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  4. 裸で踊り狂う女神様、登場!

日本最古の歴史書「古事記」の神話を、爆笑に次ぐ爆笑でご紹介しているこの連載。
落語家・桂竹千代さんの手にかかれば、難しいと思う歴史書も、最高のエンタテインメントに!

さて今回は、引きこもっちゃったアマテラスを岩戸のなかから引きずり出そうと、エロティックなダンスに興じる神様の登場。
はたして……。

*   *   *

(写真:iStock.com/Henvry

第7話「ナルシストかよ!」

アマテラスが岩戸にこもってしまうと、彼女は太陽神なので、世界中の光がなくなってしまいました。

そこで八百万の神々が、天安河原(あまのやすかわら)に集まって会議を開きます。

この天安河原は、宮崎県高千穂町に伝承地があります。神話の舞台になることの多い宮崎県の中でも、高千穂は特に神話の伝承が多い、神話の街です。第6話に出てきた「天岩戸神社」の裏手の道を15分くらい、激しめの川が流れているのを横目に見ながら歩いていくと、洞窟があります。ここが天安河原です。

 

鳥居が立っていて、小さい社がある。看板には「祭神:八百万神」と書いてある。

こんな神社はここくらいだと思います。全ての神が祀られているんですから、もんのすげーパワースポットです。まあ結構歩くんで、行くまでにパワー奪われますけどね(こらこら!)。

僕も、確かに参拝したらご利益あったんです! 帰り道に道端で100円拾ったんです。すごくないですか?! 1円や10円じゃないんですよ? 100円ですよ! 

ただ、お賽銭を奮発して1000円入れたんですよね。マイナス900円になっちゃった(こらこら!)。そうだ、お賽銭と言えば、最近ではお賽銭を電子マネーでできるそうですよ。ピッ!って。でもお賽銭はやっぱりチャリーン!ってのがいいですよね? 電子マネーでやったら、コウカ(効果・硬貨)ないですよね~(キマッたよねこれは)!

とにかく。八百万の神々が全員ここに集まって、岩戸を開くための会議をしたそうです。

800万引くアマテラスですから、799万9999の神々がここに集まったんです。ちなみに大きさは8畳くらいでした。神ってちっさいのね。1畳につき100万くらいの神がいるわけです(おいおいノミかよ! それは神ノミぞ知る)。

スシ詰め状態の中、リーダーシップを執るやつがいるわけです。

思金神(オモイカネノカミ。神の中で1番賢いとされる知恵の神。岩戸開きの司令塔。全国唯一の天気の神社、気象神社の祭神でもある。以下オモイカネ)が召集をかけます。

 

オモイカネ「はい、みんな集合~!! このままだと暗いから。昼でも照明つけて電気代ムダにかかっちゃうから。アマテラスさんを岩戸から出そう。色々作戦考えたから」

 

作戦(1)ニワトリ作戦!

オモイカネ「ニワトリが鳴くと朝になって太陽昇るから、出てくんだろ! ニワトリ集めまくって一斉に鳴かせろー!」

ニワトリ達「コケコッコ~!!」

シーーーン。

失敗!!

 

作戦(2)ドンチャン祭り!

オモイカネ「ぱーっと賑やかにやってりゃ、気になって出てくんだろ! まずは祭りに必要な鏡と勾玉を作って祝詞(めでたい言葉)を奉れー!」

ここで作られた鏡と勾玉が、後に天皇の継承の証「三種の神器(さんしゅのじんぎ)」のうちの2つです(第10話参照)。

また、このチャプターで重要な脇役が2柱います。

天児屋命(アメノコヤネノミコト。以下コヤネ)。

布刀玉命(フトダマノミコト。以下フトダマ)。

フトダマは、祭りをする上で、鏡と勾玉を榊(さかき。よく神棚に飾ってある葉)の枝に取り付けてこれを供える役。

コヤネは、それにともなってお祝いの言葉を述べる役。

ここから少し先の話になりますが、このフトダマの子孫が忌部(インベ)氏で、コヤネの子孫が中臣(なかとみ)氏です。神話において先祖の神がこういう働きをしたので、後に大和朝廷でも神を祀る仕事に就いています。大和朝廷は、奈良あたりにあった日本で初の中央政権です。

ちなみにコヤネは、春日大明神(かすがだいみょうじん)とも呼ばれ、奈良県の春日大社に祀られています。

中臣氏は後に、古代において天皇家を利用し、権勢をふるいまっくたあの藤原氏となりますので、春日大社はその氏神様(うじがみ。そこに住む人たちが共同で祀る神)として有名になります。

さあ、お祭り準備おっけー!!

ドンチャンドンチャンえらやっちゃえらやっちゃよいよいよい……

シーーン。

失敗!!

 

神々「何だよあいつ。えらそーなこと言って。言う通りにしても全然ダメじゃねーかよ」

 

と、神々が陰口を叩き始めたその時……!

 

謎の女神「私に任せてください!」

神々「ダレ? ……おお? ……おおー! いやーはっはっはっ!」

 

女神の正体は天宇受売命(アメノウズメノミコト。以下、ウズメ)

いきなりおっぱい出して踊り狂うノミコト、現る!

これを見た神々が……

割り箸に1万円を挟んでパンツに差し込みます!

のではなく! ただただ大爆笑! (リアクションおかしくない? 相当だらしないカラダだったとか? 腹に何か書いてあったとか?)

ちなみに『古事記』の中で「わらう」という文字が、初めて出てくるのはココです。しかし「笑う」の字は使われていません。「咲く」という字で「咲う(わらう」と読ませます。つまり花で言うと、「満開」は大爆笑ってこと。落語で客席が五分咲きのときは、満開のサクラが欲しいよね(うまいっ!)

そして、このウズメの踊りが、日本初の芸能と言われます。だから芸能上達のご利益がある神社には、彼女が祀られています。中でも一番ご利益があると言われるのが、アマテラスが祀られる伊勢神宮の近くにある「佐瑠女(サルメ)神社」です。このサルメっていうのが、ウズメのことです(理由は第21話参照)。ここが芸能の神様の総本山なので、全国各地から、俳優を目指す人、タレントを目指す人、芸人を目指す人が、足繁く参拝に訪れます。ボクもお参りしました。サルメ神社のお守りを常に、肌身離さず携帯してます。あれからというもの、もんのすご~い……現状維持!!

まだ効果が現れません。

裸踊りなだけに、二つの意味でフク(服、福)をください。

 

さあ岩戸の中のアマテラス。表が何やら陽気なので気になって仕方がありません。そーっと岩戸を細めに開き、

 

アマテラス「アタシというスターがいないのに(太陽だけどね)何でこんな盛り上がってるわけ?」

ウズメ「あなたより美しい神が現れたからですよー!」

アマテラス「ブッチーン! (何かがキレた音)アタシよりキレイな神なんかいるわけないでしょー!」

 

そんなこと言ってるうちに、コヤネとフトダマが、先ほど作った鏡―後の三種の神器の一つ、八咫(やた)の鏡を岩戸の隙間に入れます。

 

アマテラス「冗談じゃないわよーう! (鏡を見て)……あら? はわぁぁあ……! なんて美しい神なの!」

神々「めっちゃナルシストー!!」

アマテラス「このキレイな娘、外にいるの……? (戸を開けて覗こうとする)」

謎の神「よし! 今だ!!」

 

力持ちの神様がぐわーっ! と岩戸をこじ開けます。

この開けた岩戸が空から地上へ降ってきて(宮崎に天岩戸の伝承地があるといったけど、あくまでも神話上は天上世界の話だよ!)、日本列島のど真ん中に落ちたと言います。ここが長野県の戸隠村です。忍者の里として有名ですね。天岩戸を隠しているから「戸」隠というんです。

 

ボクも行ってみたのですが、戸隠山の麓に戸隠神社がありました。奥社に祀られているのは、この力持ちの神様で、天手力男命(アメノタヂカラオノミコト。以下タヂカラオ)といいます。

タヂカラオは寂しがりの神様なんです。

いつも皆んなと一緒がいい。

何故かって?

戸隠だけにソバがいい(いよっ落語家!)

ちなみに、このタヂカラオが祀られている奥社の隣に、九頭龍社があります。ここは古来から歯痛に効く神様と言われており、虫歯になった人はここまで通ってお参りしたそうです(往復1時間歩くよ! 大変!)そして梨をお供えして、3年間梨を食べないでいると、虫歯が治ると言われていました(古典落語の「佃祭」に出てきます)。

でも長野と言えばリンゴなのに、何で梨なんだろう? と思って、落語の師匠方に聞いてみました。

 

某師匠「梨を食わせないようにしてリンゴを食わせようっていう長野の農協の作戦だろ!」

 

……この考えはナシだと思います。

 

さて岩戸が完全オープン!

 

アマテラス「イヤーン! めっかっちゃった!」

 

タヂカラオがアマテラスを洞窟から引っ張り出して、すかさずフトダマが洞窟にしめ縄を張って……岩戸開き大成功!

世界に光が戻ります。

 

スサノオ「いやーよかったね! 一件落着! 姉貴、お帰りー!」

神々「……スーサーノーオー! てめー何呑気なこと言ってんだ! 元はと言えばてめーのせいでこうなったんだろ! お前はバツとして地上へ行けー!!」

スサノオ「えーーー!!」

 

次はスサノオが主人公になり、魔物退治をします。

ここからは出雲神話がスタートします。

関連書籍

桂竹千代『落語DE古事記』

日本の神様は、奔放で愉快でミステリアス! 海をかき混ぜて日本を作ったかと思えば、一目惚れしたり、嘘ついたり、嫉妬に燃えたり。女の取り合いで大蛇と喧嘩する神様も、娘の恋人をイタズラでいじめ抜く神様もいる。さらに神同士の殺し合いも度々勃発。壮大すぎて難解と言われる日本最古の歴史書を、落語家が爆笑解説でスラスラ読ませる。

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落語DE古事記

神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね! 

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桂竹千代 落語家

 

落語家。千葉県旭市出身。1987年3月17日生まれ。2005年千葉県立匝瑳高校卒業。2009年明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業。2011年明治大学大学院文学研究科古代日本文学専攻修士課程修了。元ニュースタッフエージェンシー所属漫才師、ゴーギャン職人。2011年7月、桂竹丸に入門、前座「竹のこ」。2015年9月、二ツ目昇進、「竹千代」。2019年3月、第18回さがみはら若手落語家選手権優勝。
新宿末広亭や浅草演芸ホールなどの寄席を中心に、全国各地で落語会に出演。その他、イベント・結婚式司会、温泉ツアーガイド、古代史講座、大学講師、社会教育講演など幅広く活躍。旭市観光大使も務める。
エンタの神様(日本テレビ)、爆笑オンエアバトル(NHK)、メレンゲの気持ち(日本テレビ)、グリコポッキーCM、どうする東京(MXTV)、50ボイス(NHK)、BS笑点特大号(BS日本テレビ)、ミッドナイト寄席ゴールデン(BS12)、夕やけミッドナイト寄席(BS12)SHARP・アクオス落語(全国の家電量販店にて放映)、日曜バラエティー・レギュラー出演(NHKラジオ第一)2018年4月~2019年3月、桂竹千代のJAGARAKU(FM帯広)2018年4月~2019年3月、OH! HAPPY MORNING「Today’s Focus」(JFN)※古代史専門家としてニュースコメント、春風亭昇太のピローな噺(dtvチャンネル)、竹千代の風土記(CS寄席チャンネル)などに出演。

 

 

 

 

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