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藤倉大の無限大∞

2019.10.03 更新 ツイート

第7回

純粋そうな少年の「おぞましいトレモロ(!!!!!)」〜風間塵の場合藤倉大

僕が作曲した、映画「蜜蜂と遠雷」の作中の曲「春と修羅」。
前回は明石のカデンツァ作曲の話をした。
今回は風間塵が弾くカデンツァの話をしよう。

風間塵(鈴鹿央士)のピアノ担当は藤田真央氏。映画「蜜蜂と遠雷」〜藤田真央 plays 風間塵

小説『蜜蜂と遠雷』の中で、風間塵のカデンツァに関する描写をまとめたメモが僕のパソコンに残っている。

 

風間塵 カデンツァ:
残虐、
凶暴性
おぞましいトレモロ(重要ポイント!!!!!)
執拗な低音部での和音(重要ポイント!!!!)
甲高い悲鳴
低い地響き
荒れ狂う風
敵意
暴力的なカデンツァ
凄まじい
前衛的
自然が繰り返す殺戮や暴力
修羅

 

このカデンツァはかなり苦労した。

 

僕のこの風間塵のカデンツァの印象は、じつはかなり、いわゆる「現代音楽っぽい」ものだと思う。
と言いながらも現代音楽といっても、今は「なんでもあり」の時代だ。
でもこの描写だと、1970年代あたりの、いかにも現代音楽っぽい感じのカデンツァになるのかな、と思った。
だが僕自身は21世紀の作曲家なので「あまりにも1970年代! の現代音楽」は書きたくない。

 

そこが、この風間塵のカデンツァを書く上で最大の難所だった。

このメモにも自分で(重要ポイント!!!!)と書いてあるので、「執拗な低音部での和音」をどうやって「おぞましいトレモロ」にしようかな、と思案にくれた。

ピアノの低音をトレモロすると、ピアノではないような、打楽器の銅鑼(どら)が鳴ってるような音のうねりになる。
そのトレモロを海の波のように見立ててはどうか、など考えたりして構築した。

結果、四人のカデンツァの中で一番暗く厳しいものになったと思う。

小説中この純粋そうな少年のカデンツァが意外にもこうした「前衛的」なカデンツァであるところが魅力だと僕は感じた。

ちょっと音楽大学の授業っぽく自作を解説するなら、カデンツァの冒頭の部分と、カデンツァの最後のほうが〈逆行+転調〉の関係になっており、その上で直感的に音程も少し変えたりしている(「逆行」というのは超簡単に言うと「ミソレラド」というフレーズなら「ドラレソミ」にすること)。その結果、完全な〈逆行+転調〉になっていないところがミソなのだ。

トレモロがリズミックに変化し別の素材に発展するのは僕の他のピアノ曲でもやったことがあったので、この方法が「おぞましいトレモロ」から脱出する手段で使えた。
曲を作るごとに毎回、違う試みを課している自分としては、こうして他の曲でやった方法が役に立って嬉しかった。

そのカデンツァから、どうやって元の楽曲に戻るか、も悩ましいところだった。

でも、できあがって、つなげて弾いてみると、これは4つのカデンツァもそうだけど、どれも自然にカデンツァの前後がつながるもので、それは自分でもびっくりした。

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藤倉大の無限大∞

ロンドン在住、42歳、作曲家。これまで数々の著名な作曲賞を受賞してきた藤倉大の、アグレッシブな創作生活の風景。音の世界にどっぷり浸かる作曲家は、日々、何を見、何を感じるのか。

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藤倉大 作曲家

1977年大阪生まれ。作曲家。15歳で渡英し、D・ランズウィック、E・ロックスバラ、G・ベンジャミンに師事。国内外の作曲賞を多数、受賞(2019年は3回めの尾高賞を受賞)。数々の音楽祭、音楽団体から作品を委嘱され、いま「世界で最も演奏される現代音楽作曲家」と呼ばれる。2010年2月「情熱大陸」で特集され大反響。先日、映画「蜜蜂と遠雷」の中の課題曲「春と修羅」を作曲したことが発表されたばかり。http://www.daifujikura.com

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