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カニカマ人生論

2021.06.02 更新 ツイート

タモリ 清水ミチコ

1970年代の昔、「空飛ぶモンティ・パイソン」という深夜番組があり、そこで「4ケ国語マージャン」というネタを観た私は、一瞬でタモリさんのファンになりました。あの適当な感じ、丁寧な言葉使いに漂うきな臭い感じ、タキシードにサングラスなど、どこか『めっちゃサブカル!』と感じたのです。サブカルって、都会にしか存在してなかったんですよね。今はそんなことないでしょうけども、少なくとも昔の田舎は、声が大きいもの、わかりやすいものじゃないと文化じゃない、ただのマイナー、ってなもんだったのです。

 

東京で暮らし始めた頃、ついに念願だったタモリさんのライブに行くことができました。客席で私は、(ものすごく楽しい。音楽とお笑いの両立って、なんて素晴らしいんだ!)と、一人とても感激しました。その後、昼公演に夜公演、土日の両方など、追っかけのように通ったりしてたので、当然同じネタも何度も味わうのですが、それでもすっごく面白かったし、自分の感性を大きく肯定されてるような気すらしていました。ちなみにステージでのタモリさんは決して熱くならず、客席がどんなに盛り上がっても、どこか冷静でした。あとから当時のタモリさんの構成作家をしていた、高平哲郎さんの本を読んでいると、「タモリの楽屋に行き、『おい、今見て来たけど、客席ガラガラだよ』と伝えると、ヒゲを剃りながら鏡ごしに、『当たり前だろ』とあっさり答えた」とあったのですが、なるほど! でした。もともとあんまり人に期待してないところがあるのかもしれませんね。常に高淡泊、低カロリーです。

翌年のコンサートには、東京に遊びに来た、まだ小学生だった弟も連れて行き、「いい? タモリさんの後輩になれるんだから、おまえも高校卒業したらジャズ研に入りなさい」などと言い含めました。じっさいに弟は数年後、タモリさんと同じ大学のジャズ研に入ったのですから、洗脳とは恐ろしいものです(そっち?)。嬉しかったなあ。

さて、タモリさんのネタについて、日々考察していた私は、どうやらレコードやライブの歌など、そのアイデアを書いてる構成作家の高平哲郎さんがまた凄いんじゃないか! と思い、ファンレター(ネタつき)を書いて出したことがありました。当人はぜんぜん記憶にないそうですが。人が十代の頃に感動した事は、その人の一生に渡って影響するものですね。いかに若い頃に、いいものと出会うことが大切かということが、今ごろになってよくわかります。

ちなみにいつだったか、あの井上陽水さんのオープンカーの助手席に乗せてもらったことがありました。陽水さんが音楽をかけようとしてくださったのですが、スピーカーからドラの音が「シャーン!」と威勢よく鳴り響いたのを聴いて、「あ!(高平哲郎プロデュース)TAMORIファーストですね!」と、名前を言ったら、「すぐにタイトルを当てたのは、あなたが初めて」と、あの品のあるおっとりとした口調で言われ、嬉しくなりました。このCDを愛車に乗せてるだなんて、陽水さまはやっぱり素晴らしい! 余裕が違う! と思いました。これは私の自慢話です。

そういえば当時は時々、タモリさんも出ていたNHKの番組「テレビファソラシド」も観に行きました。ハガキで応募し当選すれば自由に観覧できた時代。永六輔さん司会のバラエティーなのですが、本番30分前には、永さんご本人が客前に出てきて、たっぷり前説をしてくださいます。圧倒的マシンガントーク。自分の番組の本番前に、自分語りをしてのけるだなんて、今、そんな人がどこにいるでしょうか。「タモリのことは好きだけど、自分のモノマネをされるのだけはすごくイヤ」と、本音を交えながら皆を笑わせてたのも印象的でした。

そういえばその永さんから、かつてこんなことを教わったことがあります。「ステージの人間が興奮し、客席も興奮している現場はまだ二流。ステージ側が冷静で、客席だけ興奮させるのが一流。そしてステージ側が興奮し、客席だけ冷静なのが三流」。傑作な言葉です。これを思い出すと、ステージのタモリさんは常に一流でした。ビー・クール。こういうタイプの方は、結局テレビにも向いていたのか、俺が俺が、というイズムを出さない希薄さが、時代とともに彼をどんどんコマーシャルに、メーンの番組に、司会にとメジャーな方向にと連れてってくれるかのようでした。当時はまさかあんなにメジャーというか、カルチャーの大通りそのものになるなんて、と、オドロキつつも痛快でした。けれど、今なおどこか本人の中にサブカル臭が抜けないところを見ると、サブカルとは立ち位置でなく、体質にあるのかもわかりませんね。

タモリさんはテレビで忙しくなり、ライブをすっかりしなくなっちゃったのは残念でしたが、彼のステージを観てこれたことは、自分の財産だと信じています。

【シミチコNEWS】

7月16日公開のアニメ映画「竜とそばかすの姫」に声優として出演します。

ライティングもアイパッチも妙に高貴で不思議なファーストアルバム「TAMORI」。

関連書籍

清水ミチコ/酒井順子『「芸」と「能」』

ユーミンのコンサートには男性同士のカップルが多い。「アナ雪」に見る、「姫」観の変遷。モノマネとは、文章の世界で言うなら「評論」。香川照之さんと立川談春さん、歌舞伎と落語のにらみ合い。冬季オリンピックの女子フィギュアは、女の人生の一里塚。「話芸」の達人と「文芸」の達人が、「芸能」のあれこれを縦横無尽に掘る、掛け合いエッセイ。

清水ミチコ『主婦と演芸』

シャンプー時に立つか、座るか。何度会っても「初めまして! 」と言う氷川きよし君。面白タクシードライバーさんに10円の恩返し。5000円札を喜ぶ黒柳徹子さん。マルベル堂でプロマイド撮影。「孤独死」報道に一言。矢野顕子さんと一緒にツアー。「重箱のスミ」でキラリと光るものを独自の目線でキャッチした、愉快で軽快な日記エッセイ。

清水ミチコ/森真奈美『知識ゼロからの大人のピアノ超入門』

今からでも遅くない! 気ままな友達、ピアノとの大人な付き合い方。 最近、大人になってからピアノを始める人が多い。 大人からのスタートのいいところは、誰からもガミガミ言われないこと、無理強いされないこと。 子ども時代よりも、ずっと自由に弾ける、友達のようなもの。 ワクワクしたら弾けばいいし、うんざりするならやめてもいい。 大人になってからのピアノは、そんな自由さがあなたを解放してくれるはず。 音楽家の森真奈美さんと、かれこれ半世紀ほどピアノを弾いているという清水ミチコさんによる、大人のためのピアノ入門書。

清水ミチコ『私の10年日記』

「フカダキョーコに似てますね」になぜか逆ギレ。欽ちゃんのおでこをペチと叩いてみる。誰も知らないホーミーのモノマネにトライ。三谷幸喜さんの誕生会で激しく乱れる。ナンシー関さんや渋谷ジァンジァンとの別れに涙。…テレビの世界を自由自在に遊泳するタレントが10年にわたって書き続けた、きっぱりすっきり面白い、日記エッセイ。

三谷幸喜/清水ミチコ『いらつく二人』

「僕の名前は、三十画で、田中角栄さんと一緒なんですけど」(三谷)「あ、何か聞いたことある。浮き沈みが激しいって」(清水)。「流しカレー」に「醍醐あじ」から「うつぶせと腹ばいの違い」に「キング・コング実話問題」まで。「不思議」で出来てる脚本家と、「毒電波」で出来てるタレントの、痛快無比な会話のバトルに、笑いが止まらない。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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