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カニカマ人生論

2020.07.01 更新 ツイート

フミちゃん清水ミチコ

小学校の低学年だったころ、親戚の家の庭で、2人のイトコと私の3人で鬼ごっこをしたことがありました。「鬼」だったのはイトコのフミちゃん。

私はじゃんけんで勝ったので、逃げる側からのスタートとなったんですが、もともと気が弱いところがある私は、途中で逃げることそのものが無性に怖くなってしまいました。(つかまったらどうしよう、逃げきれるわけがない)。そう思って、逃げ足をわざと弱め、普通に歩くことにしました。(どうせ捕まるんだ、必死になってこんな恐怖を味わうより、さっさと捕まった方がまだまし)。なんて可愛げのない子供でしょうか。

 

フミちゃんは5つほど年も上で、男だし、体力的に有利。逃げても無駄だ、と思えたんですよね。そんな態度だった私にカチンときたのか、ハッキリとフミちゃんはこう言いました。「ミチコは、なんでいっつもちゃんと逃げんのや。それではゲームしてても誰もちっとも面白くないし、そんな根性では何やってもダメやぞ」

私は自分の弱みを知られてしまった、という気持ちで、とても恥ずかしくなりました。すぐ泣いてしまう、途中で怖くなる、くじける、という性格の弱さは日ごろから自分でもうすうす感じてはいたのですが、ちゃんと言葉で明確にヒトから指摘されたことは初めてだったのかもしれません。

(ああ、やっぱり決定した)。フミちゃんに言われた言葉が、自分にものすごくしっくりきてしまったのでした。自分はこれからもいろんなことから逃げるような人生なんだろうか。そんなヨボヨボした姿もなんとなく予想がつきます。

だいたい私は小学校に行くことすら苦痛でした。それまでの保育園での日々は歌ったり踊ったりで、エブリデイ・アズ・フリーダム! といった印象。毎日をちゃらんぽらんに過ごしてても楽しかったものでしたし、両親も保育園の先生も、周囲の大人はみんな、子供というものを甘やかしてくれてました。

ところが、小学校にあがる頃になるとどうでしょう。徐々に様子は変わっていきます。おかしい。「不自由の匂い」が日に日に濃くなってきているではないですか。しかも「べんきょう」とか、「しゅくだい」とか、「じかんわり」など、なじみにくい言葉が急にペッタリ、たくさんまとわりついてくる。小学校には最初からイヤな予感しかなかったのです。

それなのに入学式の前日には、「記念に」と服を新調してもらい、写真館に行き、ランドセルをしょった姿で、晴れの日を撮ってもらうのでしたが、ぜんぜんノレない。明らかにブルー。親だけが希望に満ちています。「笑って!」と言われるたびに親は笑うのですが、当人は無表情。焼き上がりの写真の中の私がぜんぜん笑ってないのを見て、いかにも残念そうだった親の顔をよく覚えています。(でも逆に、今その写真を見ると、情けなさと無表情さにめっちゃ笑えてきますが←この連載のアイコン写真です)

そしていざ小学校に行けば、目の前には明るくハキハキしているみんなの姿がありました。私はというと、(はあ~、ちゃんとしててエラいもんだなあ、あれで同じ年か、元気だねえ)と、離れた場所から皆をながめる、どこかお婆さん目線でいたものでした。ついていけない気がする。その予感は見事に当たりました。

しかしそんな私が、なんと数十年後、たった一人で武道館のステージに立っていたのです。しかも、一度だけではなく、6回も継続できているではありませんか(2020年現在)。おお奇跡! 人って変われるんだ、と実感しました。すぐに自分の弱さやセコさという壁に勝手にぶち当たってみたり、一時はメディアに出るたびに、ヒザを抱えていた私でしたが、徐々に光を見出すことができているのです。

(自分の気の小ささ、弱さは誰も理解できない)とか、(自分はダメな人間なんだ)と感じたことがきっかけで、そのように決め、信じこんでしまっている方がもしいるなら、そんな思いがいかにもったいないことであるか、ということもこのコラムでたくさん話せたらいいなと思っています。

なぜならば私自身が、悩んだときや落ち込んだときに、大先輩たちに教わったことや、色んな本に書いてあった言葉、家族や友人たちがかけてくれた声が、自分の背中をそっと押してくれたからです。また私はそういう言葉をもらったら、ちまちまとメモしてきたので、常々(もらった言葉が日の目も見ずに死んでいくってのも、もったいない話だな~)、と思ってたんですね。個人が実感してきた言葉を享受できた時ほど、心がアガることはないと思っています。

と言いつつ、このエッセイでは、背中を押さないどころか、むしろヒクような話もたくさん出てくることだと思います。なにせタイトルも、「カニカマ人生論」。ここには本物の「蟹」の持つ旨味こそありませんが、B級グルメだからこその味わいや、ちょっと情けないテイストも芸のうち。気ままに楽しんでいただけたらと思っております。

 

【シミチコNEWS】

東映の夏休み映画「がんばれいわ!! ロボコン」に出演しました。役名は「トルネード婆々(ばあ)」。定着してもあだ名にはなりませんように。2020年7月31日(金)より公開予定です。

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

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