僕は、中学の卒業式の1週間後、大阪からイギリスに一人で渡って、その26年後、41歳の今もロンドンに住んでいる作曲家です。
ときどき「現代音楽の作曲家」と言われてしまうこともありますが、いろんな国のオーケストラ、オペラハウス、演奏者たちに音楽を作ったり、時にはノルウェーの即興アーティストたちとコラボしたり、JAPANというロックバンドの元ヴォーカリストで坂本龍一さんとの共演でも有名なデヴィッド・シルヴィアンとコラボしたりもしています。
〈新しい音を赤ちゃんから大人まで〉をテーマにした東京芸術劇場での音楽祭「ボーン・クリエイティヴ・フェスティヴァル(ボンクリ・フェス)」の芸術監督もやってます。
さて。
僕は、2008年に「アンペール(Ampere)」というタイトルのピアノ協奏曲を作曲し終えた時、あまりに難産だったせいで、これを人生最初で最後のピアノ協奏曲にしようと思った。
なのに11年後の今、なぜかピアノ協奏曲4番「Akiko’s Piano(明子のピアノ)」に追われている。
先週は名古屋で名古屋フィルハーモニー交響楽団(名フィル)が「ソラリス組曲」という、僕のオペラ「ソラリス」をオーケストラ用に自分で編み直した曲を世界初演(2月22日23日)するのに立ち会ったし、そのあと広島に行って件(くだん)のピアノ協奏曲4番「Akiko’s Piano」の作曲の準備。世界初演を演奏するのは、なんと、マルタ・アルゲリッチさん(の予定)だ。
僕が日頃、住んでいて作曲をする場所はロンドン。なのにどうして広島なのか? マルタさんに曲を書くのになぜ明子? 明子って誰? など不思議要素がいっぱいのこのプロジェクト。
その理由は、この作品が、いつもの僕の音楽と違って大変、悲しく重いストーリーを持っていることだ。
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藤倉大の無限大∞
ロンドン在住、42歳、作曲家。これまで数々の著名な作曲賞を受賞してきた藤倉大の、アグレッシブな創作生活の風景。音の世界にどっぷり浸かる作曲家は、日々、何を見、何を感じるのか。