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本屋の時間

2017.07.15 更新 ツイート

第16回

本屋に響く足音辻山良雄

 Titleの床は杉の木を張り渡しており、人が歩くとミシッと音がします。レジカウンターの中からは、直接お客さまの姿は見えないのですが、その音のおかげでどういう人が来たのか、毎日いると足音でわかるようになります。

 足音の間に「ドン」とする音が混じるのは、杖を突いたおばあちゃんです(おじいちゃんの場合もあります)。その音が聞こえたら、客注や定期購読の雑誌がなかったか確認します。Titleから駅までは、歩くと十分と少しかかりますから、店の近所に住むご年配の方には、駅まで行かずにTitleで読みたい本を取り寄せする方が多いのです。

 少し軽めで歩数の多い足音は、子どものものです。子どもは、すぐに店の奥まで来ることが多いですが、それは一つには物珍しさから、他には『コロコロコミック』など毎回買うものが決まっているケースが多いからです。そのあとは階段を上り、2階を元気に走り回る足音が聞こえてきます。

 

 入口からドンドンと音が大きく、まっすぐ奥に向かってくる足音は、宅配便のお兄さんか、そうでなければスーツ姿の営業の人のものです。なぜかと言えば、「店を殆ど見ていない」足音だからです。その人はカウンターにいる私に用事があったので、まずはそこにと思ったのかもしれません。でも私は、「営業で来ても、ついつい先に本を見てしまう人」の方を、信用しています。

 でも、一番多いのは気配がなく、こちらが気付くと本を見ているという人です。「誰も人が来ないな……」と思って本を整理しに行くと、何人も人がいて、「いたのか!」と驚くことがあります。本屋としては喜ばしいことでありますが、いささか不用心なことでもあります。

 本をじっと見ている時、人はもの静かな身のこなしになります。それはそこに並べている本と対話をしているからだと言えますし、本屋に出来ることは、なるべくその邪魔をしないということだと思っています。

 

 今回のおすすめ本

『愛されすぎたぬいぐるみたち』マーク・ニクソン著 金井真弓訳(オークラ出版)

 長年持ち主に愛されて、ぼろぼろになったぬいぐるみ。他人からは、ただの汚れたぬいぐるみにしか見えないかもしれないが、それは宝物以上のものだ。

 一緒にいた時間を物語る、ほころびや欠損までが、鈍く光って見える。

 

 

◯Titleからのお知らせ
6月1日(月)から、書店・カフェともに店頭での営業を行います。短縮営業です。詳細はこちらをご覧ください。

◯2020年7月9日(木)19時30分~ オンライントーク 参加費無料

本の世界をめぐる夜会
『学びのきほん 本の世界をめぐる冒険』刊行記念 オンライントーク

「学びのきほん」シリーズと連動するイベント、今回は『本の世界をめぐる冒険』の刊行記念。登壇者は、著者のナカムラクニオさん、この本の校正を担当した牟田都子さん、店主辻山良雄の3人。司会進行は「学びのきほん」編集担当の白川貴浩さん。各々が経験してきた「本をめぐる冒険」をざっくばらんに語り合います。オンラインのアドレス等、詳細はTitleホームページへ。

◯2020年7月2日(木)~ 2020年7月27日(月) Title2階ギャラリー

OTHERS
中山信一個展

コロナウィルスの影響により延期となった中山信一個展「OTHERS」を、7月2日より開催。新作『OTHERS』に収録されている原画30点を展示販売する他、Titleでの展示のために制作した、店主・辻山との合作短編小説「ねこのひかり」(文・辻山良雄 絵・中山信一)の原画も合わせて展示します。


 

◯朝日新聞(耕論)2020.6.18
自粛要請と自由 新型コロナ 辻山良雄さん、戸羽太さん、青井未帆さん

◯nippon.com インタビュー 2020.5.4
たたかう「ニッポンの書店」を探して
本を自分で紹介し、売ることに賭ける-東京荻窪「Title」


◯『本屋、はじめました』増補版がちくま文庫から発売、たちまち重版!!

文庫版のための一章「その後のTitle」(「五年目のTitle」「売上と利益のこと」「Titleがある街」「本屋ブーム(?)に思うこと」「ひとりのbooksellerとして」「後悔してますか?」などなど)を書きおろしました。解説は若松英輔さん。
 


 

 

◯辻山良雄・文/nakaban・絵『ことばの生まれる景色』ナナロク社

店主・辻山が選んだ古典名作から現代作品まで40冊の紹介文と、画家nakaban氏が本の魂をすくいとって描いた絵が同時に楽しめる新しいブックガイド。贅沢なオールカラー。

 

 ◯辻山良雄『365日のほん』河出書房新社

春、夏、秋、冬……日々に1冊の本を。書店「Title」の店主が紹介する、暮らしを彩るこれからのスタンダードな本365冊。

 

 ◯辻山良雄『本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録』苦楽堂 ※5刷、ロングセラー!! 単行本

「自分の店」をはじめるときに、大切なことはなんだろう?物件探し、店舗デザイン、カフェのメニュー、イベント、ウェブ、そして「棚づくり」の実際。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂)、『365日のほん』(河出書房新社)がある。

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