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キリ番踏んだら私のターン

2024.03.24 公開 ツイート

中堅の役割って、権威(a.k.a 領域展開)の破壊じゃね? 長井短

今年に入ってから、すごい速度で「はじめまして」をやっている。いったい何人に出会ったんだろう。そのほとんどが名前を覚えることができないまま、特に雑談もしないままさよならしてしまったけれど、出会ったという事実に変わりはない。

少し前までは出会う人みんな年上だったのに「同じくらいかな?」と感じることが増えた。もうまもなく、私は中堅になるんだろうか。いやいやまだまだかな。まだまだだといいなと思うけど、相手によってはすでに私って中堅なわけで、だからちゃんと、堂々とするってことをできるようになりたい。

 

堂々としている人は多い。背広を着たプロデューサーや、美しい生地のジャージを着た先輩、年季の入ったジャンパーを着ている技術さん。服には社会的地位が出やすい。そして空気には権威が宿る。本人のオーラとか雰囲気からは感じられなくても、その人を取り巻く人々の視線や立ち姿から、権威は可視化される。どうして?ってくらい気を遣われている先輩達の、本能の姿を私はたまらなく知りたい。

そのためにはまず、外堀から発生している権威をぶち破らないといけないわけで……今回は「中堅の仕事って権威の破壊なのでは?」という思いつきについて考えてみます。正しいのかはまだわかんないけど、要するに領域展開を外側から破壊してみない?って話です。

こんなんモノリスじゃん。宇宙人とか未来人が見たら意味出ちゃうぜ。

「格が違いますから」って取り巻きたちの態度がこわい

内側からの攻撃には強いけれど、外側からの攻撃には弱い。それが領域展開である。脱出はほぼ不可能、しかし侵入は容易い。これってさ、これってマジ、権威じゃない?

権威の多くは、本人より取り巻きによって作り出される。もちろん、本人にとんでもないオーラがある場合もあるけれど、それはあくまで「オーラ」であり「風格」「凄み」「カリスマ性」のようなものだ。つまり、それ自体に攻撃的な威圧感はない。従わないといけないと感じるような圧はなく、むしろ「ついていきたい」的な、こちらの能動的かつポジティブな感情で尻尾が揺れるだけである。

それに対して「権威」はどうだ。怖くない? 辞書で意味を調べると「すぐれた者として他人を威圧して従わせる威力」って書いてあってだからこえーよ。威圧とかしない方がいいよマジで、時代とかじゃなくてシンプルに。

権威があるな、と感じる人に沢山出会ってきた。そして、術式・権威の人間は2種類に分かれる。

1 本人がはっきりと権威を振り翳している術師

2 権威に受肉された受肉体としての術師

1の人たちは私はっきりと苦手。ここで論じるまでもなく、付き合ってくの大変だよね。きっと寂しいんだと思う。あと怖がり。強くなれるといいね。

問題は2だ。受肉されてしまった人間。この人たちはほとんどの場合、実際に2人で話してみると驚くほど話しやすく優しい人が多い。問題は周囲、権威の呪霊達にある。呪霊達は群れで人間を囲み、担ぎあげる。本人と話すためにはまず、4、5人いる呪霊をかき分けなければいけなくて、この時間がとても辛い。

つむじから爪先まで舐めるように視線を寄越す呪霊、聞こえているのに聞こえていないふりをする呪霊、ライバル校の生徒みたいに遠くからじっと見つめてくる呪霊達、私の声を遮る呪霊、受肉体の言ったことに過剰に大きな声で笑う呪霊などなどなど……大疲弊である。

こんなに疲れんならもういいわ別に話さないでってコミュニケーションを諦めた若手は数知れない。だって別に、こっちだって嫌な思いしたくないからね。せっかく一緒に仕事するならお喋りしたいな、楽しい時間を過ごしたいなって思っただけなのに「格が違いますから」みたいな態度を、しかも本人じゃなく取り巻きに取られるくらいならいいよ。

どうしてこんな呪霊がいるんだろう。本人を守るためとかってことになるんだろうけど、それ逆に孤立させて追い詰めてない? 束縛強い恋人かよ。囲い込まれると人間碌なことないのに。

きっと、呪霊達も最初は良かれと思ってやっていたんだろう。本人が嫌な思いをしないようにとか、円滑に仕事できるように、疲れないように。でもだんだん、呪霊達は自身が作った権威に飲み込まれてしまった。思いやりは不遜な態度に変わり、守るために作った壁は攻撃になる。他者を威圧して、跳ね除けて、出来上がった心地よい空間は誰のためのものだろう。

孤立と優遇は違う。壁の中にいると、それに気づけないのかもしれない。自分達を覆う領域が、外から見てどれだけ異常で威圧的な権威を帯びているか。それによって周りがどのくらい怯えているか。何より不幸なのは、その領域の中心にいる、何もしていない本人には、決して現状が見えないことだ。

領域展開を破壊する……中堅の出番だ!!!

さて、中堅の出番である。若手は恐らく、必死にコミュニケーションを取るうちに領域を展開されてしまうだろう。一度中へ入ったら最後、脱出は不可能だ。もう対等でピースなコミュニケーションを取ることは難しい。領域展開している術師と同等の術師の場合も、同じように領域展開してしまい領域の押し合いになるので事態の打開は難しい。

ここで最も活躍できるのは、一番中途半端な存在、中堅。中でも「そろそろ中堅なのかな……?」と悩む程度に新人寄りの四級術師(三級昇格審査中)だ。新人四級術師と違って、相手に特攻することはなく、かといって二級・一級のように堂々と張り合うこともまだできない。だけど実践経験はそれなりにあるため、新人よりはコミュニケーションのタイミングを測れるしそれなりに知り合いも多い。

やるしかない。俺がやるしかない。俺達が外から、領域を叩くんだ!

絶対に領域の中には入らない。取り巻き呪霊のそばにも近づかない。ご本人が一人でいるタイミングは少ないが、今の俺たちならそのチャンスを確実にモノにできるはずだ。ふらりと一人立ち上がったが今。すかさず背後を取る。そして、できるだけリラックスした態度で声をかける。「聞きたいことあるんですけど~」基本的に、権威に受肉されている人間は優しい。だからきっと、こちらが相談を持ち掛ければ答えてくれる。この時の質問は呪霊達が介入できない事柄が良い。「この映画見ました?」のように他の人間にも回答可能な質問でなく「あなたはどうやって〇〇しているんですか?」のような質問だ。そんなパーソナルな!と思うかもしれないが、この大胆さと距離感のバグがないと領域を破れない。大股かつ踊るようなテンションで、権威のさらに外側から声をかけることができれば、領域は確実に破れる。

一度領域が破られると、驚くほど状況は変わる。向こうから話しかけてくれるようになるのだ。そうなると権威呪霊達は何もできない。なんせ本人が動いているんだから。こうなったら勝ちだ。話の流れで周囲をどんどん巻き込んで、ゆっくりと丁寧に、埋め込まれた権威を取り除いていけばいい。少しずつ、本人を覆っていた不必要な圧力や異常な勾配が消えていく。

そうして最後に残るのが、美しくて力強い、心から尊敬してしまうようなその人自身の風格だ。私はあなたが大好きになって、あなたも少し、笑ってくれたら嬉しい。

圧出さなくても気遣うし、裸でも尊敬するよ。だから安心してよ、なんて、呪霊達に言えないし、きっと言葉も通じない。それでもやるのだ。失礼だって思われてもいい。呪霊に攻撃されたって構わない。不健康な権威にまみれた仕事場なんて大嫌いだ。誰も幸せじゃないはずだ。破壊破壊。破壊がきっと私の仕事で、明日もぶっきらぼうに声をかける。みんなでやろうみんなのために。いらん壁は全部壊して、もっといい環境を。30代にできることを。

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キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短 女優・モデル

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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