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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

2017.09.02 公開 ポスト

第3回

長年文章講座をやってきたが、こんな力のある文章は初めて中原真智子(国語教師)

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、2016年に開催した、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートをお届けいたします。

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 生きててよかった…。しあわせだ。

 すみません、何のことやらわかりませんね。私にとって天にも昇るほど幸せな出来事があったのです。なんと、近藤勝重先生から文章を褒めていただいたのです。宿題だった作文ではありません。この「OBA通信」のことを!(※編集部注 本連載はこの「OBA通信」をもとに記事化したものです)

「よく書けている」と!ありがたやー!っていうことは、この通信を近藤先生に見せたということ?はい、そうです。感想を書いた手紙の中にしのばせておいたのです。

 今回の文章サロンは2時間の講座の後、1時間の懇親会がありました。懇親会は近藤先生が出された新刊本「今日という一日のために」へのサイン会と質問コーナーという形でした。この本がまたすばらしいのです。さりげない一日のことを、時に優しく温かく切なく書いてあります。仰々しくなく普通にいいのです。だから、感想を手紙に書いて渡しました。その時に「OBA通信1、2号」も、こそっと入れておいたのです。いや~ずうずうしいなあ、私。

 近藤先生の本は他にも持っています。「必ず書ける『3つが基本』の文章術」は2冊あります。昔買ったことを忘れてまた買ってしまったのです。私、これ、よくあります。ひどいときは3冊買っています。

〈10月に出た新刊本〉
〈サインいただきました〉
〈近藤先生のご著書〉

 質問コーナーでも当然しましたよ、質問を。

 文章術ではなく健さんのことを聞いてしまいました。

 近藤先生は若い頃から健さんのファンで、健さんの映画に励まされてきたそうです。事件記者時代には、健さんの映画を見て気持ちを立て直し、取材の現場にもどっていったそうです。

「私自身はスクリーンの健さんをながめつつ、自分の甘さやいたらなさ、否定できない裏表の顔、それゆえの悪あがきや卑屈さを今さらのように自分の中に見定め、感じ取って、少しはましな人間になって映画館を出て行ったようにも思います。」(近藤勝重著「健さんからの手紙」より)

 わかります。私も健さんに恥じない生き方がしたいということがいつも心の芯にあります。

 中学生の時に「野生の証明」を観てからずっと、健さんに憧れてきました。映画ゆかりの地も訪ねました。「駅station」の舞台になった北海道、留萌。「ホタル」の鹿児島、知覧(ちらん)。「あなたへ」の長崎、平戸。「単騎(たんき)、千里を走る」の中国雲南省、麗江(れいこう)。

 健さんが歩いた場所を歩き、眺めた場所を眺める、なんとうれしいことではありませんか。 

 2年前、中国で健さんの訃報を聞いたときは言葉を失いました。

 去年の春、3年間の中国勤務を終えて日本に帰ってきたときは、品川の健さんがよく行っていたという散髪屋に行きました。その店で覚悟を決めて「切ってください」とお願いしたら、申し訳なさそうに「男性しかやってないんです」と言われ、すごすごと帰りました。ファンというのは、かくも愚かに一途なのですわ。

 同じ日本に生まれて、同じ時代を過ごせてしあわせです。やれやれ、健さんのことになるときりがありません。文章講座からどんどん離れていきました。

 さて、今回の文章講座では5人の作文を評されました。「気付いたこと」というテーマで原稿用紙1枚分のはずが、今回も字数無視して4枚というおばさまがいらっしゃいました。私だって1枚にまとめるのに苦労のしたのよ、字数無視していいならしちゃうよ、と思いましたが、内容を読んで納得しました。どうぞ4枚書いてください、と。近藤先生も次のようにおっしゃっていました。

「ざっくばらんに気取らずに書いているところがこの原稿の強さです。押しつけがましくなくて『みなさん、いいように解釈してください』という感じ。文章的には…奔放…だけど、作文の基本的なルールを言ったところで空しい。体験が持っている力がある。生きていることの切なさ…今まで文章講座をやってきた中で、こんな作品は初めてです。」

 

今がある それはー

今井 しの

「あのオ、すなっくってなんの店の届けです。」営業許可証を受ける係の人の声に思わず笑ってしまいそうな気持ちを閉じこめて、「軽食と酒で深夜まで営業をする店のこと。」と言っても、その届け出るのは、初めての種類なのでわかりませんだって、ってことは、今のうちに許可が出たら市内初めての店、スナックになるのだ。わくワクした。20代、せいいっぱい咲こう。スナック泉よ。さあ、デビューするぞ。

 せいいっぱいの、私の努力と汗、ねむらずの結晶で、結果である。ささやかな夢だった。そこに至る前は、デパートの花と言われていた。案内係として、フランスはパリのスーツを身につけて、レースの手袋、「ローマの休日」なんて。景気は上向き、何をやっても儲かる時代だった。が…、それまでの苦労は、周りの反対に耳も貸さずの、いけずごけの旅立ちであり、ウォータ・ビジネスへの転落と、かげで悪口を言われた。燃えた。

 12坪16人席で、トイレはポットン。家賃は月1万4千円。当時としてはまアまアです。料理が上手なバーテンと二人、昼の12時から明け方の5時迄だ。ぜいたくとルールのほとんどに背を向けて、無視をした。おまわりクル、来る、11時に閉めてくれと。看板、灯りは暗くして、おまわりさんを無視。現金は踊り、廻り、人々は、外へ外へと、いい時代で儲けさせていただくとなる。

 そして次は35坪で、次は50坪へと育ってゆく。これでもう最後と腹をくくり、100人席の大型店への仲間入りを果たす。

 業者間のバトル、闘いの日々の中、サンプルの山、お試しとは、つかれてくたびれること。アサヒ、サントリ、さっぽろ、安く早く旨いを目標として、限りある財力。苦しいからパトロンがいたらと、本気で思ったりした。

 さあ、オープンだ。春だ、祝い花でいっぱい。その花に負けた。色気のない、おとこ女だと言われる私は、輝く一輪の、華になりたい、と、一瞬おもった、ひそかにですがア。その時、洗い場で騒いでいた。傷テープはどこにある、と、流し台が血の色に染まった。ジョッキの割れがひどい。ガラス片がすごい。

 やがて昭和年号が平成に移った。

 宴会があれば学生のゲロのかたづけに廻り、意識のない、動けない、を見つけて119へ。おしっこをもらす畳の上、座布団の上に。4年生か、就職はないぞ、とかげぐちを言う。私は体中を計算機にする。替える畳や、トイレの詰まり修理などに。少々うんざりもした。何度も、何度もあった。学生の宴会を、出入り禁止にすっか、イヤア、待てよ、50人70人は、ありがたい。学園祭に文化祭、各部活の集まりで、売り上げもある。私はまた、計算機になるのであります。

 日々、飲むほどに、飲まれる、酔客のケンカや殴り合いも多くなり、ビール瓶が、焼酎のボトルが、凶器に変わり、人は狂気に変わる。その姿の変わってゆく時の怖さ。東映か、日活の映画のワンシーンではなく、居酒屋の座敷で、恐ろしい本物のようすである。そこで。少しの小遣いで、動く集団を頼む。119よりすばやく、外に連れ出してゆく。ありがたいことで、助けられることも多し。書類もいらぬ。印鑑も名もいらぬ、が頼りになった。会社人間より礼儀正しく、余計なことはしゃべらず、静かに飲んで、明日の命さえも覚悟しての集まり。しかし、帰りに尻を撫でていくのが困っちゃう。エエ尻しとるのオ。ヘッありがとさん。と、47年間。夢を削りながら、年老いてゆくことに。汗と泪の結晶。移りゆく時。そして。

 神さまは、試練の病を与えてくれた。自由と少しの時間も。

 そして、今がある。そしてここに。医学も進むなか、限りある命など許せない。

 

 なんだかわけのわからない勢いがあって、わかりにくい部分もねじ込まれてしまいます。4枚に収められた自分史であり、昭和から平成への半世紀の記録です。あっけらかんとしながら最後の2段落で「え?」と、とまどいます。そしてズシンと響きます。まさに自分にしか書けない文章です。

 月に1度の文章サロンに東京まで通って、本当によかったです。健さんは言いました。

「いい風に吹かれないと人は優しくできません。でも、いい風に吹かれるためには、いい風が吹いているところに自分から行かないとだめです。」東京でいい風に吹かれてきました。自分もいい風を吹かせられるようになり たいです。合掌。

平成28年11月10日(木)

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<2017年9月9日から開催決定!>
近藤勝重さんから直接文章指導が受けられる、第二期「幸せのトンボ塾」のお申し込みも受け付けております。

関連書籍

近藤勝重『今日という一日のために』

毎日新聞夕刊(一部地域朝刊)に連載のコラム「しあわせのトンボ」。新聞が届いたらまずここから読む、という人も多い大人気コラムです。週1回、10年に及ぶ連載分から64編を厳選し、大幅な加筆修正をして1冊にまとめました。 著者の近藤勝重さんは端正な文章に定評のあるコラムニストであり、ジャーナリストです。毎日新聞の社会部時代にはグリコ・森永事件や山口・一和会の大阪戦争、日航ジャンボ機墜落事故を最前線で取材し、記事にしてきました。しかし「しあわせのトンボ」では堅苦しい話は抜きにして、散歩中に心奪われた風景、友との会話で気づいたことなど、身近な話題と世相をていねいに織り上げることを大切にしています。「日々の暮らしが穏やかに続く。その日々のほんのささやかな幸福感やありがたさを書かず、語らずして、政治に物申すことも、政治を変えることもできない」と、近藤さんは言います。 心は内に閉じ込めるものではなく、外に連れ出すものなのかもしれない。そう気付いて始めたのは、外に出て自然に触れることであった。(「心は外に」) 改めて言うまでもなく、人の心はわかりにくい。本音と建前の物言いもあれば、うそも言う。さらに言うなら、自分の心すらわかっていないのが人間だ。鏡の自分を見て、そこに映っていないもう一人の自分がささやく。「本当のことを言ったら」と。(「『わかった』はわかっていない」) その一日、何か無為に過ごしたかのような気もしたが、思い返せばよく笑った日であった。ぼくは何人もの笑いの天使に会った。今日という一日も、こんなぐあいに過ぎてくれれば日々これ好日である。(「笑いの天使とともに」) しみじみと味わい深い文章で日常のなにげない風景を鮮やかに切り取った名コラム。近藤さんとゆく〈読む散歩〉をぜひお楽しみ下さい。

近藤勝重『書くことが思いつかない人のための文章教室』

「文章を書く」とは、長い間の記憶から体験を引き出して描写することだ。自分にはそんな特別な経験はないと考える人でも、うまい引き出し方さえわかれば書ける。また、伝わる文章にしたいなら、くどくどと説明してはいけない。とにかく描写せよ。細部に目をこらして書けば、真に迫る。たとえばさびしい気持ちなら、「さびしい」と書くな。さびしさを表わす「物」を描写してそれを伝えよ――ベテラン記者で名コラムニストの著者が、ありきたりにならない表現法から、書く前の構成メモ術まですぐ使えるコツをやさしく伝授。

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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。
プロのコラムニストである近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
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あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートを全7回でお届けいたします。

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中原真智子 国語教師

中学校国語教師。岡山県倉敷市在住。 近藤勝重氏主宰の文章教室「幸せのトンボ塾」第一期生であり、その授業内容をまとめたレポートを近藤氏に評価され、幻冬舎plusでの連載にいたる。 趣味は旅・映画・読書。

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