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物理の4大定数

2021.01.26 更新 ツイート

光というめちゃくちゃ速いものをどう測るか 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
光速の測定は、観測技術の向上の歴史とともに精度を増してきた。しかしその先にさらなる謎が姿をあらわす……。

*   *   *

(写真:iStock.com/Allexxandar)
 

光速度測定の歴史

17世紀のガリレオの光速測定実験は、ヒトの動作にくらべて光が速すぎるため、うまくいきませんでした。
光というめちゃくちゃ速いものを測るには、どうすればいいでしょうか。

この問題は研究者の意欲をかきたて、さまざまな挑戦がなされ、いくつもの手法が開発されました。光速測定は現在もさかんなひとつの研究分野です。
原子時計もレーザー干渉計も光周波数コム技術もまだない時代の研究者は、自然に対する観察眼と洞察力を頼りにこの課題に取り組みました。

デンマークの天文学者オーレ・レーマー(1644-1710)は、木星の衛星を観察していて、それが計算と合わないことに気づきました
木星はいくつもの衛星を従えていて、望遠鏡をのぞくと、それがくるくる木星を周回したり、背後に隠れたりするのが見られます。衛星が木星の背後に隠れることを「蝕」あるいは「食」といい、それが起きる時刻は正確に予想できます。

(写真:iStock.com/vjanez)

ところがレーマーが精密に観測したところ、木星が地球に近いときは蝕が予定よりも数分早く起き、遠いときには数分遅くなるのです。
これは、木星の蝕の瞬間から、その光景が光速で地球にはるばるやってくるまで時間がかかるためだと、レーマーは(正しく)考えました。

この時間差と木星までの距離をくらべることによって、レーマーは人類で最初に光速測定に成功しました。
その値は22万km、正しい値との差は27 %で、最初の測定としては立派なものです。
1676年、ガリレオの試みから約40年後のことです。

ここで、光速測定に使われたのが望遠鏡ということも注目すべき点です。
その時代の最先端の観測技術をもちいると、それまで測れなかったものが測れるようになり、それまで届かなかった物理に手が届くのです。
観測技術と宇宙の理解は足並みをそろえて進歩します。

光行差と空気望遠鏡でさらに精密に観測

一方、英国の天文学者ジェームズ・ブラッドレー(1693-1762)は望遠鏡で別の天体現象を観測して光速の測定に成功しました。

地球は約30 km/sというけっこうな速さで太陽を周回しています。半年たつと、おなじ速さで反対方向に運動します。
(じつは太陽自身も宇宙を約200 km/sという猛速度で銀河系中心を周回しているのですが、この効果はいまは無視します。)

図に示すように、運動しながら遠方の恒星を観察すると、恒星の位置がずれて見えます
自動車や列車で雨のなかを走ると、上から下に落ちてる雨粒が、前方から後方へななめに動くように見えるのとおなじ原理です。
恒星からやってくる光が地球の運動方向の前方から後方へ、ななめに移動しているように見えるのです。
この現象を「光行差(こうこうさ)」といいます。

(イラスト:小谷太郎)

地球の運動による光行差は大変わずかで、恒星の位置は1 °の1 %もずれません。

ブラッドレーは焦点距離、つまりレンズと接眼部の間隔が64 mもある、「空気望遠鏡」という当時の最新装置で、精密な観測をおこないました。
そして光行差を利用して、光速を誤差2%以内で求めました。(正確には、光速と地球の公転速度の比を求めました。) 1729年のことです。
ちなみにその後、レンズの代わりに凹面鏡をもちいる反射式望遠鏡が発達して、空気望遠鏡の技術はすたれました。

ガリレオの実験への再挑戦

19世紀になると機械技術が進歩し、ガリレオの光速測定実験を実現する機械が製作されました。

アルマン・フィゾー(1819-1896)の光速測定装置は、8 km離して設置された歯車と鏡からなります。
図のように、歯車の歯のすきまを通る光線が、8 km飛んで鏡で反射され、また8 km飛んで戻り、歯のすきまを通ります。

(イラスト:小谷太郎)

ガリレオの実験では光を返すのに人間がランプを手で明滅させましたが、フィゾーは鏡を使いました。その方がずっといいですね。

歯車を高速で回転させると、光が往復するあいだに歯が1個だけ進み、次のすきまを光線が通過する状態が作れます。するとこのときの回転速度から光速を求めることができます
この方法で1849年にフィゾーは光速を31万5000 km/sと求めることに成功しました。現代の値との差は5 %です。

こうして地上の実験装置でも光速は測定可能になり、さまざまな原理の測定装置が考案され、どんどん測定精度は向上して、精密に光速が求められるようになりました。

すると、光速に奇妙な性質があることが分かってきたのです。
地球は宇宙空間を運動しているのに、それが光速測定に現れないのです。測定装置がどんな速度でどちらに動いていても、光速が変わらないのです。
この不可解な発見によって、それまでの物理学の枠組みは改修されることになります。

 

●次回は2/11の公開予定です。

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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