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平熱のまま、この世界に熱狂したい

2021.06.17 更新 ツイート

後編

「優しさは打算的でいい」と弱さにこだわるライターが思う理由 竹田信弥/宮崎智之

宮崎智之さんの話題の書籍『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)は、自分の弱さと日常に目を凝らすことがもたらす創造性を描いたエッセイ。随所に引用された文学作品は、魅力的な読書案内にもなっています。『めんどくさい本屋 ―100年先まで続ける道』(本の種出版)の著者で、東京・赤坂の書店「双子のライオン堂」の店主・竹田信弥さんと開催した対談イベントの後編は、『「強い」言葉を「弱い」言葉に換えて、日常を生きる』というテーマをさらに深掘りし、言葉、優しさ、楽しさ、そして本屋をめぐる問題について議論が交わされました。イベントの一部を加筆・再構成し、白熱の後編をお届けします(司会進行/本の種出版・秋葉貴章)

「言葉」の素晴らしさと危うさ

――前編では、それぞれの文学に対するスタンスについてのお話がありました。

宮崎 竹田さんの本には「文学の敷居を下げたい」といった内容も書かれていますよね。

竹田 そうですね、文学の敷居を下げるとはどういうことか、自分でもいろいろと解釈が難しい、不思議な言葉ですけど、大学卒業するときに作家の伊井直行さん(※当時は東海大学文学部文芸創作学科教授)が仰っていたのが、「君たちは、4年間は文学を通して社会を見てきた、次は社会から文学を見るんだよ」と。この反復運動をしていくことによって、文学者にならなくても文学を生活の中に入れて生きていくことができればいいよね、と話をされていて。その言葉と宮崎さんの本の書き方に、すごくシンパシーを覚えています。僕のポリシーというか、座右の銘みたいな感じで心に刻まれていたので。

宮崎 なるほど。僕の場合、今まで文筆業を続けられているのは、きっかけは大したことないものだとも思っていて。誰かに文章がうまいと褒められたりとか、そういうものがはじめにあって、ずっと続いてるって感じもしています。大人になるとそれらしい物語を仕立ててしまいがちだけど、割と純粋に、たとえば前編で話した父のエピソードで言うと、父が褒めてくれるし、「朝日小学生新聞」にもまぐれで載ることがあったんですよ。やっぱり、うれしいんですよね。子どもだからなおさら。さらに言えば、僕は現金なやつだから、載るとビックリマンチョコを三つくれるルールがあったりしたことを覚えています。だから褒められたいとか伝えたいとか、単純な動機がいまだにあると思っています。もちろん、生活していかなければいけないので、シビアな面もありますけど。
 
竹田 その感覚は、すごくわかります(笑)。

宮崎 僕のほうから話を振ってみたいのが、今日のお題としていただいた『「強い」言葉を「弱い」言葉に換えて、日常を生きる』の「強い」言葉というのが、どういう言葉なのかなって思ったときに、言葉は概念を拡張できるものなので便利な、眼の前にないことでも考えられるわけだからすごいツールなんですけど、一方で気をつけないといけない部分というか、なんだろうな。実感というと少し……、完全に身体的なものでもないから正確な表現ではないかもしれない。

でも、僕の『平熱のまま、この世界に熱狂したい』には、自分が腑に落ちた言葉以外は使わないようにしようと思ったんです。意味が分かっているだけでは駄目で、自分の人生に根ざしたって言うと大げさだけど、ちゃんと自分の中で腑に落ちて使える言葉のみを使おうと思って言葉をセレクトしました。そうじゃない言葉を扱うときっていうのは、やっぱり何かの体験とか痛みとかに紐づいてないですから、非常にコントロールが難しいというか。端的に言うと、運用を間違ったら大変なことになるわけですよね。

打算的な「優しさ」と100年というスパン

――今のお話につなげると「優しさ」について書いた冒頭のエッセイが、すごく印象的でした。

宮崎 その「優しさ」って言葉に関しても、それが腑に落ちなくて、腑に落ちるまで考えた結果、打算的な優しさでもいいんではないかと思うようになり、そう書きました。「優しさ」って当たり前に使っている言葉でも、あそこまで考えないと自分の気持ちがよく分からなかった。優しさを発動し、それが打算的であったとしてもいいと思うんですよ。ただし、打算のサイクルの問題があって、「打算のスピード感」と僕は名付けていますけど、これが早すぎる場合は上手くいかないかもしれないとも思う。その点、竹田さんは双子のライオン堂を「100年続ける」って言っているじゃないですか。

竹田 そうですね。

宮崎 それぐらいのスパンでものを考えるのはいいですよね。100年後に返ってくるかもしれない、と。たとえば今、司会の秋葉さんを「素敵な眼鏡ですね」と褒めちぎり、明日利益を得ようとしたのに秋葉さんが利益をくれなくて、「ちっ、なんだよ」って思ったら、僕はただの嫌な奴じゃないですか。

――確かに(笑)。

宮崎 でも別に、そんなに急がなくてもいいだろうし。あと、余裕があるときは優しくできるけど、余裕がないときは優しくできない。だから、自分に余裕あるときは、そこになんらかの打算があったとしても、「別にそうなんなくてもいいかな」って思える程度のことならどんどんやっていこうかなと。

秋葉さんが深夜にツイッターで不安定な投稿が多い、またツイ消ししたみたいなことがあったときに、「秋葉さん最近どうですか、ちょっとお茶でもしませんか」とDMを送るくらいの優しさなら、いくらでもやればいいんですよ。そこで秋葉さんからDMが返ってこなかったとしても、「まあ今はちょっと疲れてるんだろう」くらいに思うだけで、ムカつかないじゃないですか。そんな感じで優しさを積み重ねていけば、もしかしたら死ぬ1秒前に誰かに優しくしてもらえるかもしれない。

だから100年続けるっていうのはある意味では標語で、100年後にここにいる人たちはおそらく存在していないんでしょうけれど、概念としてそれぐらいのスパンは面白いんじゃないかなと思いました。

竹田 スピード感とか、時間の軸っていうものの考え方で言うと、宮崎さんからは、スピードが速すぎる今の世の中を、もっとゆっくりスローで考えていこうみたいなスタンスが常に感じられます。

宮崎 単純に、僕が考えるのが遅いからっていうのもあって。本当はせっかちな性格なんです(笑)。

竹田 文学って、スピード感が自由というか。僕もそんなに、早く思考できるほうではないんですよ。だからのんびり考えちゃうところもあるし、急に焦ってギアが入っちゃうときもある。そう考えていくと、文学ってやっぱり個人個人に寄り添うものだから、僕たちみたいな人間には相性がいいかなって気はしています。だから、どうなんですかね、僕は打算というか、優しさとはちょっと違うかもしれないけど、100年って言うことによって……。

僕は最初(大学卒業後)、ベンチャー企業にいたんですけど、3か月で成功しろと。毎週、企画会議があって、企画を出すわけですよね。で、社長からOKが出てGOが出た瞬間に、3か月で成果を出せ、3か月で成果が出なかったら撤退する。「撤退するのには勇気が要るんだ」みたいなことをずっと言われ続けていて、そうなんだなと僕は思い込んでいたし、その時期は、スピード感をもって成果を出さないといけないんだとずっと考えていました。でも、リアルの本屋をつくる際に、その考えを捨てたんです。いや、いいとこ取りしたが正しいかも。「成果がすぐ出なくても いいけど、ダメなら撤退すればいいからやっちゃおう」みたいな。

もともと僕は「シェイクスピア&カンパニー書店」(※フランス・パリにある書店)が好きだったんですが、そういう本屋の歴史とかを見てると、3か月で何かを成したりとかはしないじゃないですか。もちろん、いろんな挑戦的なことはしてますよ。でも、根本的にやってること、考えてることがベンチャーとは逆で、大成功を求めるというわけではなくて、日々の生活をちゃんとしていけること自体が大事なんだなあという考えに、僕は本屋をやることによって切り替わったというか。

宮崎さんが前編で言ってくれたように勝ち負けではないし、成功だけが人生ではないと思うんですけど、100年あれば何かやりたいことが出来るかもしれない。言葉が難しいんですけど、本屋を100年かけて考える、リミットとして100年のボリュームを考えれば、僕でも本屋の正解を出せるんじゃないかなと今では思っています。

「楽しさ」で突破できる否定的な意見

宮崎 最近、『推し、燃ゆ』(※第164回芥川賞を受賞した宇佐見りんの小説)がヒットしただけではなくて、その前から「推し」って言葉がいろいろと使われていて注目されていると思うんですけど、竹田さんの『めんどくさい本屋』には「推し」という表現は使われていないものの、「お店を理解してくれる語り部と出会う」ことが重要といった内容が書かれていました。僕も文学部を出ているので、それについては本当にすごくよく分かるんです。語り部に恵まれた人が残るんですよね。

竹田 そうなんですよ、文学とかは絶対そうなんですよ。

宮崎 その最たる例が中原中也です。中也はとにかく語られますよね。いろんな人に。一瞬、会っただけでも語りたくなってしまう。そういう「語られる」みたいな発想がこれからどんどん、特にコロナ禍で偶然的な出会いが少なくなっている今、継続的に見てもらって、応援してくれるような方をどう増やしていけるかが重要になってくる。そういう意味では、双子のライオン堂さんは、文芸誌『しししし』を発行していて、あの文芸誌自体が竹田さんの活動報告でもあるような。つまりリアル店舗や文芸誌といった具体的な「場所」に竹田さんのやっていることや想いを集約させていって、そこを覗けば竹田さんの周りにはこういうプレーヤーやお客さんたちがいるということが可視化されている。

竹田 お店とかやっていると、ダイレクトに人が来て否定してくるんですよ。「そんなんじゃ駄目だ」って(笑)。会社員のときは、一方的に怒られることはあっても、お客さんと口論したり議論したりする機会はあまりないと思うんです。で、同僚とか先輩とか上司とかともめたら、絶望感がすごいじゃないですか。コミュニティが狭いので。でもお店をやっていると、そういうことも慣れてきちゃうというか。最近では楽しめるようにはなりました。

宮崎 いやあ、でも、うらやましいですよ。これは僕、いろいろな場所で何度も言っていることなんですけど、表現者にとって一番怖いのは、悪口とかではなくて無視されることですから。厳しい意見を言ってくださる方がいるのが、竹田さんの強みだと思う。強みというか、竹田さんが「弱さ」を素直に出せているから、「自分がなんとかしなければ」と言いに行きたいと突き動かされる人がいっぱいいるわけですよね。そして、竹田さんが凹みながらもアップデートされてく。本を読んでいてそんなふうに思いました。

竹田 まあ、全然慣れない部分もあって。メンタルが弱いのでその瞬間はすごく凹みますよ。無視されるされないの話で思ったのが、本屋って街に物質として存在しているから無視されにくいですよね。文学とか、文章は街に落ちてないから、どう気づかせるか。

宮崎 だから書店さんや雑誌などの媒体が必要なんです。あと、否定的な意見で凹んでしまうという話にかんして 言えば、そこを打破できるのは、やっぱり「楽しさ」なんじゃないかと思っていて。双子のライオン堂さんは楽しいですよね。楽しいことをやっているイメージがあります。お客さんも楽しそうです。

竹田 そう言っていただけてうれしい です。さっき話が途中になっちゃいましたけど、文学の敷居、ハードルを下げるって話をしたときに言い忘れたのが、ハードルを下げるというよりは、あのお店に行くと楽しいよ、楽しいところに文学があるよみたいな仕組みにしたいという思いがあります。入りづらいって言われているお店の入口にも自分なりの工夫があって、扉を開ける楽しみ、初めて開けるときのドキドキ、もう一度開けに来たいっていうドキドキも含めて、扉に思いを込めました。

双子のライオン堂の扉

宮崎 たしかに、あの扉は、まずどっちを……。

竹田 どっちを開けるの? みたいな(笑)。

宮崎 僕ははじめ、横にスライドさせようとしました(笑)

竹田 宮崎さんは、横書きの本をいっぱい読んでたんですね(笑)

宮崎 そんなことないですよ。僕は英語がすごく苦手なので、洋書はあんまり(笑)

竹田 楽しい場所にしてくってのは、本当に大事だと思います。

宮崎 そうですよ。まずは、本に携わっている僕たちが、楽しそうにしていることが大切だと思います。僕らがしけた顔してたら駄目ですからね、まあ生まれつきしけた顔してますけど、僕は。

竹田 いやいやいや(笑)。

宮崎 繰り返すと、僕にとって「楽しい」は、不快なことも含めてなんですよ。『平熱のまま、この世界に熱狂したい』で引用した、トルストイの小説『イワン・イリッチの死』(米川正夫訳、岩波文庫)なんて、読み終わった瞬間、壁に本を投げつけそうになりましたからね。「こんな酷い話はない」って(笑)。でもその小説について、もう十何年間も考え続けている。そういうことも含めた「楽しさ」を受け入れてくれる土台、器のような場所のひとつを竹田さんがつくろうとしている。『めんどくさい本屋』を読んでそう思いました。

「強い」言葉、「弱い」言葉ってテーマを回収すると、竹田さんがいまだに兼業にこだわってるのは、ある種、実体験とか実感とかそういうもの、自分が別の労働をする ことで世の中とより深く結びついている感覚。そういうものを失くしたくないからやっているんだと思うんですよね。僕なんかせっかちだから、もっと本屋にベットして賭けちゃえよとか思うけども、でもそれは竹田さんなりの生活と労働と仕事の組み合わせで、すごくいいなって思います。

ご著書でも、「強い」言葉、実感のない言葉で誰かを傷つけてしまうってことに敏感になりながら文章を綴っている。僕は専業ですけども、また違った部分で生活と仕事を結び付けています。だから、「強い」言葉を「弱く」換えるというよりは、自分が使える言葉をまずはきちんと使っていきたいなって思う。きちんと使える言葉を増やしていきたいです。

竹田 これからも楽しいことを、どんどんやっていきたいですね。

宮崎 ちょっと企画してみますか。新しい楽しいことを。

竹田 ぜひ! 本日はありがとうございました。

宮崎 こちらこそ。とても楽しい時間を過ごせました。

(おわり)

※イベントの様子は双子のライオン堂のYouTube チャンネルでご視聴できます。

 

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宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』

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平熱のまま、この世界に熱狂したい

世界を平熱のまま情熱をもって見つめることで浮かびあがる鮮やかな言葉。言葉があれば、退屈な日常は刺激的な場へといつでも変わる

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竹田信弥

1986 年東京都生まれ。双子のライオン堂店主。高校時代にネット古書店として双子のライオン堂を開業。現在赤坂で実店舗営業中。著書に『めんどくさい本屋―100年先まで続ける道 (ミライのパスポ)』(本の種出版)。文芸誌「しししし」発行人兼編集長。『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)構成を担当。共著に『これからの本屋』(書誌汽水域)『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)など。

宮崎智之

フリーライター。1982年生まれ。東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。日常生活の違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。著書に『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。
Twitter: @miyazakid

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