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藤倉大の無限大∞

2019.08.16 更新 ツイート

第6回

“あめゆじゅとてちてけんじゃ”の音楽 ~高島明石の場合藤倉大

(写真:iStock.com/thekopmylife)

僕が作曲した、映画「蜜蜂と遠雷」の作中の曲「春と修羅」。

前回は亜夜のカデンツァ作曲の話をした。

今回は高島明石が弾くカデンツァの話をしよう。

高島明石(松坂桃李)のピアノ担当は、福間洸太朗氏。映画「蜜蜂と遠雷」〜福間洸太朗 plays 高島明石

小説『蜜蜂と遠雷』の中で、明石のカデンツァに関する描写をまとめたメモが僕のパソコンに残っている。

 

そこには、

 

【明石・カデンツァ】

宮沢賢治が死にゆく妹を歌った詩につけたようなメロディ

「あめゆじゅとてちてけんじゃ」

 

右手で台詞をメロディに乗せ

天に召された彼女の声が繰り返し降って来るところを表現

左手で水晶を拾いながら世界や宇宙に思いを馳せる日々

作曲家・菱沼忠明が好むようなカデンツァ(明石は菱沼からの作曲家特別賞をもらう)

 

と書いてある。

 

 

とくに、この小説内作品「春と修羅」を書いた架空の作曲家・菱沼忠明が特別に賞を与えたキャラクターであるところがキーポイントだと思った。

なるほど、ピアニストである審査員たちからは気に入られなかったけど、作曲家が好きそうなピアニストであり、作曲家が気に入るカデンツァを明石は即興で弾いたんだろう、と思った。

 

小説には「あめゆじゅとてちてけんじゃ」を明石がコンクール前に鼻歌で歌っているシーンがあった(作曲したのが去年だったので、ちょっとうろ覚えだが)。

実際「あめゆじゅとてちてけんじゃ」って一体どんなイントネーションやニュアンスで発するんだろうか。

僕はロンドンにいるので、そこを調べるのが一苦労だった。

ユーチューブなどでもその宮沢賢治の詩の朗読をしている動画がたくさんある。が、どれもぜんぜん違う。

こういう時、良いリサーチは、フェイスブックにいるマニアックな「フェイスブック友だち」に聞くのがベストだ。

 

映画や『蜜蜂と遠雷』の話を一切、出さずに「あめゆじゅとてちてけんじゃ」とはどう発音するのが一番オーセンティックなんだろうか、と質問を投げかけてみた。

すると一気に沢山のスレッドが来て「いや、この人が話しているニュアンスは違う!」とか「この人のが一番近いと思う」など、いろんな意見がどっと来た。僕もいくつか「これだろうな」って思うのが見つかった。

その方言のイントネーションの抑揚を研究した上で、簡単な、鼻歌でも歌えるメロディを書いてみた。

 

それをベースにして、その恩田さんの小説の描写に沿うように、自分なりに書いてみた。

そうしたら対位法みたいなカデンツァになった。

じつは僕は音楽大学の博士課程まで出ているにもかかわらず、まったく音楽の基本的な和声と対位法を習ったことがなく、今でもできない。

でもなぜか自分の独自ルールによる対位法的な音楽は僕の音楽にはよく出てくる。

ある意味の個人的なリヴェンジなのかもしれない(どうして対位法や和声を習い損ねたのか、大学の教授たちが一切、僕には頑として教えなかったのか、などはもう一つ僕が書いている幻冬舎の雑誌「小説幻冬」の連載で書こうと思う)。

 

この映画のプロジェクトは4人のコンテスタントの演奏が4人の素晴らしいピアニストによって音楽部分が演奏され録音される。風間塵役のピアニスト藤田真央君は「コンサートなどでこの『春と修羅』を弾いていい時期がきたら、塵のカデンツァももちろん弾きたいけど、明石のも弾きたいな」と言ってくれた。

 

作中の作曲家が賞を与えるようなカデンツァなので、そこまで派手ではなく、カデンツァの前後の音楽に深く関係する、前後よりも派手にならないカデンツァだろうな、と思って、僕は明石のカデンツァを作った。

 

次の連載では一番苦労した風間塵のカデンツァの話をしようと思う。

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コメント

秋吉俊邦  へぇ〜 https://t.co/FAB3L49Iel 8日前 replyretweetfavorite

藤倉大の無限大∞

ロンドン在住、42歳、作曲家。これまで数々の著名な作曲賞を受賞してきた藤倉大の、アグレッシブな創作生活の風景。音の世界にどっぷり浸かる作曲家は、日々、何を見、何を感じるのか。

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藤倉大 作曲家

1977年大阪生まれ。作曲家。15歳で渡英し、D・ランズウィック、E・ロックスバラ、G・ベンジャミンに師事。国内外の作曲賞を多数、受賞(2019年は3回めの尾高賞を受賞)。数々の音楽祭、音楽団体から作品を委嘱され、いま「世界で最も演奏される現代音楽作曲家」と呼ばれる。2010年2月「情熱大陸」で特集され大反響。先日、映画「蜜蜂と遠雷」の中の課題曲「春と修羅」を作曲したことが発表されたばかり。http://www.daifujikura.com

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