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カニカマ人生論

2020.11.18 更新 ツイート

ザ・ドリフターズ 清水ミチコ

小学生の頃の事です。あの「ザ・ドリフターズ」が私たちの教室にやってきました。

と、書くと嘘になってしまうのですが、半分は本当だと思える。それぐらいに、すぐ近くに来てくれた存在でした。テレビで観る芸能人はたくさんいるけど、あんなに子供にとって肌身に近く感じる存在はそれまでに一人もいなかったと言ってもいい。大人なのにふざけている。そして、大スターは普通、カメラ目線ではあるけど、決してこっちを見てはいない。でも、ドリフターズは「よお、一緒に遊ぼうぜ!」と、同じ目線で私たちに話しかけてくれるように思え、親しみの湧き方がぜんぜん違いました。

 

土曜日の夜8時になると、約束通りにあの5人が茶の間にやってきて、思いっきり笑わせてくれる。心からシビれました。もちろん私だけの大ヒットではなく、クラスでもめちゃくちゃ流行って、「あの時いかりやが」、「そんで高木ブーが」と、名前など呼び捨てで、それぞれが面白かったシーンを口にし、一緒に思い出してまた味わう。

そんな中でも特に、加トちゃんの「ちょっとだけよ」は、放課後モノマネする男子=即・その場を制する人気者、となったものでした。「タブー」という、ラテンナンバーのトランペットに乗って、照明が妖しげなピンク色に変わり、加トちゃんがストリップ嬢になりきるというコント。「ちょっとだけよ」という決めゼリフとともに、それはまさに彼の独壇場で、私たちは決定的に魅了されました。子供が見てはイケナイ雰囲気が充満してたのが、またほどよくスリリングでもあり、子供たちはみんな「待ってました!」という空気でもあったのです。そして、その一部始終を、教室の後ろで再現してみせるSくんには、私だけでなく、みんながやはり「待ってました!」であり、ゲラゲラと腹を抱えたものでした。

しかし、私は時々、それを見てちょっとした違和感を覚えていました。(もしかしたらSくんは、裸になるマネをするってことのみを面白がってるんじゃないか)と。私が注目したかったのはそこじゃない。加トちゃんの表情です。おそらく彼は、どこかでプロの踊り子さんを見て、その場ですっかりノックアウトされた。そういう経験が実際にあったからこそ、その踊り子さんのことを心から尊敬して、感激してたからこそ、あの表情があんなに克明に刻まれてるのだ。勝気で挑発的で、自信にあふれた表情。そこがキモなのに! あそこがいいのに! 体育みたいな、ストリッパーのそれだけでやりこなそうとするSくんを、私は(違うのにな)と、思ってたのです。そして、(ハッキリ言ってSくんは、子供じみてるんだわな)と、説明しようのなさを感じてました。イヤな子供。

しかし、(ああ、自分だったらもっとこう、)とは想像できるのですが、えらいもので瞬時に(出てはダメだ)という急停止のストッパーがかかりました。女の子がそのマネをすると、間違いなくみんなが「ヒく」のがわかったんですね。ヒくどころではない、それまで楽しかった空気を、一瞬で凍らせる大惨事に至ったことでしょう。この時ほど(自分が男に生まれてればな!)と、悔やまれたことはありませんでした。後悔の方向がやや間違ってはいますが。

「でも、最近ではお笑いも男女平等ですね。」みたいな事を言ってはみたいものですが、もしかしたらお笑いの神様がそもそも男性なんじゃないか? という根っこは、そんなわけで昔から感じてました。どこかが決定的に違う。お尻を出せるか出せないかの違い、お盆一枚の裸で、人前に立てるか否かの違いというフィジカルなものが大きいのでしょうか。また例えば、舞台に女性が一人、黙って真ん中に立っている。と想像してみましょう。すると、何かあったのかな、と客席側は一瞬ちょっと止まって考えたりしてしまう。ところが男性が同じようにただ立っていると、なぜかそれだけでどことなく面白くなるというか、笑いたくなる、という利点があります(利点て何)。どこかしら男性には、もともと滑稽さが備わってるんですかね。

また、「ひょっとこ」と「おかめ」のお面なんかを見てると、やはりひょうきんな表情は、男の方が向いていそうだし、それを見て笑うというおかめ顔があって、平和な完成形となっています。現在でも、あらゆるお笑いの会場で、それは寄席にしたってそうですが、いつも女性客の方がなぜか多い、というのもどこかうなづけます。女性の方が笑うのに向いているというのかな。今から思えば、ドリフターズにはそんなことも、私は勝手に教わったのでした。

 

【シミチコNEWS】ライブゲストのU-zhaanさんと。本番が楽しみです。

ライブの情報は清水ミチコオフィシャルサイトへ。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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