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キリ番踏んだら私のターン

2023.05.24 更新 ツイート

みんな最近、音楽を「ちゃんと」聴いてる?~KOSS PORTAPROを買ってみた~ 長井短

ゴールデンウィークも明けて、出口の見えない労働の毎日が再開したね。みんな……無事? 私は結構ぐったりしているよ。ようやく春が来て、天気が良くて、こんな日にはビール飲みながら洗濯機を5回転したい! と思うのに現実はいつでも仕事……あぁ……天気と違ってどんよりした心をどうにか晴らそうと、最近ある買い物をしました。

それは有線ヘッドフォンである! この! 令和という時代に! 私はめちゃくちゃ不便な有線ヘッドフォンを買いました! これが本当に素晴らしい買い物になったので、今日は皆さんに不便さが生む素晴らしさを伝えたいと思います。

 
久々に雀荘で麻雀を打ったらどえらいことになった。怖かった。最近頑張ってたからそのご褒美かな?他のもんがよかったです。

「音楽を流すためだけの機械」ってのがありまして

初代iPodが発売されたのは、2001年のことだったらしい。当時私は8歳だ。その4年後、12歳の時、私はiPod nanoを手に入れた。それまで、CDウォークマンMDウォークマンを持ち歩いてスカして歩いていた私に訪れた革命……! それ以来「No Music No Life」ってそこら中に書いていた黒歴史はそっとしておいてください。

それから4年後、高校生になった私は携帯をiPhoneに移行。遂に私は、長年連れ添った「音楽を流すためだけの機械」さよならをすることとなった。それでも、私の耳にはずっと、有線のイヤフォンが刺さり続ける。絡まって断線したり、時にはちょっと高いオーディオテクニカの大きいヘッドフォンを買ってみたり。

Bluetoothのことを考え始めたのは、iPhoneからイヤホンジャックが消えた時だった。ふざけんなよって友達と一通りキレた後、仕方なくBluetoothイヤホンを買ったのだ。最初のうちは「なんか気取って見えるな」とか「スパイ気取りだな」って照れていたけど、すぐにそんな感情は消えた。

だって、めちゃくちゃ便利なのだ。もう鞄の中で絡まったりしない。イヤホンをつけたまま立ち上がったせいで、iPhoneが落下することもない。そして何より革命だったのは、耳元を触るだけで次の曲に移動できることだった。そういえばMDウォークマン時代もその機能ってあったけど、あの頃はカセットを厳選して持ち歩いてたからそんなに使いたくならなかった。それが今はどうだろう。サブスクのおかげで、一台の中に無限の曲数が収まっている。それをランダム再生していたら、そりゃ飛ばしたい時もありますよ。

こうして私は、いつでもワガママに音楽を楽しめるようになったのである。

音楽を聴くことが下手になっていた

耳に手を伸ばすだけで魔法みたいに曲を変えられることが当たり前になって数年が経ったある日、仕事先でスタッフさんに質問された。

長井さんって好きな音楽何?

……え? 好きな音楽? えっと……よく聞いてるのは、いやでもよく聞いてると好きはまた別か?

最近何聞いてる?

えっと……なんだろう。スキップが簡単になったことでいつしか私は、音楽を「聞く」っていう行為が下手になっていたことに気づく。昔はアルバムを一枚手に入れたら、途中にピンとこない曲があったとしても一度はきちんと最初から最後まで聞いていたのに、今ではどうだろう。

「違うな」と思ったら、スマホを出すまでもなく曲をスキップ。良いと思う曲のイントロがくるまでスキップし続けたらいい。お気に入りの曲からステーションを作成して似た曲を探す、といっても探しているのは私じゃなくて機械だ。曲名もわからないままただ音を垂れ流す日々……。

こうやって振り返ってみると、ここ数年自分がいかに雑に音楽を聴いていたかがわかる。え、悲しい。私合唱団入ってたしバンドもやってたし、それなりに音楽好きだったはずなのに……ちょっとスキップを禁止しよう。「乗れないな」と思う連載漫画を一応毎週読んでおくみたいに、音楽だって最後まで聴いてみよう。そう心に決めても、育まれた癖というのは中々抜けなくて、無意識のうちに手は耳に伸びる。

そんな私を救ったのがこちら!「KOSS PORTAPRO」なのです!

超不便だからこそ、音楽を「ちゃんと」聴ける

そもそも耳元にリモコンがあるからスキップしちゃうんだと思った私は、原点に戻ろうと有線ヘッドフォンを探す旅に出た。

イヤホンジャックのこととかだるいけどでも、やっぱりこの長くてうざったい線って可愛いものだなと、ディグるうちに感じ始める。視聴しないとわかんないと思いながらスクロールを続ける私の視界に飛び込んできたKOSSのヘッドフォンはもうフォルムに一目惚れで、これにしようとすぐに決めた。しかも調べてみると、このメーカーのヘッドホンは、70年代に、アメリカのスタジオモニターヘッドホンとして活躍していたらしい。なんかいいじゃんそれ。久しぶりにジャキジャキのギターロックを聴きたいかも。

ネットでポチったKOSSはすぐさまうちにやってきて、いざ、お手並み拝見。頭を挟むヘッドホンの窮屈さが懐かしい。それに、オープンイヤーならではの開放感があった。最初に聴く曲は何にしよう。スマホを開く。やっぱレッチリ? いやオアシス? ブラー? あーでもサニーデイも聴きたいし……てか、こんな風に「何を聞くか」を考えるのはいつぶりだろう。何万曲も詰まったこの小さな機械の中から、一曲を選ぶってことにこんなにドキドキできるってことを私はすっかり忘れていた。どうしよう、もう既に楽しいかもしれない。

ようやくこれにしようと決めた一曲は、ウィーザーの「Island in the sun」だった。

再生ボタンを押すと、耳の中っていうよりも外、マジで私の周りでみんなが演奏している。まさにスタジオの中にいるみたいな感覚だった。懐かしい。バンドやってる時ってこうだったよな。こんな風にみんなの音が反響しながら聞こえてたよな。探せばすぐに、全ての楽器の音が見つかるんだよ。みんなで作っているんだよ。音楽ってこうだった。どうしてこんなシンプルなことを忘れちゃってたんだろう。泣けてきそうだった。

KOSSのヘッドフォンはオープンイヤーだから音漏れも激しいし、有線だしリモコンもないから超不便。だけど、音楽がどんなものだったかを教えてくれる。最近はなんか「開始15秒以内に掴まないといけない」みたいな流れも音楽業界にあるみたいだけど、そんな風にさせてごめん。スキップしてごめん。ザッピングみたいに聴いてごめんね。これからは私、昔みたいに一曲一曲を大切に聞こうと思います。この音の先にいる人間の姿を想像できるのが、不便でかさばる有線ヘッドフォンの素晴らしさ。

みんなも是非試してみてね。

これがそのヘッドフォンだ!!可愛すぎない?しかもこんなに小さくなる。お利口すぎる。

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キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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