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2019.02.09 更新

老人たちを通して、日本現代史と日本人の運命を描く感動作!有間しのぶ『その女、ジルバ』中条省平

今回ご紹介するのは、有間しのぶの『その女、ジルバ』(小学館)です。「ビッグコミックオリジナル」増刊号に2011年から足かけ8年連載され、昨年、全5巻で完結した力作中の力作です。

私がこの作品を知ったのは、季刊文化誌「フリースタイル」の特集「THE BEST MANGA 2019 このマンガを読め!」で、呉智英と小野耕世の2氏がベストワンに挙げていたからです。私はこのマンガの作者の名前さえ認識していませんでした。しかし、あまりの面白さに全巻一気読みして、びっくり仰天。私も、この作品こそが、2018年日本マンガのベストワンだと確信しました。

舞台は、老女ばかりがホステスを務めるバー「オールド・ジャック&ローズ」。

 

というと、それだけですでに今はやりの高齢者マンガの一種だと思うでしょう。たとえば、「フリースタイル」の投票でベストワンになった鶴谷香央理の『メタモルフォーゼの縁側』などが典型で、このマンガの主人公は75歳の老女。その高齢のヒロインがBL(男子同性愛)マンガに目覚め、若い腐女子と友情を温めるという話です。現代における高齢者の意外かつ柔軟かつ旺盛な人生や仕事や趣味の広がりを描くというパターンです。

しかし、『その女、ジルバ』の場合は、それにとどまりません。高齢者とは、若者にはとうてい望めない歴史の体験者なのです。だから、主人公たちの現在の生活を通して、日本現代史が描けるはずだ、という確信が作者の有間しのぶにはあります。そこが、老人のちょっと面白い現在の生きかたを題材にする、今はやりの高齢者マンガとは違うところです。

とはいえ、いきなりその物語の核心に踏みこむのではなく、主人公は40歳を迎えた女性のフリーター。女性が現代日本社会で働くことの悲哀を一身に背負った女・新(あらた)です。スーパーの不正規労働からもリストラされてしまった彼女が、老女のホステスたちと老人のバーテンのみで営むバーにちょっとした縁があって飛びこみ、新たな人生を学びはじめるという正統的なイニシエーション、人生再発見の物語としてスタートします。

ユーモアあり、哀しみあり、感動ありのじつに素晴らしい人間喜劇、群像ドラマですが、じつはこのバーを作ったジルバという女はすでに亡くなっていて、生き残った老女たちの回想と言動を通して、ジルバがブラジル移民の子供で、日本が第二次大戦に勝利したと信じるブラジルの「勝ち組」に翻弄された人物だということが分かってくるのです。

そこから一気にこのマンガは、現代日本人の運命について深く考える歴史マンガに変わっていきます。しかも、ジルバたち老女の経験は、新の故郷である福島の大震災の経験とも地続きであるという事実が浮かびあがってくるのです。

歴史とは過去でなく、現在にほかならない。ラスト近くは、滂沱の涙で絵が滲んでしまう圧倒的な感動にさらわれます。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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