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物理の4大定数

2021.09.11 更新 ツイート

一般相対性理論を超わかりやすく解説します 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
現在のテーマは「重力定数G」。
今回は一般相対性理論をどこよりもわかりやすく解説する。

*   *   *

 
(写真:iStock.com/forplayday)

アインシュタイン再登場

さて、ニュートンの見いだした重力の法則は、アインシュタインの一般相対性理論によってバージョンアップされます。

ニュートン力学によって描きだされた、時計のように精確に運行する宇宙というイメージは、アインシュタインの理論によって、ぐにゃぐにゃ伸びたり縮んだりする時間と空間といった恐ろしくわけのわからない宇宙像に描き変えられます。

時計のようなニュートン宇宙に愛着を持っていた人々は、バージョンアップされてすっかり様子の変わったアインシュタイン宇宙を眺めわたして嘆きました。

 

一般相対論とはどのような物理学理論でしょうか。簡単に説明することはできない理論ですが、簡単に説明しましょう。

一般相対論によれば、時間と空間(合わせて「時空」)というものは、伸びたり縮んだりしわが寄ったりするものだといいます。特に、質量の近くではそういう伸び縮みが生じます。

そしてそういう伸びたり縮んだりしわの寄った時空を別の物体が通過する際には、まっすぐ進めずに軌道がぐにゃりと曲がります

それが重力の効果なのだ、というのがこの理論の主張です。

投げたボールが放物線を描いたり、太陽を周回する惑星が楕円軌道を描くのは、そこの時空がゆがんでいるためなのです。

一般相対論がむずかしいと言われる二つの理由

一般相対論のむずかしいところは二つあります。一つは、一般相対論の使う数学のむずかしさです。

光速の章で紹介した特殊相対論は、高校レベルの数学を知っていれば、基本のところは理解できます。

けれども一般相対論を学ぶ学生は、「リーマン幾何学」だとか「テンソル解析」なるものに遭遇して、四苦八苦しながらこの概念を飲み込まなければなりません。

さらに運悪く(運良く?)数学好きな教師に当たってしまった場合は、そこに「多様体」「微分形式」なども参戦し、教室は学生の呻吟(しんぎん)と怨嗟(えんさ)の声で満たされます。

(ところでアルフレッド・ベスターによるSF小説『分解された男(注1)』には、

八だよ、七だよ、六だよ、五
四だよ、三だよ、二だよ、一
《もっと引っぱる、》いわくテンソル
《もっと引っぱる、》いわくテンソル
緊張、懸念、不和がきた
(沼沢洽治訳)

なる歌がでてくるのですが、これはこうした授業の情景を詠んだものかもしれません。)

一般相対論を学ぶ学生は、高度な数学の概念を理解するのに苦しむ(写真:iStock.com/Jcomp)

リーマンなんとかだとかテンソルかんとかだとかいったこれらの呪文は、伸びたり縮んだりしわの寄った3次元空間や4次元時空を扱うための数学です。

紙を折ったり粘土などで立体を工作したりすることは、子供にとっては楽しい遊びですが、ああいう遊びを数学的に記述しようとすると、かなり高度な数学概念が必要になるのです。

アインシュタイン自身も一般相対論のアイデアを考えついたとき、それを数学的にあらわすのに手こずり、友人の数学者マルセル・グロスマン(1878-1936)に相談して、リーマン幾何学を学びました。

そういういきさつで、一般相対論の初期の論文は、グロスマンとの共著として書かれています。

 

そして一般相対論のもう一つの難所は、ゆがんだ時空を頭にイメージするところです。

一般相対論のあつかう、伸びたり縮んだり波うったりする3次元空間や4次元時空を思い描かないと、アインシュタインのいうことは理解できません。

アインシュタインをのぞくほとんどの人は、ゆがんだ時間と空間をイメージする必要がない人生をそれまで送ってくるので、初めてこれに接して目を白黒させることになります。

 

しかしこのむずかしさは、複雑な数式のむずかしさとやや性質がちがいます。

ゆがんだ時空というものは、もちろん突飛な概念ではあるのですが、これをイメージするのに実は数式は必要ありません

リーマン幾何学を知らなくても、折り紙や粘土細工で遊ぶことはできます。またニュートン力学を知らなくても、キャッチボールや自転車の運転はできます。

同様に、テンソル解析をマスターしなくても、少々練習すれば、伸びたり縮んだりする時空を思い描くことができるのです。

一般相対論の二番目の難所は、一番目を迂回しても挑戦できるのです。

(注1)アルフレッド・ベスター、沼沢洽治訳、1965『分解された男』(東京創元社)

時間は縮み空間は伸び

質量の近くでは時間がゆっくり進みます。

このため、質量に時計を近づけると、時計の進みはゆっくりになります

ただしこの効果はごくわずかです。特殊でも一般でも、相対論の効果はたいていそうです。

地球のような巨大な質量の表面に置かれた時計と、地球からはるか遠くに離れた時計とで、そのちがいは10億分の1よりも小さいです。

けれども最新の時計技術は精度がごくごく高く、この程度のわずかなちがいを検出できてしまいます。

光格子時計をもちいた実験では、東京スカイツリーの展望階と地上階の時間の進みのちがいが検出されました。

高さ450 mの展望階に比べると、地上階は450 m地球に近いので、時計が約5×10-14、つまり0.000000000005%ゆっくり進むのです。

ふだん気づくことはありませんが、地表で暮らす私たちの時間は(地上階と同じくらいの標高なら)、スカイツリーの展望階よりもゆっくり進んでいます。

東京スカイツリーの展望階と地上階では時間の進みがちがう(写真:iStock.com/yaophotograph)

また質量は周囲の空間を伸ばします

どういうことかというと、たとえば1 m先のペットボトルに手を伸ばして触れるとします。このとき、ボトルが空で質量が小さいならば、1 m手を伸ばせば触れることができます。

けれどもボトルが水で満たされていて質量が大きい場合には、1 mよりもほんのちょっぴり余計に手を伸ばさないと触れることができません

どれほどちょっぴり余計に伸ばすかというと、ボトルが1 kgならば、約10-27 mで、これは手を構成する原子の原子核よりも小さいです。とんでもなくちょっぴりですね。

ペットボトルの重力は現在の技術では検出できないほど小さいので、その相対論効果はもっと小さくなり、検出は絶望的です。

 

では地球ならどれほど空間を伸ばすでしょう。

先ほどと同じくスカイツリーの展望台から地上階まで糸を垂らすと、地球という質量がなければ450 mの糸で届くはずが、空間が伸びるために、450 mと3×10-7 m、つまり1万分の3 mmほどよけいに必要になります

(これは現在の距離測定技術なら検出可能な気がします。)

質量の近くでは空間が伸び、時間の進みがゆっくりになる(イラスト:小谷太郎)

放り投げたボールは時間のちがいを知る

質量が時間や空間におよぼす影響は、最新測定技術でも検出できるかどうかぎりぎり、というわずかなものです。

しかしこれはなんだか不思議に思えます

アインシュタインによれば、時空のゆがみが重力の正体だということですが、これほどわずかな影響が、私たちを常に地面にしばりつけ、逆らえば転んでヒザをすりむくこの強大な重力を本当に作れるのでしょうか。

落下するりんごや放り投げられたボールは重力にしたがって運動しますが、時空のゆがみがこんなにわずかなら、したがい損なって見当ちがいの方向に落下したりしないでしょうか。

 

ここで時空のゆがみがボールの運動にどうはたらくかを説明しましょう。

じつはボールは、時間の流れのちがいを敏感に嗅ぎ分けて、それによって軌道を決めています。(ボールが光にくらべて遅いなら、空間の伸びはほとんど影響しません。)

キャッチボールの場合、ボールは投げ手から受け手へ、軌道を描いて移動します。

ここで、投げ手から発して受け手にいたるさまざまな軌道を想像してみてください。想像するだけなら、物理的に不可能な軌道もふくめて、無数の軌道を描けます。

ボールがある軌道をたどると、出発してから到着するまでのあいだに、数秒ぶんボールは歳をとります。そして相対論の教えるところでは、どれほど歳をとるかは、軌道によってちがいます

地面近くを通る軌道では、地球に近いため時間がゆっくり進み、比較的歳をとりません。

また地球を離れて高空を飛ぶ軌道を通るには、速く動かないといけないので、時間のゆっくり化が起きて、やはりそれほど歳をとりません。

結局、放物線を描いて上方を通る軌道がもっとも歳をとります

そしてボールが実際に選ぶ軌道は、このもっとも歳をとる軌道なのです。

ボールはもっとも歳をとる軌道を選ぶ(イラスト:小谷太郎)

ボールやりんごや月が重力に引かれて運動するということは、ボールやりんごや月が、重力の影響下で、ある軌道を選んで通るということです。

なので、どのような軌道が選ばれるかが物理学理論によって説明できたら、その理論で重力の効果が説明できたことになります。どのような軌道を選ぶかというルールがすなわち重力の法則です。

一般相対論によると、ボールやリンゴや月によって選ばれる軌道は、もっとも歳をとる軌道です。

伸びたり縮んだりしわの寄った時空の中に、物体がもっとも歳をとるような軌道を描いてみると、重力の影響を受けた物体の軌道になります。

太陽の周囲の時空では軌道は楕円になり、地球の表面では放物線になります。

これが、一般相対論が物体の運動を決める原理です。一般相対論の手法を数式をまったく使わずに説明すると、このような表現になります。

 

さて地表のボールの運動なら、一般相対論で予想しても、ニュートンの重力法則をもちいて予想しても、同じ軌道が得られます。

一般相対論とニュートンの重力法則のちがいが顕著になるのは、光速に近い物体あるいは光そのものの軌道や、きわめて強い重力の関わる現象です。

たとえば、光さえも脱出できない強大な重力を持つ天体、ブラック・ホールです。

 

●次回は9/26の公開予定です。

関連書籍

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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