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物理の4大定数

2022.01.11 更新 ツイート

電磁気学が失われたら現代文明は即死する 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
現在のテーマは「電子の電荷の大きさe」。
電池が発明されたことで、人類は電気現象と磁気現象の関連を知ることになる。

*   *   *

 
自動車のバッテリーは化学電池だ(写真:iStock.com/Birdlkportfolio)

電流という新たなおもちゃ

電子が発見されてフランクリンの賭けの恐るべき顛末(てんまつ)が明らかになるまでは、もう少々電磁気学の発展が必要でした。

1800年、化学電池が発明されます。これは金属などの化学反応を利用して電流を作るしくみで、現在電池とかバッテリーと呼ばれる製品はだいたいこの子孫です。(ただし「太陽電池」は除きます。)

電池によって、数分から数時間にわたって持続する大電流を作り出すことができるようになりました。

科学者のお気に入りのおもちゃは、静電気から電流に移りました。もうデンキの実験といえば、飼い猫の毛皮をこすって嫌がられる行為を指すのではありません

電池の発明によって、電流のさまざまな実験が行なえるようになり、電磁気学は飛躍的に発展しました。

 

電磁気学とは、電気と磁気の法則を調べてまとめあげた学問体系です。

電気現象、つまり琥珀(こはく)で猫の毛を逆立てる遊びと、磁気現象、つまり磁石で砂鉄を集める遊びは、なんだか似たところがあるなあとは、古代ギリシャの時代から思われてきました。が、思われるだけでそれ以上とくに進展はなく、数千年が過ぎ去りました

数千年の間、ほこりを吸い寄せる琥珀と、鉄片を吸い寄せる磁石は、机の上に転がる2個の面白いおもちゃに過ぎず、両者にとくに関連は見つかりませんでした。

両者の関連が見つかったのは、そこに電流という新たなおもちゃが加わってからです。

磁石で砂鉄を集める遊びは磁気現象の一種(写真:iStock.com/Rosendo Serrano Valera)

電気現象と磁気現象をつなぐ、ミレニアム級の大発見

1820年、導線に電流をかけると、(弱い)磁石になることが報告されました。

ついに電気現象と磁気現象に関連が見つかったのです。世紀の大発見というか、ミレニアム級の大発見です。数千年のあいだ指名手配されていた犯人が通りを歩いているところを捕まえたようなものです。

それから電気現象と磁気現象の関係はくまなく調べられ、半世紀で「マクスウェル方程式」と呼ばれる電磁気学の基礎方程式が完成しました。これも人類が電流を手にしたおかげです。

 

今日の電化社会において、電磁気学がどれほど役立っているか、いまさらいうまでもありません。もしも電磁気学が失われたら、現代文明は即死するでしょう。電気現象と磁気現象の関係が、19世紀に見つかったおかげで、今日私たちが生きていられるのです。

電気現象と磁気現象の関係がどれほど重要か、ごく基本的な例を見てみましょう。

電流が作る磁石は、そのままだとごく弱いものです。部屋の中にとぐろを巻いているケーブルのたぐいが磁石になっているとは、ふだん私たちは気づきません。

けれども導線をくるくる巻いて「コイル」にして、軸に鉄の芯を仕込むと、「電磁石」と呼ばれる強い磁石ができます。電磁石を利用して物体を動かす装置が「モータ」です。

電磁石を利用して物体を動かす装置が「モータ」だ(写真:iStock.com/Bet_Noire)

モータが組み込まれた製品は、エアコン、エスカレータ、エレベータ、工作機械に建設機械、自動車、洗濯機、掃除機、ドローン、電車、ハード・ディスク・ドライブ、プリンタ、ポンプ、冷蔵庫など、文字通り枚挙にいとまがありません。

電流の作る磁石は毎日私たちを運んだり、私たちの代わりに力仕事をこなしたり、私たちや食材を温めたり冷やしたりしてくれます。

 

またモータというものは、逆に力から電流を作るのにも使えます。モータの回転軸に力を加えてむりやり回してやると、導線に電流が発生するのです。

こういう逆の使い方をするモータを「発電機」といいます。発電機は、燃料を燃やして沸かしたお湯の湯気の力や、風力や水力などで、回転軸を回し、それによって電流を発生させる装置です。

そうして発生した電流が、導線をつたって各地に流れていき、大小無数のモータを回転させて、現代文明を日夜回しているわけです。ふたたび電流が流れると表現したことをお詫びします。

風力で回転軸を回すことで、電流を発生させることができる(写真:iStock.com/NiseriN)

電子の発見とミクロな世界の物理法則

さて19世紀も終わりに近い1897年、電子という粒が発見されて、それまで流体とみなされていた電気が、じつは微細な粒子からなることが分かりました。

このころ、この世を構成する微細な粒子が次々見つかり、ミクロな世界の存在が明らかになってきたのです。

徐々に姿をあらわしたミクロな世界は、人類の物理学に大変革を迫りました。それまで当たり前だと思われていたマクロな世界の常識は、ミクロな世界には全く通用しなかったのです

 

たとえば、電子の発見からちょっと経った1905年「奇跡の年」には、アインシュタインが光の正体もまた光子という粒であるという説を発表します。

光は波でもあり、粒でもあるという、なんだか「もの」についての認識を根本から揺るがすような説です。アインシュタインの不思議な主張に、人々は頭を抱えました。

続いて1911年には、原子の中心にはプラスの電荷を持つ原子核があることも分かりました。ということは、原子は図のような構造をしていることになります。

原子の構造(イラスト:小谷太郎)

ここで研究者はみな頭をかきむしりました。じつはこのような構造はありえないからです。

電磁気学の教えるところでは、もしも電子がこのようにくるくる原子核を周回するならば、電磁波を放射します。ということは、電子は電磁波を放ってたちまちエネルギーを失い、中心の原子核に落下するはずです。

そうなると原子は壊れてしまい、原子が壊れれば原子からできているあらゆる物質も壊れ、つまりこの紙もディスプレイもそれを見ている読者自身の体も建物も地球も何もかもまたたくまに崩壊し、潰れた原子からなるほこりのようなものが宇宙に漂うばかりになるでしょう。

しかしそうはならずに原子が存在し、みなさんが紙またはディスプレイを眺めていらっしゃるからには、従来の電磁気学ではあつかえない何らかの新しい物理法則がそこに働いているにちがいありません。

電子や原子や原子核といったミクロな物体を支配する、その新しい物理法則の体系を「量子力学」といいます。

 

量子力学はどんな体系でしょうか。どんな原理に基づくのでしょうか。

これについてはおもに次の章であつかうのですが、ここでちらっと予告すると、電子や光子や原子核といったミクロな粒子は、波の性質をも持つのです。そう考えると、電子が原子核に落ち込まずにいられることも理解できるのです。

いったいなぜ波だったら落ち込まずに存続できるのかというと、これについては万人に納得できる説明は難しいのですが、波の中には、ギターの弦の振動や縄跳びのひもの振動のように、場所を変えずにその場で振動し続けるものもあるのです。

波の中にはギターの弦の振動のように、場所を変えずにその場で振動し続けるものもある(写真:iStock.com/DK Media)

さて電子や原子や原子核といったミクロな粒子が波の性質をも持つことがわかると、それをあつかうための数学ルールが調べられ、明らかにされました。1925年から1926年にかけてのことです。

明らかになったルール、「量子力学」は、それまでの物理学とかけ離れていたため、人々は戸惑い、じつをいうといまだに戸惑っているのですが、それはミクロな世界を調べるためのきわめて強力な道具でした。量子力学の方法を使うとミクロな物体の振る舞いや性質がばっちり分かるのです。

量子力学は、どうしてこんな非常識で不思議なルールを使わなければいけないのか、今ひとつ納得できないのですが、それを使うと便利で役立つ製品や驚くほど当たる予想が生みだされるので、正しいことは疑えません

たとえば「陽電子」は、量子力学の予言どおり見つかった、粒子というか「反粒子」です。

 

●次回は1/26の公開予定です。

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コメント

✺尊師ビールたん男爵✺  電磁気学が失われたら現代文明は即死する|物理の4大定数|小谷太郎 - 幻冬舎plus https://t.co/30T3XyLSmo 21時間前 replyretweetfavorite

みやけひかる  興味を持った記事: 電磁気学が失われたら現代文明は即死する|物理の4大定数|小谷太郎 - 幻冬舎plus https://t.co/gMG0LlOdFA 6日前 replyretweetfavorite

ちぇけ@地方都市サーバエンジニア  電磁気学が失われたら現代文明は即死する|物理の4大定数|小谷太郎 https://t.co/qBps3j8jTd 6日前 replyretweetfavorite

茂~shigeru  https://t.co/ptMIDsyCO9 7日前 replyretweetfavorite

SΣg)10α±M≒ln(324x)±β{native-hallucinative}KOMA  電磁気学が失われたら現代文明は即死する|物理の4大定数|小谷太郎 - 幻冬舎plus https://t.co/lnkcH98naS 8日前 replyretweetfavorite

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光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。この4つの物理定数は、宇宙のどこでいつ測っても変わらない。宇宙を今ある姿にしているのは物理の4大定数なのである。
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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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