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2019.03.12 更新

人間はみな擬態したダルダル星人!?ベスト3に入るべき傑作 はるな檸檬『ダルちゃん』(小学館)中条省平

今回ご紹介するマンガは、はるな檸檬の『ダルちゃん』です。全2巻が昨年の12月に出たので、各種の2018年ベストマンガの選出からは洩れてしまいましたが、間違いなくベスト3に入るべき傑作です。

主人公のダルちゃんは、本名、丸山成美、24歳の派遣社員。しかし本当は人間ではなくダルダル星人で、人間の姿をしているのは完璧な擬態なのです。だから、周囲の人びとを真似てつねに人間を演じなければならないのですが、それに疲れてときどき擬態が崩れてしまうことがあります。ダルちゃんにとって、人間であろうとすることは、とてつもないストレスなのです。

 

ダルちゃんの主な棲息領域は会社で、そこには色々な人間たちがいます。そのなかで若い男性社員のスギタがダルちゃんに近づいてきます。飲み会で酒に調子づいてダルちゃんに馴れ馴れしく接し、上から目線で、知ったかぶった説教臭い話をします。

そんな様子を横で見ていた女子の先輩サトウさんが帰りがけ、スギタみたいな男に笑顔で付きあっていたら、自分の尊厳を踏みにじられ、つけこまれて人生を支配されてしまうよ、と忠告します。ダルちゃんは、上から目線はサトウさんのほうじゃないの、と思い、スギタではなく、サトウさんを嫌いになってしまいます。

しかし、スギタはサトウさんのいうとおりの男で、ダルちゃんはラブホテルで裸になってスギタから馬鹿にされ、自分が捨てられた生ゴミになったような気持ちにさせられます。

その後、サトウさんが自分と同じような、いや、それ以上に惨い経験をしたことを知ります。サトウさんは本当に好きでもない男にすがりついて、5年つきあって3度も妊娠してそのたびに中絶したことを語ります。

「一生懸命見ないようにして 自分で自分をだましてたの 自分の本当の気持ちを知るって 実は一番難しいことなんじゃないかって思うのよ 今の自分を否定したくなくて 自分で自分に嘘ついて そうやっているうちに心に山のように傷を負っちゃって でもそのことからも目を逸らして 痛くないふりして そしたら大事なものなくしちゃった」

このサトウさんの言葉を聞いてダルちゃんは思わず涙を流し、無防備になってダルダル星人のだらしない姿をさらします。すると、サトウさんは怖がるでも気味悪がるでもなく、ダルちゃんをぐっと抱きしめます。

こんなふうに、ダルちゃんに友だちや恋人ができていくなりゆきをじつにやさしく、しかし単純かつ力強く語っていきます。こんなささくれだった世界で繊細な人間であることはかくも難しいことなのです。しかし、それを弱い人間の自己満足とすることなく、ダルちゃんはすこしずつ自分を発見していきます。自分なんて初めから存在しないのです。しかし、それでも見えてくる自分の大事なものがあることにダルちゃんは気づきます。そして私たち読者も気づきます。私たちはみんな人間の擬態を強いられているダルダル星人なのだと。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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