1. Home
  2. 生き方
  3. さすらいの自由が丘
  4. 祖父・平野威馬雄とラクダ色の猿股と

さすらいの自由が丘

2018.12.30 更新 ツイート

祖父・平野威馬雄とラクダ色の猿股と今村三菜

「猿股(さるまた)」というものは、今もどこかに売っているのだろうか。ラクダ色でウエストにゴムのはいった、男の人のはくトランクスみたいなパンツだ。トランクスと決定的に違うのは、猿股はなんとなく全体的にビローンとした感じなのだ。

私は母方の祖父を思い出すとき、必ず猿股も一緒に思い出す。祖父は平野威馬雄(ひらのいまお)というフランス文学者で詩人だった。

祖父は、お風呂から上がると、猿股一枚で出てきて、入れ歯をちゃんと入れないで、前の方に出して、獅子舞のように入れ歯をパクパクさせ、目をひんむいて、両手を上げ、「スラバヤのキバルさんが、ワーデーワーデー」と大声を出しながら私たち三兄弟を追いかけまわした。あまりの恐怖に私は、おしっこをもらしそうだった。

「スラバヤのキバルさん云々」については、今でも意味不明だ。ただ、大人になってから、スラバヤという都市が本当にインドネシアにあるのを世界地図で発見し驚いた。

外出するときの祖父は恰好が良かった。千鳥格子(ちどりごうし)のズボンにエンブレムのついたブレザーをきて、ベレー帽を斜めにかぶっていた姿が今でも懐かしい。

祖父の家のお正月は華やかであった。今はもう見なくなってしまったが、烏帽子(えぼし)をかぶった三河万歳(みかわまんざい)の人が来たり、獅子舞が来て、笛の音に合わせて踊ったりしていた。

ここから先は会員限定のコンテンツです

無料!
今すぐ会員登録して続きを読む
会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン

関連キーワード

関連書籍

今村三菜『お嬢さんはつらいよ!』

のほほんと成長してきたお嬢さんを奈落の底に突き落とした「ブス」の一言。上京し、ブスを克服した後も、地震かと思うほどの勢いで貧乏揺すりをする上司、知らぬ間に胸毛を生やす弟、整形手術を勧める母などなど、妙な人々の勝手気ままな言動に翻弄される毎日。変で愛しい人たちに囲まれ、涙と笑いの仁義なきお嬢さんのタタカイは今日も続く!

今村三菜『結婚はつらいよ!』

仏文学者・平野威馬雄を祖父に、料理愛好家・平野レミを伯母に持つ著者の波瀾万丈な日常を綴った赤裸々エッセイ。 ひと組の布団で腕枕をして眠る元舅・姑、こじらせ女子だった友人が成し遂げた“やっちゃった婚”、連れ合いをなくし短歌を詠みまくる祖母、夫婦ゲンカの果て過呼吸を起こす母、イボ痔の写真を撮ってと懇願する夫……。「ウンコをする男の人とは絶対に結婚できない」と悩み、「真っ白でバラの香りがする人とならできるかも」と真剣に考えていた思春期から20年余り、夫のお尻に素手で坐薬を入れられるまでに成長した“元・お嬢さん”の、結婚生活悲喜こもごも。

{ この記事をシェアする }

さすらいの自由が丘

激しい離婚劇を繰り広げた著者(現在、休戦中)がひとりで戻ってきた自由が丘。田舎者を魅了してやまない町・自由が丘。「衾(ふすま)駅」と内定していた駅名が直前で「自由ヶ丘」となったこの町は、おひとりさまにも優しいロハス空間なのか?自由が丘に“憑かれた”女の徒然日記――。

バックナンバー

今村三菜 エッセイスト

1966年静岡市生まれ。エッセイスト。仏文学者・詩人でもある祖父・平野威馬雄を筆頭に、平野レミ、和田誠など芸術方面にたずさわる親戚多数。著書に『お嬢さんはつらいよ!』『結婚はつらいよ!』(ともに幻冬舎)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP