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今回ご紹介する五十嵐大介の新作『かまくらBAKE猫倶楽部』(第1巻)は、佐々木果(みのる)さんから教えてもらいました。
佐々木さんは、私の勤める学習院大学の同僚で、大学院に設置された身体表象文化学専攻というコースで、マンガとアニメーションの講義と研究を担当する教授です。
『まんが史の基礎問題 ホガース、テプフェールから手塚治虫へ』という、日本のマンガ研究の基本文献となった名著を書いた人でもあり、この本は、自分の出版社であるオフィスヘリアというところから刊行しています。慎み深くやさしい人柄ですが、確固たる自立自尊の人でもあるのです。
一般のマンガ好きにとっては、ササキバラ・ゴウという筆名のほうが知られているかもしれません。『〈美少女〉の現代史 「萌え」とキャラクター』(講談社現代新書)がこの筆名での代表的な著作です。
五十嵐大介の『かまくらBAKE猫倶楽部』も、ササキバラ・ゴウの名前で朝日新聞書評欄のマンガ紹介のコーナーで取りあげていました。日常に潜む幻想世界を描く至芸として賞讃されています。
佐々木さんのいうとおり、また、表題が示すとおり、『かまくらBAKE猫倶楽部』は、猫をめぐる怪異譚、現代版の「百物語」です。
舞台は、鎌倉にある「かまくら猫倶楽部」という猫雑貨の店。
語り手は、この店に入りびたって編集者としてのリモートワークをしている若い女性・有紗(ありさ)。
主な登場人物は、この店の従業員である、雑貨の絵つけを担当するガクトと、革製品を作っているマヤ。ともに性別不明な感じで、猫が転生した人間のようにも思えます。
そのほかに、雄の三毛猫(猫3万匹に1匹という珍種)のタマと、雄のノルウェージャンフォレストキャットのぶーという2匹の本物の猫が店に出入りしています。
この雑貨店を訪れる客の多くは、間違って幻の「化猫倶楽部」を目当てにしてやって来ます。
鎌倉のどこかにある「化猫倶楽部」に行くと、失踪した自分の猫に会うことができるという噂があるからです。
実際、この店で猫にまつわる怪談をした客は、「化猫倶楽部」に行けて、探していた猫に会うことができたというのですが、「化猫倶楽部」にもう一度行こうとしても、絶対に見つからない、という話です。
今回の第1巻では、9つの不思議な挿話が語られ、いずれも短いものですが、非常に濃厚な怪異性と、あっけらかんとした無責任さを巧みに融合させた見事な仕上がりです。泉鏡花や内田百閒の小説が好きな人にはたまらない幻想世界がくり広げられます。
ただし、9つ目のエピソードはまだ始まったばかりで、ガクトとマヤの過去の因縁を明かしてくれそうな気配なので、早くも2巻目が待ち遠しくなっています。
また、本作は、鎌倉という古都の異界としての魅力を描きだした点でも出色の出来栄えを誇っています。なんだか鎌倉を再訪したくてむずむずしてきます。
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