊させるってわかっているのに。

胃に穴をあけないために私がとれる方法はこれ

以前書いた「完璧な自分でいたい」っていう欲求が、私をそうさせているのかもしれない。愚痴を言うにしても「絶対にこの愚痴を肯定してほしい」とか「私は間違っていないと感じたい」みたいな「スッキリしたい」とは別の望みが頭をもたげてしまうから、私は「愚痴を言う」って行為に集中できない。胃に穴が開いたのはきっとこういうことの繰り返しの結果だろう。

なんとかしたい。普通の胃でいたい。たぶんその為には、望みを叶えることとその対価を受け入れなければいけないんだと思う。

私には「愚痴を言いたい」という欲求がある。これが一番の欲求だ。それを叶えるならば、「この愚痴で引かないでほしい」とか「嫌わないでほしい」みたいな、あわよくばどうかひとつ…っていう図々しい気持ちを捨てるべきだ。「愚痴を言う」っていう欲求を叶えるための対価を支払うべきなのだ。「話したことで嫌われる可能性」が対価にあたる。嫌われることを恐れて自分の中だけで抱えていくのか、嫌われてもいいから文句を言うのか。二つに一つだ。私は、出来れば後者を取りたい。

誕生日に幼馴染が、信じられないほどキュートなバルーンをプレゼントしてくれた。自分じゃ絶対買わないし、これを私にあげようと思うのはあいつくらいだと思う。最高。

あなたのその怒り、どれくらいの愚痴レベル?

何にでも簡単に怒ったり、すぐに「嫌い!」って思うのは違うと思うけれど、自分の気持ちを明確に捉えることは大切だと思う。誰にでも、絶対にある「これだけは許せないのだ」っていうこと。自分にとってのそれはなんなのか。この怒りは本当に許せないことなのか。

確かめるのは難しい。でも「大事な友達に嫌われるかもしれないけどそれでも愚痴りたいか」って視点で考えると、答えは出やすい気がする。

「2時間待たされた怒りで友達を失うのは嫌だけど、えぇ女やな~とかキモい口叩かれた怒りで失うのなら仕方ないかも」

仕方ないと思えたなら、あとは真っ直ぐに話すだけだ。それで友達との関係がどうなるかわからないけど、少なくともこの方法なら体は壊さないだろうし、自分の正義に背くこともない。愚痴るならそれなりの覚悟を持って、堂々とはっきり怒りたい。その先に待っているのは、それでもそばにいてくれる超頼もしい友達と健康な体だと信じて。

*   *   *

次回は11月10日公開予定です。

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キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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