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平熱のまま、この世界に熱狂したい

2020.12.14 更新 ツイート

自己愛増強剤のドーピング熱に浮かされた私に必要だった本 長井短

Photo by Gwendal Cottin on Unsplash

12月9日に発売された『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』(宮崎智之著)は、世界を平熱のまま情熱をもって見つめることで生まれました。アルコール依存症や離婚を経験しながらも、もう一度、日常の豊かさに立ち戻ろうと決心する——。退屈な日常を刺激的な場所へと変える本書をおそるおそる読んだという長井短さん。感想をご寄稿くださいました。

ハイでいなきゃ世界についていけないと思っていた

私は普段あんまりエッセイを読まなくて、それはなんか、ただでさえ素敵な人の毎日が、そのありふれたはずの毎日まで独特で面白いのかよってことを知っちゃうと、いよいよ踏ん張りが効かなくなってしまうからっていう本当に情けない理由。仕事ぶりを見てるだけでも劣等感を感じて、自由で大胆な振る舞いを見ると爪を噛んじゃうのにその上プライベートでも個性を見せつけられたらもう…無理です…だから、宮崎さんからこの依頼をいただいたときはとてもドキリとした。「平熱のまま、この世界に熱狂したい 『弱さを受け入れる日常革命』」なんて素敵なタイトルだろう。

「自分らしくいようよ」って自分にも人にも強く思っている私だけど、その自分らしい状態が平熱なのかって考えるととても怪しい。私はたぶん、ありのままの自分を愛するために自己愛増強剤を日々キメまくっている。ドーピングすれば力が出るのは当然で、だから私は、自分らしくいようって気持ちを忘れずにいられるし自分ラブなんだけど、副作用に気がついた。体温がめちゃくちゃ上がってしまっている。自己愛ハイでいるために体が燃えまくっていて40度はあるだろう。時々訪れる「もう全てが終わってほしい」っていう夜は、副作用で燃え続けた身体の悲鳴だったんだなと気がついた。燃えるものがなくなって平熱に戻った時、私の中には何も残っていないのだ。

タイトルを読んだだけで既にこんなに発見があって、これ本編読み始めたら死ぬんじゃないかと恐る恐る読み始めた。知っているけど会ったことのない宮崎さんの日常を知るのはなんだかヘンテコな気分で不思議な緊張感もある。「蛇52匹と同棲していて〜」とか書いてたらどうしよう。そんな個性の強い人の日常を私は最後まで読み切れるか…? これから読む人にはネタバレになっちゃうけど、宮崎さんは52匹の蛇と同棲していませんでした。ふぅ。

それどころか「年の終わりが近づくと、雑誌『ターザン』を買いたくなる」っていう、ほとんどの人間に覚えがある欲求を持った人で、この一文を読んだだけで急速に体の緊張が解ける。解けた体に染み渡ってくるのは、どでかい世界を相手に一矢報いようとするんじゃなく、自分の手が届く範囲の小さな世界をとても丁寧に労る宮崎さんのやさしさで、私もその世界に行きたいなと思った。

相手の話を聞いたり読んだりした時に「わかる〜」ってよく思うけど、でも本当にはわからなくて、それがしんどい毎日だ。「わかる〜」と言われるのも辛く感じてしまうことがある。だけど、「わかんねー」ってなるよりは「わかる〜」の方が良いじゃん、そこそこ幸せじゃんって自分に言い聞かせて、今辛いと感じていることを自分に許してあげられなかった。

「辛いかも」と思ったら自己愛増強剤をキメて「いやいや私は最高なんだから辛いわけな〜い⭐︎ヨッ!恵まれてるぅ!!」自己暗示をひたすらかけた。そうするべきだと思った。だって、強くなるべきだと思ったから。ちょっとやそっとじゃ落ち込まない強さは標準装備しておくべきだと思っていたのだ。「〜あなたは自分が思ってるより強い〜」みたいな文言が世界中に溢れていることも、強さに向かう背中を押した。

「弱くていい」って言う人はいたけどそんな消極的な肯定じゃいいなんて思えない。そんな中で宮崎さんは「“弱い“がいい」と言ってくれて、それは「“まずい“が美味い」みたいなやさしくてでも絶対の肯定だった。自分より辛い人がいることと今自分が辛いことは別の話で、辛い時は辛いって思っていいんだ、元気を出せない弱い自分が、本当に今ここにいる自分なんだってことを教えてくれる。意識が変わったとか前向きになれたとかそういう生産的なことよりもまず、嬉しかった。宮崎さんの文は嬉しい。

ページを捲るたびに、自分の体が適切な状態に近づいていくのを感じる。それはたぶん凪で、凪っていう言葉の意味はこの本で学びました。私の中に凪が生まれる。

「穏やかであることは、なにもないことでは決してない。むしろ、なにかに気づかせてくれる時間だ。」

ハイでいなきゃ世界についていけないって思っていたここ何年かの日々が遠くに見える。ただ静かにここにいれば、世界も隣に座ってくれるんだと知った。好きでも嫌いでもないただの私として見つめる世界は住みやすそうで呑気だ。もう知ってると思っていたものも、凪の中で見るとなにも知らないように思えて、前に進まなくったって驚きはそこら中にあるんだって気付いた。もう少し今のままでいいな、ここにいたいなと思えるのって凄いことだ。別に進化とかしなくてもいいもんね。

私みたいにドーピングで熱出ちゃってる人や、自己肯定感上げ疲れて知恵熱出てる人には「平熱のまま、この世界に熱狂したい」の処方を是非です。

わかったみたいな気がした途端にコンビニを概念化とか言い出してまたふりだしに戻してくれるチャーミングな宮崎さん、出版おめでとうございます。ずっとわからせないでくれてありがとう。

関連書籍

宮崎智之『平熱のまま、この世界に熱狂したい「弱さ」を受け入れる日常革命』

深夜のコンビニで店員に親切にし、朝顔を育てながら磨く想像力。ヤブイヌに魅了されて駆け込む動物園。蓄膿症の手術を受けて食べ物の味がわかるようになり、トルストイとフィッシュマンズに打ちのめされる日々。そこに潜む途方もない楽しさと喜び――。私たちは、もっと幸せに気づくことができる!

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに“彼氏面”するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。

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