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人形怪談

2021.02.17 更新 ツイート

着せ替え人形を買ったあとにパッと消えた女の子 田辺青蛙

(写真:iStock.com/choja)

講談師の旭堂南湖さんが2020年の年末にみんなと一緒に百物語を体験したいということで、Zoomを使ったオンラインイベント「怪談百物語」を企画開催してくれた。

 

私も語り部の一人として参加し、そこで人形に纏わる怪談を披露した。

イベント終了時に、旭堂南湖さんから告知事項はありますか? と聞かれたので、怪談を広く募集していると参加者の皆さんに向けて話したところ翌日、百物語の視聴者からこんな話が寄せられた。

「私が幼稚園の年中か年長さんだった頃の話で、もう三十年以上前の話になるんです。

物凄い昔のことなんで、ほとんど覚えてないんで両親から聞いた話なんですけど、その日は日曜日でおまけに私の誕生日だったんです。

だからプレゼントを買うために両親とおもちゃ屋さんに行ったんですよ。

場所は、今はくずはモールになってますが、当時京阪樟葉駅にあった、松坂屋です。

あの頃のデパートってなんかキラキラしてましたよね。

よそ行きの服を着て、ガラス張りの大きなショーケースの中に飾られた食品サンプルを眺めた後で入る大食堂も特別な場所って感じで。

そこで私、ものすごく迷って着せ替え人形を買ったんです。

着替え用のお洋服が最初から三着ほどついていて、髪の毛が赤茶色のロングで目がぱっちりとしていました。

他のことはかなり曖昧なんですけど、人形は入っていた箱の角がちょっと毛羽立っていたところとか、詳細まで覚えているんです。

その日は、片手で人形の箱を抱えながら食堂でランチを食べていたみたいで、随分と色褪せていますが写真が残ってるんですよ。

ご飯を食べた後、父親の買い物のために紳士服売り場に寄ってから、両親と一緒に三人でエレベーターに乗ったんです。

そして私が急にパッとその場で消えたらしいんです。

手品みたいに瞬間的にパッと。

娘が消えたってことで両親は揃って、凄くびっくりしたらしくって。

エレベーターの籠の中で私と両親しか乗ってないし、隠れるような場所もないのに急に居なくなったんで、驚いた両親は一緒に乗ったのは見間違いだったのかなって思ったらしくおもちゃ売り場の階に戻ってエレベーターの前を見に行ったらしいです。

でも、そこには私はおらず、人形の箱を抱いて人形やぬいぐるみがたくさん積まれた棚の前できょとんとした表情で立ってたらしいんです。

それから、今度はエレベーターを使わずにエスカレーターで下の階まで下りたらしいんです。

絶対に私を見失わないように、前と後ろの親が立ってサンドイッチにしてたらしいんですよ。

それから、デパートの外に出て駐車場に向かう途中、今度は両親が私の手をそれぞれが握っていたらしいんですが、またパッと急に消えてしまったんです。

両親の手には汗ばんだ私の手の温かさがまだ残ってて、もう二人ともパニックになりかけたらしいんですけど、もしかしたら凄い速さで私が手を振り払ってどこかに隠れてるんじゃないかって思ったらしく、母はその場に残って辺りを探したんです。

道行く人が振り返るくらい大きな声で私の名前を呼び続けて、母はその日喉が枯れてしまったと言ってました。

父はもしかしたらと思っておもちゃ売り場の階に行ったら、今度は私が棚の前で俯せになって寝ていたらしいんです。

その辺りのことは全然覚えてないんですけどね。

父は寝ている私をぎゅうっと強く抱きしめたんで、痛い! って言って起きたことはちょっとだけ記憶にあるんですけどね。

家に帰ったら、母はずっと私を膝に乗せてかぶさるようにずっと抱いてたんです。どこにも行かないようにって。

けど、母親は暑いし重たいし折角の誕生日なのに鬱陶しいなあって当時の私が思っていたのか、凄いぐずりだして、今日買ったお人形で早く遊びたいって大泣きしたそうなんです。

で、母親が買い物袋の横に置いてた、誕生日プレゼントに買った人形の箱に手を伸ばしたら今度は箱が人形の入ったままパッと目の前で消えたらしいんです。

そのせいかどうか分からないんですが、私、ずっとどんなことがあっても人形だけは買っちゃダメって言われてきてて。

でも、なんでかぬいぐるみは買っていいって言われてたんですよね。

こういう話を親から聞いてたせいか、自分の子供が産まれた時も人形を買ったりしたことはないんです。

男の子なんで、仮面ライダーのソフビ人形とか欲しがるんですけどね。目の前でもし、私がそうやったみたいにパッと消えたらどうしようと思うし、正気を保てる気がしないんです。

私が消えたのは、その誕生日の2回だけで、松坂屋もそれっきり行くことなかったんですよ。他のデパートは連れてってもらったんですけどね。

松坂屋の後に出来たくずはモールにこないだ行ってみて、当時の面影があるかなって期待してたんですけど、全く何も残ってなくてあれは悲しかったな」

この話を聞いていた時、棚の上に置いてあったぬいぐるみが同じタイミングでぼたっと落ちた。

拾い上げて棚の上に戻そうとした時に、いつもよりズシリと重いような気がした。

最近降り続いている雨のせいかも知れない。

ZoomとSkypeで人形に関する不思議な話や怖い話を聞いて欲しいという人がまだ何名もいるので、今からどんなことが聞けるんだろうかとわくわくしている。

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

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