
前回は、その日に届いた書籍の箱を開け、中の本をその置き場所まで持っていくという話を書きました。後編では、その本を実際に並べる作業のことを書いてみたいと思います。

一度売れた本が再び入ってきた場合、基本的には前に並べていた場所に置きます。一冊なら棚の中に背表紙が見えるように並べ(「棚差し」と言います)、数冊ある時はその棚の前に表紙が見えるように置きます(「平積み」と言います)。平積みの場合は置く際に、⑴ 同じ著者の本があればその本の隣に並べる、⑵ 同じ種類の本は近くに並べる、⑶ 同じ版型の本が揃うように並べる(見やすくなります)、ということを意識しながら、その最適解を探していきます。通常、よく売れているものを目立つように手前の列に置きますが、Titleの場合は、平積みは縦に二列しか置けないので、「手に取りやすい」ということも考えながら、後ろの列の本の高さが低くならないように気をつけます。

何かの本を新しくそこに置くということは、別の本が外れてしまうということです。冊数が少なくなっており、「最近この本はどうも売れていないな」というものがあれば、それを平積みから外して、そのジャンルの棚に差します。1冊しかなくても、よく売れている本はそのままにして売り切り、なるべく本の回転を良くします(その際に追加の注文は出します)。

棚に本を差すときに、そこの棚がきつくてこれ以上入らないという時は、何かの本を抜いて「返品」しないといけません。通常であれば、売れていない本がその対象になってしまいますが、中には売れていなくても、そこに置いておきたい本というのもあります。それは、「その本がなくなれば、そのジャンルすべてがこの店から消えてしまう」「それを置くことで店の精神が説明できるような象徴的な本である」などの理由によります。しかしそのように考えて選び、泣く泣く返品した商品が、その後ですぐに問い合わせを受けたりすることも、よくある話なのです。
いずれにしても本は、その本屋が触れば触るほどよく売れます。「触る」ということは、それだけ気にかけているということであり、そのことがどこかでお客さまに伝わっているからだと思います。
今回のおすすめ本

『ほくはパン Je suis le pain』かねこあつし・かねこやすこ著(Blood Tube Inc.)
旅するデザイナー夫妻がつくった本は、パンを題材にしたえほん(以前は旅の本をつくられていました)。水彩で描かれた絵が、本当にかわいい。そしてかわいいだけでなく、どこかせつない。本業だけあって、ブックデザインも秀逸です。プレゼントにもおすすめ。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年8月9日(土)~ 2025年8月26日(火)Title2階ギャラリー
岡野大嗣と佐内正史の写真歌集『あなたに犬がそばにいた夏』(ナナロク社刊)の刊行記念展。佐内正史の手焼き写真5点の展示販売、岡野大嗣の短歌と書き下ろし作品などなど、本書に描かれる夏の日が会場にひろがります。短歌×写真のTシャツ「TANKA TANG」ほか刊行記念グッズの販売もございます。ぜひ足をお運びください。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
〈いま〉を〈いま〉のまま生きる /〈わたし〉になるための読書(6)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は〈いま〉をキーワードにした2冊。〈意志〉の不確実性や〈利他〉の成り立ちに分け入る本、そして〈ケア〉についての概念を揺るがす挑戦的かつ寛容な本をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。