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物理の4大定数

2021.01.11 更新 ツイート

光速は時間を空間に翻訳する 小谷太郎

光速c、電子の電荷の大きさe、重力定数G、プランク定数h。
宇宙を支配する物理の4大定数を、NASA元研究員の小谷太郎氏がやさしく解説。
光速を使うと、果てしない宇宙空間のひろがりを時間に換算して把握することができるという。
それっていったいどういうこと?

*   *   *

(写真:iStock.com/abidal)
 

光速cは、時間を空間に翻訳する

1秒で地球を7周半する速さの光は、月まで行くのに1.28秒かかります
宇宙において、月は地球にもっとも近い天体です。光が届くのに月まで1.28秒かかるなら、ほかの天体まで光が届くにはどれほどかかるでしょうか。

まず太陽はどうでしょう。
地球の「軌道長半径」、つまり太陽と地球の距離は1億4959万7870.7 kmで、ほぼ1億5000万kmです。キリのいい値に近いのは、以前述べたように宇宙の気まぐれな親切によります。
太陽から地球まで光が届くには499秒かかります。これもまた宇宙の親切の働きで、偶然500秒に近い大変キリのいい数字となっています。

これが意味するのは、あたりに降りそそぐ日光は500秒前に太陽を出発した光だということです。いま見えているあの太陽の姿は500秒前の姿です。

もしも、何らかの宇宙的災害によって太陽が前ぶれなく消失したとしても、私たちは500秒間はそれに気づきません。
また、太陽が地球におよぼす重力も500秒は変化しないので、地球はその間、太陽が存在しているかのように、太陽を周回する軌道を動きつづけます。
その500秒後、地球は突然夜になるとともに、宇宙空間を(ほぼ)等速直線運動しはじめるでしょう。

太陽と地球の距離は光で500秒です。これを「500光秒」と表わすことにしましょう。

(写真:iStock.com/Pitris)

不動産業界と似ている、光速の使い道

火星は太陽に近いほうから4番目の惑星で、その軌道長半径は約2億2794万kmです。
このような大きな数は直感的に把握するのがむずかしいですが、光秒だとうまいこと桁が小さくなります

火星の軌道長半径は760光秒です。太陽がもしも突然消失したとすると、地球の住民が異変に気づいてから260秒後、すなわち4分20秒ほど経って、火星でこれに気づきます。

図 太陽系の天体の距離と光が届く時間(作成:小谷太郎)

太陽を周回する天体はすべて太陽系の一員です。地球や火星のような惑星は8天体ありますが、このほかにも小惑星や彗星など無数の小天体が太陽系に属します。
なかには火星よりも海王星よりもはるか彼方の太陽系辺境をうろうろしているものもあります。

2020年現在、知られているなかでもっとも軌道長半径の大きな天体は「2015 TG387」です。
このちっぽけな石くれは、楕円軌道を描いて太陽を周回し、太陽から1780億km以上離れます。これは光で約7日の距離です。2015 TG387の住人は、(太陽から遠ざかる季節の時に)突然太陽が消失しても、約1週間はそれに気づきません。
2015 TG387は太陽から「7光日」の距離といえます。

こうしてみると、

・太陽系は広いなあ

・距離は、光が走る時間で表わせるのだなあ

ということが実感できるでしょうか。

これが光速の重要な利用法の一つ、「距離を時間で表わす」です。
これは、建物の位置を「駅から歩いて5分」と表わすのと同じ発想です。不動産業界は光速ではなく歩く速度(80m/分)を使っています。

光速を使って宇宙の広さを把握してみよう

光秒や光日を使ってやっと把握できる広い太陽系は、それでも宇宙のほんの片隅です。太陽系の外の茫漠(ぼうばく)たる宇宙にはどんな天体が漂っているのでしょうか。

(写真:iStock.com/Margarita Balashova)

恒星、つまり夜空にかがやく無数の星々のうち、太陽系にもっとも近いのは「プロキシマ・ケンタウリ」です。
「赤色矮星(せきしょくわいせい)」という小さくて暗い種族の恒星で、肉眼では見えません。小さくて暗いのに、ちゃんと惑星を従えていることが分かっています。

「もっとも近い」といっても、距離は4.22光年あります。(地球から測っても、太陽から測っても、ほとんど違いません。)つまり光で4年と2カ月と20日ほどかかります。

とうとう「光年」という単位が登場しました。光が飛びつづけること1年間、すなわち光で365.25日、すなわち光で31557600秒間という距離です。

恒星までの距離を表わすには、このような膨大な単位が必要になります。

ご近所の銀河団までの距離は5900万光年

この調子でどんどん宇宙を行きましょう。
私たちの太陽も、プロキシマ・ケンタウリも、「天の川銀河」という星の大集団に属しています。天の川銀河には約1000億個の恒星が群れ集っています。

天の川銀河の直径は10万光年です。私たちの太陽系は、天の川銀河の中心部から2万5600光年離れた田舎にあります。
天の川銀河の中心方向をながめると、密集した星々のにぎわいがぼうっと明るく見えます。これが天の川です。

(写真:iStock.com/den-belitsky)

2万5600年というと、私たちホモ・サピエンスが狩猟生活から農耕牧畜産業革命を経て現代まで進歩するくらいの時間です。
10万年前は、ホモ・サピエンスがまだ原始的な石器を使い、ほかの人類ホモ・ネアンデルターレンシスなどを絶滅に追いやっていたころです。
そのときに天の川銀河の端を出発した光がようやくいま私たちのもとに届き、超新星や原始星やブラック・ホールやよその惑星について知らせてくれているわけです。

恒星の大集団である銀河は、天の川銀河のほかにもたくさんあります。
夜空でもっとも目立つ銀河は「アンドロメダ銀河」で、アンドロメダ座の方向、230万光年離れたところに浮いています。
230万年前というと、私たちの祖先がおぼつかない手つきで石ころや棒きれを使いだしたころです。

銀河が100個くらい、ものによってはもっとたくさん集まった群れを「銀河団」といいます。宇宙空間には銀河団が無数に浮いています。
「おとめ座銀河団」は距離5900万光年で、比較的近くにあります。5900万年前というと、恐竜が絶滅して哺乳綱が繁栄しはじめたころです。
銀河団の浮かぶ宇宙は数百億光年先まで広がっています。そろそろ、光年を用いても広がりを把握するのがつらくなってきました。

この宇宙の観測可能な範囲は、ある計算によれば、466億光年先まで広がっています。
とりあえず、光速を使って距離を時間で表わすデモンストレーションは、466億光年で打ち止めとしておきます。

 

●次回は1/26に公開予定です。

関連書籍

小谷太郎『宇宙はどこまでわかっているのか』

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小谷太郎『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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