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さすらいの自由が丘

2018.12.30 公開 ポスト

祖父・平野威馬雄とラクダ色の猿股と今村三菜(エッセイスト)

「猿股(さるまた)」というものは、今もどこかに売っているのだろうか。ラクダ色でウエストにゴムのはいった、男の人のはくトランクスみたいなパンツだ。トランクスと決定的に違うのは、猿股はなんとなく全体的にビローンとした感じなのだ。

私は母方の祖父を思い出すとき、必ず猿股も一緒に思い出す。祖父は平野威馬雄(ひらのいまお)というフランス文学者で詩人だった。

祖父は、お風呂から上がると、猿股一枚で出てきて、入れ歯をちゃんと入れないで、前の方に出して、獅子舞のように入れ歯をパクパクさせ、目をひんむいて、両手を上げ、「スラバヤのキバルさんが、ワーデーワーデー」と大声を出しながら私たち三兄弟を追いかけまわした。あまりの恐怖に私は、おしっこをもらしそうだった。

「スラバヤのキバルさん云々」については、今でも意味不明だ。ただ、大人になってから、スラバヤという都市が本当にインドネシアにあるのを世界地図で発見し驚いた。

外出するときの祖父は恰好が良かった。千鳥格子(ちどりごうし)のズボンにエンブレムのついたブレザーをきて、ベレー帽を斜めにかぶっていた姿が今でも懐かしい。

祖父の家のお正月は華やかであった。今はもう見なくなってしまったが、烏帽子(えぼし)をかぶった三河万歳(みかわまんざい)の人が来たり、獅子舞が来て、笛の音に合わせて踊ったりしていた。

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今村三菜 エッセイスト

1966年静岡市生まれ。エッセイスト。仏文学者・詩人でもある祖父・平野威馬雄を筆頭に、平野レミ、和田誠など芸術方面にたずさわる親戚多数。著書に『お嬢さんはつらいよ!』『結婚はつらいよ!』(ともに幻冬舎)がある。

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