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世にも美しき数学者たちの日常

2019.06.21 公開 ツイート

芸人と数学教師を両立してるあの人。「数学と結婚」したあの人。数学を愛してやまない面々。 二宮敦人

6月11日に東京ミッドタウン日比谷にあるHIBIYA CENTRAL MARKETにて
【『世にも美しき数学者たちの日常』刊行記念ハイボールナイト~なぜか「数学」に惹かれちゃう人、集まれ! ~小説家・二宮敦人と数学愛に溢れる懲りない面々によるトークライブ】が行われました。

数学と聞くと、苦手意識を抱いてしまう人は多いのではないでしょうか? 今回は、著者である二宮敦人さんと、本書に登場している3名――高校教師をしながら芸人をしているタカタ先生、大人のための数学教室 和(なごみ)の堀口智之先生と松中宏樹先生が、数学が嫌いな人でも楽しめる数学の世界について、お酒を片手に語り尽くしました。その様子をお届けします。


本に深みが出ているのは二宮さんの質問力のおかげ

堀口先生:今回、二宮さんにインタビューを受けて、その話が『世にも美しき数学者たちの日常』という本に掲載されたわけですが、取材のときに驚いたのは、二宮さんの質問力の高さです。ときどき私もインタビューを受けることがあるのですが、インタビュアーが必ずしも数学に詳しいとは限らないので、”数学の話”になるとたいてい深く突っ込まれません。そんなこともあって、私はまとめとして数学の話を比喩的にして終わることが多いんですが、二宮さんはそこで「どういうことですか」ってしっかり突っ込んでこられたんです(笑)。一方で、広い視野からも突っ込んで聞いてくださったので、この本には数学の世界について書いてあるけど、人間的な部分が詰まっているなあと思いました。

二宮さん:数学は大学受験の範囲についての知識しかない状態で伺ったので、みなさんから拒否感を示されるんじゃないかと心配でした。

タカタ先生:いえいえ、そんなことなかったです。二宮さんは本当に聞き上手でした! わざわざインタビューしにきてくれたのに「リアクションないじゃん!」みたいな方もいますからね(笑)。でも、二宮さんには、本当に気持ちよく喋らされました。取材がとても楽しかったです。

堀口先生:わかります。気づいたら、普段話せないことまで自然と話しちゃってて……私もいろいろ話しすぎてしまいました(笑)。そうそう、松中先生がインタビューを受けることになったのは、“ある偶然のきっかけ”があったからですよね?

松中先生:そうなんです(笑)。堀口先生がインタビューを受けていたとき、たまたま隣の部屋でホワイトボードに数式を書いてたら呼ばれて、結果的にインタビュー受けることになったんです。インタビューを受けるのは初めてのことだったのですが、数学の話ばかり、気づいたら3時間もしていて、ちゃんとした内容になるかすごく不安でした。そんなわけで原稿があがってくるのが怖かったんですが、すごい素敵な文章に仕上がっていて感動したのを覚えています。

タカタ先生生徒がみんな二宮さんみたいだったら、どんなに授業が楽しいかと思いますよね。すごい興味を持って聞いてくれるので(笑)。

二宮さん:でも、僕、数学の成績そんなに良くなかったですよ(笑)。

タカタ先生:そうなんですか! でも、生徒にもよくいるんですよ。目をキラキラさせて聞いてるんだけど、成績のほうは……っていう……。二宮さんはそ、そういうタイプだったというわけですね(笑)。


数学の世界と社会は繋がっていることに気づけた

堀口先生:この本が完成したときの感想はいかがでしたか?

二宮さん:取材する前は、数学の世界っていうのは、奇人や変人や猛獣みたいな人が多いのかなという、変な先入観がありました。しかし、今回いろんな数学の先生のお話を伺うようになり、すぐにそれは間違っていたと気づきました。僕自身とも共感ポイントが多かったんです。数学者の先生方にインタビューしたときに、みなさん「数学は、面白いし難しい」とおっしゃていたのですが、小説でも、筆が進まないこともあるし、売れたり売れなかったりもあるし、とても難しいと感じます。分野は違えど似たようなことを感じながら向き合っているんだなと感じました。結果的に、僕の仕事ともすごく近い世界だなというのが、色々なお話を聞かせていただいたうえでの感想です。実際の数学は、多くの人が思っている“数学の世界”とは全然違うんだということを伝えたくて、この本を書きました。

堀口先生「数学は美しい」っていう人はわりといると思うのですが、だからといって言葉にはできない人が多いですよね。そこを二宮さんが言語化してくれましたよね。

二宮さん:なんとか、書きました。

堀口先生:今日登壇している、3人の先生の共通点は、「数学の世界」と「日常の生活」の架け橋になっていることです。松中先生と私は社会人向けの数学教室をやっていて、タカタ先生は、芸人をやりながら社会に「ウケる数学」を発信しています。

タカタ先生:そうですね! 僕は”擬算数”が結構好きで、読売新聞にも僕の考えた擬算数が掲載されました。擬算数っていうのがどういうものか、例を挙げて説明しましょう。たとえば、今話題のニュースなんかを数式に語呂合わせするんです。たとえば「3×231.9+107.4=803.10」という数式があります。これは「3×231.9《見かけブサイク》なのに+107.4《いー女 よ(め)》にしたのは=803.10《山里》さん」と読むわけです。こういうことを発見してはみんなに面白がってもらえるのが、楽しくてやってます。

一同:おおー!

堀口先生:数学を使っていろんな世界を繋げることができるのって面白いですよね。ところで、松中先生は“数学と結婚”していますよね。いつからですか(笑)?

松中先生:結婚したのは最近ですね(笑)。数学を勉強していると神様が作ったかとしか思えないような美しい数式がたくさん現れて、惹かれていきました。素朴な対象にも美しい数式が潜んでいます。素朴なほど難しいんですよね。

タカタ先生:素朴ほど難しい。名言ですね。

今の数学は面白くない

堀口先生:タカタ先生は、本の中で紹介されている、どの先生の話が面白かったですか?

タカタ先生:現代数学に批判的な先生なんですが、高瀬正仁先生の話が刺さりましたね。日本を代表する数学者 岡潔先生の言葉で「数学は情緒である」というのがあるのですが、それがどういう意味なのか、私はよく理解できてなかったんです。しかしそれを、高瀬先生は見事に説明してくださっていました。僕も、擬算数のことを価値があるものではないとわかっているけれど、発見したときに確実に心は揺れ動くし、情緒を感じるんですよね。「自分は情緒を感じたくて数学をやってたんだな」っていうのを、高瀬先生の話を読んで再確認できました。

堀口先生:私も、高瀬先生の「今の数学はあんまり面白くない」という話は響きましたね。例えば、鶴亀算ってあるじゃないですか。最初は全部亀の4本足で考えて、一匹ずつ鶴に変えて足の本数を数えていく。そうすると、風景が浮かんできて面白いですよね。ただ、時間はかかる。だから、早く解ける連立方程式が発明されたわけですが、これを使うと数学が面白くない。これは、アートの世界に似てます。現代アートの父と言われているマルセル・デュシャンは、男性用の便器を横にして「泉」と名付けて衝撃を与えたわけですが、それまでのアートは、まず伝えるべきメッセージがあって、それを”表現”していた。ところが、デュシャンは、観測者が自ら意味を見出さなければいけないアート作品を作った。数学も同じです。向き合う人それぞれが、そこに意味を見出さなくてはけなくなりました。

二宮さん:私は数学のプロじゃないので、面白いところだけ知りたいっていう気持ちもあります。確かに、現代の数学だと、それは厳しい面がありますよね。

タカタ先生:数学の面白い部分を感じられるのが、ロマンティック数学ナイトっていうイベントなんです。高度な数学の話もしますが、登壇者が熱をもって話すので、内容理解ができなくても楽しめるはずです。登壇者が身も心もキラキラしているのをビンビンに感じると、なんか数学って面白いんだなって感じられるわけです。

堀口先生:実際、数学で挫折した人って多いですよね。だから今の数学だと、「難しい」とか「苦手」とかで尻込みしちゃうわけですが、そういう感じ残ったまま数学が嫌われていくのはイヤなので、こういうイベントを企画しましたし、これからもやっていきたいです。

「数学」は「自然」と繋がっている

松中先生数学のすごいところって、自然界や日常のいろいろなところに繋がっている部分だと思います。自然界には、それを成り立たせる根幹に数学の方程式が多数現れたりしますし。僕にとっては数学はそれ自体が面白く、自然界を記述することや、日常で役に立つことなんてどうでもよいのですが、気付いたら繋がっているということがよくあるんです(笑)。

二宮さん: 僕も、「小説って数学かも」って思うことがあります。たとえば、三角関係の物語を書く時に、僕は、できるだけストーリーはシンプルな方がいいと思うので、余計な登場人物は要らない。そういうときに、登場人物って最低何人必要だっけ? と考えるんですが、これも数学ですよね。ミステリー小説を書く時も数学が出てきます。謎を解いていくときに、サイドストーリーとして恋愛があるとしますよね。そのとき、謎解きのピークと恋愛のピークを同じところに持っていかないと、ストーリー的に面白くなりません。これって数学の曲線の問題と同じだと思うんです。これまで僕は感覚的にやってきていますが、これも数学の言葉で落とし込めるんじゃないかと思ったんですよね。

タカタ先生:自然の原理も「数学」ですからね。みなさんは、蜂の巣がなぜ六角形なのか、ご存知ですか?「強度が強いから」という意見がよく出るんですが、違います。六角形だと、最も少ない材料で巣を作ることができるからなんです。

堀口先生:へー! 面白いですね!

タカタ先生自然の中にも数学があるんですよね。面白いですよね。ちなみに、物が壊れると、ひし形の破片が出てくるんですけど……ちょっと皆さん、思い出してみてください、なんとなくそうだったかも……って思いませんか? ロケットの爆破事故があったときに、その破片がひし形だったということが見つかり、これをもとに、”ミウラ折り”という強度の強い折り方が生まれたそうなんですが(※東京大学名誉教授の三浦公亮先生が考案した折りの技術だそうです)、そのひし形を生かした「ミウラ折り」が、今の缶コーヒーのパッケージに応用されてたりするんですよ! ひし形のごつごつしたの、皆さんも記憶にないですか?

一同:おお!! あれか!!

松中先生ガリレオ・ガリレイが「自然という書物は数学という言葉で書かれている」と言ったそうですが、気付いたら数学が役に立っているんですよね! 

堀口先生:対象とその間の繋がりを扱う数学理論で「圏論(けんろん)」という分野があるんですが、私は最近、それを勉強しているんです。例えば圏論に限らず、抽象的な話で「AとBの間に関係Cがある」って言われてもピンときませんよね。でも「佐藤さんと鈴木さんが付き合っている……」と具体化すればわかりやすくなります。数学は抽象的な世界を扱うので、そういう意味では分かりづらいんです。中学・高校で学ぶ数学から抽象化が少しずつ始まってしまい、わかりにくくなっていくのです。それこそが、多くの人が数学の世界から一歩引いてしまう原因だと思います。

二宮さん:なるほど!

タカタ先生:ラマヌジャンという天才数学者がいるんですが、「女神様が自分の舌に数式を書いてくれて、それをノートに書いただけ」みたいに言ってたというエピソードがあります。そうしたら、最近の研究結果がラマヌジャンのノートの中にあったなんてことも! 繋がるつもりはなかったのに、繋がっちゃう。数学って情緒的だなと思いました。

松中先生:素数の研究をしてたら物理の最先端へ繋がったというエピソードもありますからね。図らずも、繋がっちゃうんですよね。それが数学の魅力だと思います。

数学の世界にハマったきっかけ

二宮さん:みなさんが、数学の世界にはまったきっかけは何ですか?

タカタ先生:好きになったきっかけは、小学生の時です。母の友達がドリルの訪問販売をやってて、そのドリルが家にあったので、そのドリルを小さいころからずっと解いてたんですよね。だから、気がついたら算数が好きになっていました。ぐっと好きになったのは、教員になってから。できない生徒をいかに楽しませるかを考えていたら、数学に対して情緒的な感情が自分の中に生まれていきました。数学は得意で好きだったけど、自分から前のめりになったのは教員になってからかなと思います。

堀口先生:私は学生のときです。登下校時間が1時間あって、その時間でずっと計算していました。2の倍数を唱えるのがすごい好きで、2っていいなーっていうのをずっと思っていました。数学の奥深さが垣間見えたのは、高校3年くらい。数式を使うことで、らせん構造ができたときに感動したのを覚えています。大学に入ってから、数学科の授業で「群」を学んでいたときに、物の回転は数式で表せることがわかって、「世の中、全部数学じゃん」って気付いたときに数学にハマっていきました。それからは、友達の恋愛相談を全て数学で返すとかやっていましたね(笑)。

松中先生:僕も、最初は得意から始まってます。ですが、高校数学までは好きというレベルで、大学数学から愛せるようになりました大学で学ぶ数学は、高校数学とはまったくの別物で、高校数学まででは考えられないような面白い発見がたくさんあります。高校数学まで勉強して「数学はつまらない」で終わってしまうのは、もったいないなと思いますね。

堀口先生&松中先生&タカタ先生:ぜひ、そんな面白さに気付いてもらうためにも、ロマンティック数学ナイトに参加してほしいと思います(笑)

ゲストの皆さんについて

タカタ先生(たかたせんせい)
1982年広島県生まれ。2005年東京学芸大学教育学部数学科卒業。現在、高校の数学教師(非常勤講師)と芸人の両輪で活動。「日本お笑い数学協会」の会長として、また、理系男子の芸人による「理系ナイト」出演などで、数学嫌いの日本人を単調減少させるべく奮闘中。YouTubeチャンネル「お笑い数学教師♪タカタ先生」が人気。2016年にお笑いコンビ「タカタ学園」を結成。2017年サイエンスアゴラ賞受賞(日本お笑い数学協会として)。共著に『笑う数学』(日本お笑い数学協会名義)。

口智之(ほりぐち・ともゆき)
1984年新潟県生まれ。山形大学理学部物理学科卒業。世界各国の大学生が参加する日本最大のビジネスプランコンテストで特別賞受賞。20種類以上の職を経験の後、2010年に自己資金10万円で「大人のための数学教室 和(なごみ)」創業、2011年に会社化。現在、和から株式会社代表取締役。会員数3000人以上、講師40名以上を抱えるまでに成長。

松中宏樹(まつなか・ひろき)
1986年山口県生まれ。京都大学大学院情報学研究科力学系理論分野修士課程修了。大学院修了後、国内のメーカーに勤務するが、数学への夢を諦めきれず、31歳の時に退職、「大人のための数学教室 和(なごみ)」の講師に。

 

テキスト:久保田 夏美
アテンド:まつもとゆかこ

関連書籍

二宮敦人『世にも美しき数学者たちの日常』

百年以上解かれていない難問に人生を捧げる。「写経」のかわりに「写数式」。エレガントな解答が好き。――それはあまりに甘美な世界! 類まれなる頭脳を持った“知の探究者”たちは、数学に対して、芸術家のごとく「美」を求め、時に哲学的、時にヘンテコな名言を繰り出す。深遠かつ未知なる領域に踏み入った、知的ロマン溢れるノンフィクション。

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世にも美しき数学者たちの日常

「リーマン予想」「P≠NP予想」……。前世紀から長年解かれていない問題を解くことに、人生を賭ける人たちがいる。そして、何年も解けない問題を”作る”ことに夢中になる人たちがいる。数学者だ。
「紙とペンさえあれば、何時間でも数式を書いて過ごせる」
「楽しみは、“写経”のかわりに『写数式』」
「数学を知ることは人生を知ること」
「数学は芸術に近いかもしれない」
「数学には情緒がある」
など、類まれなる優秀な頭脳を持ちながら、時にへんてこ、時に哲学的、時に甘美な名言を次々に繰り出す数学の探究者たち――。
黒川信重先生、加藤文元先生、千葉逸人先生、津田一郎先生、渕野昌先生、阿原一志先生、高瀬正仁先生など日本を代表する数学者のほか、数学教室の先生、お笑い芸人、天才中学生まで。7人の数学者と、4人の数学マニアを通して、その未知なる世界を、愛に溢れた目線で、描き尽くす!

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二宮敦人 小説家・ノンフィクション作家

1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。『正三角形は存在しない 霊能数学者・鳴神佐久のノート』『一番線に謎が到着します』(幻冬舎文庫)、『文藝モンスター』(河出文庫)、『裏世界旅行』(小学館)など著書多数。『最後の医者は桜を見上げて君を想う』ほか「最後の医者」シリーズが大ヒット。初めてのノンフィクション作品『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』がベストセラーになってから、『世にも美しき数学者たちの日常』『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』など、ノンフィクションでも話題作を続出。

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