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平熱のまま、この世界に熱狂したい

2021.04.28 公開 ポスト

「“学び”の楽しさと心構えを教えてくれる本」――平熱の読書案内(2)宮崎智之

宮崎智之さんの話題の新刊『平熱のまま、この世界をに熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(幻冬舎)は、自分の弱さと日常に目を凝らすことがもたらす創造性を描いたエッセイ。随所に引用された文学作品は、魅力的な読書案内にもなっています。この連載では、「平熱の熱狂」を楽しむための2冊を、毎回のテーマにあわせて宮崎さんが選書し、ご紹介します。第2回は、「“学び”の楽しさと心構えを教えてくれる本」をどうぞ。

 

“学び”は先達の通った道を参考にしたい

◆『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(堀井美香、カンゼン)
◆『うひ山ぶみ』 (本居宣長、全訳注:白石良夫、講談社学術文庫)

「子どもの頃、もっと勉強しておけばよかった」と、大人になってから思う。“学び”とは本来、楽しいものであり、なにかを学び、考えを深めると人生が豊かになる。しかし、子ども時代はそうは思えず、大人になってから勉強の楽しさに気づく人は、きっと僕だけではない。

外出自粛要請が続くなか、“学び”の需要は高まっている。なにかを学ばないと、ひとりだけ取り残されてしまいそうな心持ちになるのが、その一因であろう。焦る気持ちはわかるが、そういうときこそ、先達が通った道を参考にするのがいい。堀井美香さんの『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』は、現役のアナウンサーである堀井さんが、新美南吉の『ごんぎつね』、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』を取り上げ、具体的にどう音読したらいいのかを指南してくれる一冊である。

本書は、「音読の効果」や「腹式呼吸での発声」といった内容にはあまり触れられていない(他の本を読めば詳しく書いてあるからであろう)。そのかわり、これでもかというくらい声の出し方や感情の乗せ方を細かく具体的に、かつわかりやすく指南してくれるのがいい

たとえば、蜘蛛の糸を登るカンダタが、下から這い上がってくる数限りもない罪人たちに気づく場面は、「〈罪人〉〈蟻の行列〉〈一心によじのぼって来る〉といった気味悪いワードはしっかり地を這うように出しつつ、感情の乱れは〈ところが〉〈まるで〉〈どうして〉〈もし〉などの音の高さを不ぞろいにして、踊らせてあげることで表現しましょう」と説明する。音読における自身の解釈を、まるで弟子に稽古をつけるように、寸分のくるいなく教えてくれる。

ちなみに、本書に収録された『ごんぎつね』の本文は18ページだが、音読にかんする説明には51ページも割いている。素晴らしいアンバランスさだ。堀井さんは、音読の解釈は人それぞれとしている。しかし、まずは堀井さんの解釈で会得してみたい。堀井さんの感じている世界を、この身体で体験したくなってくる。実際、堀井さんの解釈に従って音読を練習したあとに収録された作品を読んでみると、より深く物語を理解していることに気がつく。

一方、『うひ山ぶみ』は、『古事記』全編の註釈書『古事記伝』を記したことで知られる江戸時代の国学者・本居宣長が、学問を究めるようとする初学者に、方法や心構えなどを著した入門書である。主に、古学を志す者に向けて書かれた本だが、他の学問や現代でも通じる普遍的な内容も紹介されている。「うひ山ぶみ」とは「初めての山歩き」の意である。学問の広大な山林に飲み込まれ、道に迷わないためにもぜひとも読んでおきたい一冊である

たとえば、文献や書物を読むにあたって文意がわかりにくい部分に最初からこだわり、ひとつひとつ解き明かそうとするのはよくないと、宣長は考える。「難解なことをまず知ろうとするのは、たいへんよくない。平易なところにこそ心をつけて、ふかく味わうことをしなくてはならない」とし、「わかり切ったことだと思っていい加減に見過ごせば、微妙な意味が感得でき」ないと釘を刺す。なるほど。僕の拙い経験を振り返ってみても、その通りである。

そして、学問の大筋を理解したら、「なんでもいいから、古典の注釈を作るように心掛けるべきである。注釈は、学問のためには大いに有効である」とする。ここで思い出したのは、堀井さんの『音読教室』である。最終ページに掲載されている堀井さんの音読原稿には、まるで注釈をつけるように、びっしりと読み方や解釈のメモが所狭しと記されている。古典の注釈ではないが、ひとつの本を何度も読み込み、注釈や解釈を加えていくことは、その文章の解像度を高め深く本の世界を理解し、そこから派生的に関心や知識が広がるのにつながる。

最後に、宣長の以下の文章を引用して、読者と自分への励みにしたい。

(…)たいていは、才能のない人でも、怠けずに励みつとめさえすれば、それだけの成果はあがるものである。晩学の人でも、つとめ励めば、意外な成果を出すことがある。(…)であるから、才能がないとか、出発が遅かっただとか、時間がないとか、そういうことでもって、途中でやめてしまってはいけない。

“学び”には忍耐と継続が必要である。だが、その先には、まだ感じ得ぬ楽しみが待っているはずだ。不安定な社会情勢が続くなか、無理をしすぎて燃え尽きるのを避けつつ(まさに、途中でやめないように!)、「平熱」のまま“学び”と読書の楽しみに浸りたいものである。

(宮崎智之 Twitter:@miyazakid

お知らせ

2021/4/30(金)22:00~、オンラインイベントが無料で開催されます。
『めんどくさい本屋』いまさら刊行記念対談パート4~「 強い」言葉を「弱い」言葉に換えて、日常を生きる~
『平熱のまま、この世界に熱狂したい』×『めんどくさい本屋』
詳細・お申し込みは、peatixのページをご覧ください。

また、宮崎智之さん直筆サイン入り『平熱のまま、この世界に熱狂したい』が発売中です。
ストアページをご覧ください。

関連書籍

宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』

深夜のコンビニで店員に親切にし、朝顔を育てながら磨く想像力。ヤブイヌに魅了されて駆け込む動物園。蓄膿症の手術を受けて食べ物の味がわかるようになり、トルストイとフィッシュマンズに打ちのめされる日々。そこに潜む途方もない楽しさと喜び――。私たちは、もっと幸せに気づくことができる!

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに“彼氏面”するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。

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平熱のまま、この世界に熱狂したい

世界を平熱のまま情熱をもって見つめることで浮かびあがる鮮やかな言葉。言葉があれば、退屈な日常は刺激的な場へといつでも変わる

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宮崎智之

フリーライター。1982年生まれ。東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。日常生活の違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。著書に『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。
Twitter: @miyazakid

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