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地球外生命は存在する!宇宙と生命誕生の謎

2017.06.26 更新

「誤訳」から私財をつぎ込んで火星観測を続けた男縣秀彦

果たして現在の科学は、どこまで地球外生命に迫っているのか?
そもそも、地球外生命は存在するのか?

研究国立天文台天文情報センターの縣秀彦(あがたひでひこ)さんの新書『地球外生命は存在する!』からの短期集中連載、第2回は約100年前にさかのぼり、空想と科学が相互に作用しながら発展していった過程を見ていきます。

 

まだ見ぬ運河を探して。誤解から始まった火星観測

H.G. ウェルズ『宇宙戦争』 →Amazonへ

 ガリレオらが天体望遠鏡を月に向けて以来、およそ400年の間に望遠鏡という道具によって、宇宙について実に多くの知見が得られました。しかし、望遠鏡のレンズを通して天体を詳しく観測できるようになったといっても、その表面に住むであろう生命体の姿まで写し出せるほどの分解能があるわけではありません。

 人類の宇宙人への想いは、漠然としながらも様々な人に引き継がれましたが、20世紀初頭まではお世辞にも科学的とは言えない、想像の域を超えることのない空想の世界で推移していきました。

 

 アストロバイオロジーに関してもっとも有名なエピソードは、火星人探しに人生を賭けた米国人パーシヴァル・ローウェルの物語でありましょう。

 1855年に資産家の家庭に生まれ、日本や韓国にも滞在したことのある東洋の研究家ローウェルが火星に魅せられたのは、火星の表面に「運河」があると誤解したためでした。

 イタリアの高名な天文学者ジョヴァンニ・スキャパレリの詳細な火星スケッチには、直線状の構造が複数描かれ、スキャパレリはこれをイタリア語で自然にできた溝や水路を意味する「canale」と表現していました。この言葉が「canal=運河」と英語に誤訳されて伝えられ、ローウェルは火星には人工的な運河を建設するくらいの高等な生物(=火星人)が住んでいると信じ込んでしまったのです。そして自分の目で運河を確認したいと、ローウェルは私財をつぎ込んでアリゾナ州フラッグスタッフに私設の天文台を建設し、火星の観測に没頭します。

 その後、火星の表面に運河や直線状の水路は存在しないことが明らかになっていますが、当時、世の中に多大な影響を与えたことは間違いありません。なお後年、このローウェル天文台にて冥王星が発見されています。

冥王星とその衛星シャロン (C) NASA / JHUAPL / SwRI


 ローウェルの時代、すなわちいまから遡ることおよそ100年前は、多くの人が火星には火星人が住んでいると信じていたことは驚くべき事実と言えましょう。

 ローウェルの火星運河説に影響を受けた英国のSF作家H・G・ウェルズは、1898年に『宇宙戦争』(原題『The War of the Worlds』)を発表します。地球人より高度な文明を持つ、お馴な染じみのタコ型火星人が地球に攻めてくるというSF小説で、何回も映画化されました。

 それから40年後、今度は米国にて、のちの名優オーソン・ウェルズがラジオドラマとして『The War of the Worlds』を放送します。1938年10月30日、ハロウィンの前夜に放送されたこのラジオドラマでは、火星人がアメリカに攻めてきたという想定でしたが、「これはドラマです」というたびたびの注釈にもかかわらず、全米に大パニックを引き起こします

 私はNHKラジオ第1の番組「ラジオ深夜便」に出演していますが、NHKラジオセンターの皆さんに聞いた話によると、いまでもアナウンサーの初任者研修において、この話はラジオでの情報提供の教訓として語られているそうです。

 

それでも科学者は夢を見る

 時代が進み、20世紀後半の人工衛星・宇宙探査機時代に入ると、各国の探査機が次々と火星を目指すようになります。

 1964年に打ち上げられた探査機「マリナー4号」は、世界で初めて火星の近接撮影に成功しました。その表面の写真を見ると、運河はもちろん、生き物の気配すら全くありません。詳しい探査の結果、火星の大気圧は地球の170分の1、平均気温はマイナス63℃と、とても大型の動物が生存できる環境ではありませんでした。

 こうした火星探査衛星からの映像や情報によって、火星は知的生命体が存在できるような環境ではないことが明らかになり、火星人はおろか、目視可能な生命体さえ存在しないことを私たちは理解していきます。

マリナー4号 (C) NASA


 しかし、1996年、NASAの研究者が火星から地球に飛来した隕石の分析を行い、微小サイズの化石が発見されたことを発表すると、科学者のみならず社会的にも大きな反響を呼びます。それは「1万3000年前に火星から地球に落下したと見られる隕石から、原始的な微生物らしい化石と生命活動の痕跡と見られる化合物を確認した」という内容でしたが、日本でも大きく報道され、たいへんな話題となりました。

 この隕石は、かつて小惑星などが火星に衝突した際に、火星の表面の岩石が太陽系空間にはじき飛ばされ、それが宇宙を漂ううちに隕石として地球に落下したものと考えられています。火星から飛来したという証拠は、隕石の中のせまい空間に閉じ込められた気体成分が火星大気のものと同じであることから確認されました。

 隕石から見つかった化石らしき構造は、電子顕微鏡で見ないとわからないくらいのサイズで、体長が1万分の1ミリメートル程度と、地球上の最小の生命と比べてもその大きさは半分以下しかありません。

 NASAの発表はその後、学界において10年以上の論争を生みましたが、結局、それは生物ではないと考える研究者がほとんどです。

 火星に生命は存在しているのかいないのか、または、かつて存在していたのかどうか。この論争を巡っては、いまだに明確な答えは得られませんが、かつてのローウェルのように火星に生命活動を夢見る人々が後を絶たないのは事実です。


 こうして火星、金星、水星、木星、土星……と、惑星探査機が次々にその表面の様子を写し出し、他の惑星に生物が住んでいるかもしれないというアストロバイオロジーの夢や希望を打ち砕いていく様は、まるで400年前のガリレオ以降、月にはうさぎはおろか生物がいる気配も全くないことを、天体望遠鏡が示していったのとよく似ています。

 いまでも、天体観望会で月の荒涼とした光景を初めて望遠鏡で眺めて、「うさぎさんが月にいるという子どもの頃からの夢がなくなってしまいました」と感想を述べる方がいらっしゃいます。

 しかし、科学の進歩により新しい知見が生まれる過程は、想像から抜け出して現実の宇宙生命の夢を新たに構築していく過程でもありました。

*  *  *

※次回「地球外生命への手紙の書き方(仮)」は6月29日(木)公開予定です

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果たして現在の科学は、どこまで地球外生命に迫っているのか?そもそも、地球外生命は存在するのか?

研究国立天文台天文情報センターの縣秀彦(あがたひでひこ)さんの新書『地球外生命は存在する!』からの短期集中連載です。

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縣秀彦

1961年生まれ。自然科学研究機構国立天文台准教授、天文情報センター普及室長。国際天文学連合国際普及室長。専門は天文教育と科学コミュニケーション。東京大学教育学部附属中学・高校教諭を経て現職。日本天文学会天文教材委員長、日本科学教育学会理事、日本サイエンスコミュニケーション協会副会長、天文教育普及研究会長などを歴任するほか、テレビやラジオ等でも活躍。「科学を文化に」「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。著書多数。

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