
定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』では、四季のはっきりした安曇野での暮らしやおしゃれの工夫、毎日をごきげんに過ごす秘訣など、80歳を迎えた德田さんの心豊かな日々をご紹介しています。本書より、一部をお届けします。
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中古の家を購入するつもりが見つからず、イチから建てることにしました
どこに住んで、どんな家で暮らすのか。当初、「ここで暮らしたい!」と具体的な候補地があったわけではありませんでした。自分たちが思うままに、まずは、物件探しから始めました。
気になる町の不動産屋の情報を調べては、週末、夫婦でドライブがてら物件探しによく出かけたものです。ある時期、関東近郊の海沿いの町が気に入って、真剣に家探しをしたものの、実際に調べてみると、家は素敵でも環境がいまいちだったり、環境はよくても物件が少なかったり。予算もありますし、なかなか条件に合う家は見つかりませんでした。
安曇野との出会いはそんなとき、実はまったくの偶然でした。
たまたま信州へドライブで遊びに行った際、カーブを抜けた先の橋を渡ったときに突然、北アルプスのパノラマ、雄大な山並みが眼前に広がって。
そのとき、一瞬で「わあ、こんなところに住みたい!」って思ったんです。夫も同じように感じていました。
そうです。第二の人生の地は探して探してたどり着いたわけでなく、こんな不意の出会いで簡単に決まったんです。景色を見た瞬間、「住むならここ」って、夫婦で意見が一致したことは本当によかった。
ただし、すぐに住めるような、金銭的にもちょうどいい中古の家は見つからず。そんなときにまた、現在の土地との出会いがありました。
我が家の土地は、初見では田んぼの跡地と雑木林の状態でした。まだ宅地として認可されていない土地でしたが、「よかったら見てみますか」と、松本の不動産屋に紹介してもらいました。場所は、なだらかな丘陵地で、周囲は別荘や地元の人が暮らす住宅などが混在するのんびりとしたのどかな場所です。
田んぼの跡地と雑木林ということで、まず造成して更地にし、本当にイチから家づくりをしなくてはなりません。ただ、更地にもなっていない自然の雑木林という土地の佇まいを見たからこそ、気に入ったのかもしれません。林に残っていた自生の大きな山栗の木など、気に入ってわざわざ新居の庭へ残した木もありました。憧れていた、まさに自然に囲まれた場所での土に触れる暮らしに向けて、イチからの家づくりでした。
我が家の南の庭の向こう、つまり隣接地は今も雑木林のままです。その借景もとても気に入っています。

80歳、私らしいシンプルライフ

定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』が8月6日に発売となりました。本書より、試し読み記事をお届けします。