1. Home
  2. 生き方
  3. 本屋の時間
  4. 泣く泣く返品する本も 〜品出しの実際・後...

本屋の時間

2017.07.01 公開 ツイート

第15回

泣く泣く返品する本も 〜品出しの実際・後編〜 辻山良雄

 前回は、その日に届いた書籍の箱を開け、中の本をその置き場所まで持っていくという話を書きました。後編では、その本を実際に並べる作業のことを書いてみたいと思います。

 一度売れた本が再び入ってきた場合、基本的には前に並べていた場所に置きます。一冊なら棚の中に背表紙が見えるように並べ(「棚差し」と言います)、数冊ある時はその棚の前に表紙が見えるように置きます(「平積み」と言います)。平積みの場合は置く際に、⑴ 同じ著者の本があればその本の隣に並べる、⑵ 同じ種類の本は近くに並べる、⑶ 同じ版型の本が揃うように並べる(見やすくなります)、ということを意識しながら、その最適解を探していきます。通常、よく売れているものを目立つように手前の列に置きますが、Titleの場合は、平積みは縦に二列しか置けないので、「手に取りやすい」ということも考えながら、後ろの列の本の高さが低くならないように気をつけます。

 

 何かの本を新しくそこに置くということは、別の本が外れてしまうということです。冊数が少なくなっており、「最近この本はどうも売れていないな」というものがあれば、それを平積みから外して、そのジャンルの棚に差します。1冊しかなくても、よく売れている本はそのままにして売り切り、なるべく本の回転を良くします(その際に追加の注文は出します)。

 棚に本を差すときに、そこの棚がきつくてこれ以上入らないという時は、何かの本を抜いて「返品」しないといけません。通常であれば、売れていない本がその対象になってしまいますが、中には売れていなくても、そこに置いておきたい本というのもあります。それは、「その本がなくなれば、そのジャンルすべてがこの店から消えてしまう」「それを置くことで店の精神が説明できるような象徴的な本である」などの理由によります。しかしそのように考えて選び、泣く泣く返品した商品が、その後ですぐに問い合わせを受けたりすることも、よくある話なのです。

 いずれにしても本は、その本屋が触れば触るほどよく売れます。「触る」ということは、それだけ気にかけているということであり、そのことがどこかでお客さまに伝わっているからだと思います。

 

今回のおすすめ本

『ほくはパン Je suis le pain』かねこあつし・かねこやすこ著(Blood Tube Inc.)

 旅するデザイナー夫妻がつくった本は、パンを題材にしたえほん(以前は旅の本をつくられていました)。水彩で描かれた絵が、本当にかわいい。そしてかわいいだけでなく、どこかせつない。本業だけあって、ブックデザインも秀逸です。プレゼントにもおすすめ。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

○2024年4月12日(金)~ 2024年5月6日(月)Title2階ギャラリー

『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』小林エリカ原画展

科学者、詩人、活動家、作家、スパイ、彫刻家etc.「歴史上」おおく不当に不遇であった彼女たちの横顔(プロフィール)を拾い上げ、未来へとつないでいく、やさしくたけだけしい闘いの記録、『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』が筑摩書房より刊行されました。同書の刊行を記念して、原画展を開催。本に描かれましたたリーゼ・マイトナー、長谷川テル、ミレヴァ・マリッチ、ラジウム・ガールズ、エミリー・デイヴィソンの葬列を組む女たちの肖像画をはじめ、エミリー・ディキンスンの庭の植物ドローイングなど、原画を展示・販売いたします。
 

 

【書評】New!!

『涙にも国籍はあるのでしょうか―津波で亡くなった外国人をたどって―』(新潮社)[評]辻山良雄
ーー震災で3人の子供を失い、絶望した男性の心を救った米国人女性の遺志 津波で亡くなった外国人と日本人の絆を取材した一冊
 

【お知らせ】New!!

「読むことと〈わたし〉」マイスキュー 

店主・辻山の新連載が新たにスタート!! 本、そして読書という行為を通して自分を問い直す──いくつになっても自分をアップデートしていける手段としての「読書」を掘り下げる企画です。三ヶ月に1回更新。
 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて毎月本を紹介します。

毎月第三日曜日、23時8分頃から約1時間、店主・辻山が毎月3冊、紹介します。コーナータイトルは「本の国から」。4月16日(日)から待望のスタート。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
 

黒鳥社の本屋探訪シリーズ <第7回>
柴崎友香さんと荻窪の本屋Titleへ
おしゃべり編  / お買いもの編
 

◯【店主・辻山による<日本の「地の塩」を巡る旅>書籍化決定!!】

スタジオジブリの小冊子『熱風』2024年3月号

『熱風』(毎月10日頃発売)にてスタートした「日本の「地の塩」をめぐる旅」が無事終了。Title店主・辻山が日本各地の本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方をインタビューした旅の記録が、5月末頃の予定で単行本化されます。発売までどうぞお楽しみに。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

{ この記事をシェアする }

本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP