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近藤勝重氏に学ぶ文章上達の極意

2017.09.08 公開 ポスト

第6回

抑制の効いた文章こそが伝わると心得よう中原真智子(国語教師)

好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
具体的には、どんな内容の講座になるのか?あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、2016年に開催した、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートをお届けいたします。

*   *   *

 前回のOBA通信では、近藤先生の「言葉を憂う話」について書きました。さて、1月の文章講座、続きを書きます。まずは近藤先生の人生講座です。


  毎日新聞に「女の気持ち」という読者からの投稿欄がある。これは、「これを自分の人生の最終章にしよう」として書いている作品が多い。書き残すことで文章の価値を高めている。「自分の思いの丈を残したい。これを書かずして自分の人生を閉じられない」という思いがある。つきつめてつきつめて考えたときに、書いて残すことが自分を見つめる時間になる。

 この文章教室は、文章の書き方を教えて終わるのだが…書き残すというのはどういうことか…裸の自分を書く、正直に告白する、最初の回で述べた「文章の10ヶ条」に通じることだ。

 今、言葉が危うい。ウソっぽいのに力をもって、それにわけもなく人がひっかかっていく。それは何ゆえにかというと、思考力が衰退しているからだ。話し言葉が中心になって、改まって書くということから遠ざかっている。書くこと、言葉、自分をどう表現するのか、ということを考えていないと世の中の調子のいい言葉に流されてしまう。

  「文体」とは、「文の体」つまり、自分のそのものであり、一人一人の生き方が文章になる。村上春樹はジャズが好きで、小説家になる前は自分でジャズ喫茶をしていた。そういう音楽好きが文章表現に表れている。

 書いて考えるーこの作業を今だからこそやってほしい。

 

  近藤先生の文章サロンは9月から始まって、今回の1月で5回目になります。第5回で読まれた、廣川さんの「夫っとの男 トホホの女(1)結婚」にしても、第3回で読まれた今井さんの「今がある それはー」にしても「これを書かずして人生を閉じられない」という思いが伝わってくる作品です。

 文章サロンも次回の2月で最後になります。私ももう一度作品を見てもらいたいと思っています。しかし、まだお二人のような作品は書けません。でも、渾身の一作を文章サロンの人たちと共有したいです。何を書こうか迷うところです。他の方々も同じ思いだと思います。書くのも読むのも近藤先生に評されるのも楽しみです。

 1月の文章サロンの後、日本橋三越に行きました。近藤先生から「今、日本橋三越で藤沢周平展をしている」という話があったからです。恥ずかしながら藤沢作品は一冊も読んだことがありません。高倉健さんが「蝉時雨」を絶賛していたので買いましたが、読んでません。健さんごめんなさい。

 文章サロンが終わって、日本橋三越7階「藤沢周平展」に行ってきました。入場料800円を払って中に入ると、原稿や作品を書くための構想メモなどが展示されています。優しく柔らかい字でした。近藤先生の字にも似ている気がします。壁には藤沢作品の名場面名文がパネルになって飾られています。その中で私がいいなと思ったのは、藤沢さんが昭和53年に「グラフ山形」に書いた文章です。

「私は所有するものは少なければ少ないほどいいと考えているのである。物をふやさず、むしろ少しず つ減らし、生きている痕跡をだんだんに消しながら、やがてふっと消えるように生涯を終ることが出 来たらしあわせだろうと時どき夢想する」

 いやいやいやいや、その通り。藤沢様のおっしゃる通り。物はふやしたくないし、少ない物でシンプルに暮らしていきたいです。そして、春の雪のようにふっと消える!かっこいい!さりげなく、そこはかとなく、足るを知る人生でありたい。

 しかし、現実は無駄なものばかり増えているし、でしゃばってるし、図々しいし、じたばたしてるし、みっともないです。この日だって、藤澤周平展を見た後、日本橋三越地下名店街をうろうろして、さんざん試食して、夕方2割引になった牛肉弁当買って、ホテルに帰ってわしわし食べて「まだあれも食べたかった」などと夢想していました。はあ~。藤沢周平の世界とはかけ離れています。

  それにしても、高倉健、藤沢周平、近藤勝重、村上春樹…好きな方々はつながっています。

 近藤先生の書いた文章にこんなことが書かれていました。

 

村上春樹氏は『村上さんのところ』で読者の質問(メール)にこんなコメントをしています。

「僕は一時期、藤沢周平さんの小説にはまりました。ずいぶん読みましたよ。面白いし、文章もうまいし。戦後の日本の小説家の中では、安岡章太郎さんとならんで、いちばん文章のうまい人じゃないかな」  

村上作品とまるでジャンルの違うところから挙がった名に戸惑いを覚える方もいらっしゃるでしょうね。藤沢ファンの僕には何の異論もなく、さすが村上春樹、お目が高い、といった印象ですが、ともあれ「名文を真似る」と銘打ったこのシリーズ企画は、手始めに藤沢作品を取り上げたいと思います。

(中略)

 まずは先の藤沢氏の文章を書き写してみてください。段落の取り方、句読点の打ち方といった文章上の約束事のほかに、繰り出される短い文章、動作だけの的確な描写。何ら心情吐露はなく、説明もありませんが、ひとたび決断すれば死をも恐れず裸身をゆだねる女の心情が、息づかいはもとより、衣擦れの音まで聞こえてきそうな臨場感と一緒に伝わってきます。

 

 以下、真似て学ぶべき点を三つにまとめておきましょう。

  (1)抑制の効いた文章こそが伝わると心得よう

  (2)心情説明は不要。何より描写

  (3)名文は書き写そう

 少し付け加えておきます。筆写して名文を真似ても自分は自分、他者には絶対になれません。小林秀雄氏も「模倣は独創の母である。(略)模倣してみないで、どうして模倣できぬものに出会えようか」(『モオツァルト』)とおっしゃっています。

(ピクシブ文芸連載記事「名文を真似る」より)

 真似をしていいんです。いいものはしっかり吸収して自分の細胞に染み渡らせたいです。

 さて、私は何を書きましょう。人生のアクセント、転機、クライマックス。…クライマックスはいつでもこれからでありたいですね。まあ、そんなに重くないこと、でも深いこと温かいこと、が書けたらいいなあ…。夢想。

 中学3年生の受験期はつらかったけれど思い出深いなあ。受験勉強でストレスがたまって、朝ご飯の時、妹のご飯を握りつぶしたり、頭に味噌汁をかけたりしたっけ。ごめんねー。

 高校1年生の初めの半年は、今考えればうつ状態だったなあ。立ち直れたのは母と友のおかげだわ。

 大学4回生のときも社会に出るに当たっていろいろ悩んだなあ。こうやって中学校の教員になったのは、そのころ出会った人の影響が大きいなあ。

 1995年の阪神淡路大震災は驚いた。地震のない岡山でも震度4だった。明け方5時46分、揺れに目が覚めて一番にしたことは、ステレオのスピーカーに置いていた花瓶を下ろすことだった。火事になったら枕を持って逃げるタイプだな、私。この年はサリン事件もあったし、個人的にも忘れられないことの連続だった。教員を辞めたいと何度も思った、よくぞ続いたわ。

 2011年にまたあんな大震災が起こるなんてびっくりだ。3月11日は入試引率に行っていて、帰って学校でテレビをつけたらすごい映像が流れていた。ちょうど前日に「ヒア・アフター」というスマトラ沖地震で起こった巨大津波の映画を見たばかりだったので、映画なのか現実なのか混乱した。(この映画は翌日から公開中止となった)この年の4月、日米教員交流事業で2週間アメリカに行くことができて、大阪や気仙沼や熊本の先生と知り合いになれて、被災したときの話やもろもろを聞いて、自分も海外へ行って働きたいと思い、翌年、蘇州日本人学校に行ったのだよなあ。中国生活3年間は、よかった。本当に。

 考えてみると、人生の節目節目に出会いがありました。ありがたいありがたい出会いです。文章サロンに集う方々ともほとんど話をしたことはありませんが、文章を通じて素晴らしい出会いになりました。いやあ、きれいにまとめちゃったわ。では、次回2月、最終回に向けて、書くぞお。

 

 2017年1月14日(土)明日は雪かも。

*   *   *

 

関連書籍

近藤勝重『今日という一日のために』

毎日新聞夕刊(一部地域朝刊)に連載のコラム「しあわせのトンボ」。新聞が届いたらまずここから読む、という人も多い大人気コラムです。週1回、10年に及ぶ連載分から64編を厳選し、大幅な加筆修正をして1冊にまとめました。 著者の近藤勝重さんは端正な文章に定評のあるコラムニストであり、ジャーナリストです。毎日新聞の社会部時代にはグリコ・森永事件や山口・一和会の大阪戦争、日航ジャンボ機墜落事故を最前線で取材し、記事にしてきました。しかし「しあわせのトンボ」では堅苦しい話は抜きにして、散歩中に心奪われた風景、友との会話で気づいたことなど、身近な話題と世相をていねいに織り上げることを大切にしています。「日々の暮らしが穏やかに続く。その日々のほんのささやかな幸福感やありがたさを書かず、語らずして、政治に物申すことも、政治を変えることもできない」と、近藤さんは言います。 心は内に閉じ込めるものではなく、外に連れ出すものなのかもしれない。そう気付いて始めたのは、外に出て自然に触れることであった。(「心は外に」) 改めて言うまでもなく、人の心はわかりにくい。本音と建前の物言いもあれば、うそも言う。さらに言うなら、自分の心すらわかっていないのが人間だ。鏡の自分を見て、そこに映っていないもう一人の自分がささやく。「本当のことを言ったら」と。(「『わかった』はわかっていない」) その一日、何か無為に過ごしたかのような気もしたが、思い返せばよく笑った日であった。ぼくは何人もの笑いの天使に会った。今日という一日も、こんなぐあいに過ぎてくれれば日々これ好日である。(「笑いの天使とともに」) しみじみと味わい深い文章で日常のなにげない風景を鮮やかに切り取った名コラム。近藤さんとゆく〈読む散歩〉をぜひお楽しみ下さい。

近藤勝重『書くことが思いつかない人のための文章教室』

「文章を書く」とは、長い間の記憶から体験を引き出して描写することだ。自分にはそんな特別な経験はないと考える人でも、うまい引き出し方さえわかれば書ける。また、伝わる文章にしたいなら、くどくどと説明してはいけない。とにかく描写せよ。細部に目をこらして書けば、真に迫る。たとえばさびしい気持ちなら、「さびしい」と書くな。さびしさを表わす「物」を描写してそれを伝えよ――ベテラン記者で名コラムニストの著者が、ありきたりにならない表現法から、書く前の構成メモ術まですぐ使えるコツをやさしく伝授。

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好評につき、第二期開催が決定した、コラムニスト近藤勝重さんによる、文章が学べるサロン「幸せのトンボ塾」。
プロのコラムニストである近藤さんから直接添削指導が受けられる、少人数制の贅沢な講座です。
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あらためて文章を学びたいと思う方へ向けて、第一期受講者のお一人で、国語教師の中原真智子さんによるレポートを全7回でお届けいたします。

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中原真智子 国語教師

中学校国語教師。岡山県倉敷市在住。 近藤勝重氏主宰の文章教室「幸せのトンボ塾」第一期生であり、その授業内容をまとめたレポートを近藤氏に評価され、幻冬舎plusでの連載にいたる。 趣味は旅・映画・読書。

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