(photo : 齋藤陽道)
Titleは先日の1月10日、開店一周年を迎えました。この一年の間には近所の方はもちろんですが、北は北海道の知床から、南は沖縄の与那国島まで、さまざまな地域の方にもお越しいただきました。

遠方よりお越しのお客さまとお話しした際には、「近所にTitleのような本屋があると嬉しいのだけど……」ということを言っていただくことが数多くありました。ありがたく嬉しい言葉ですが、同時に本をめぐる厳しい状況のことが思い起こされて、複雑な気持ちにもなりました。
本屋は少し前までは、どこに住んでいても身近にある存在だったように思います。しかし後継者不足や売上の減少による閉店で店の数が減り始め、いまや家の近所に気軽に立ち寄れる本屋がある街の方が、珍しくなっているのではないでしょうか。
そうした時代では、本の買われ方が従来とは変わってきます。お客さまを見ていると、漠然とした気持ちで本を眺めながら、その場から気に入ったものを選ぶというよりは、SNSやマスメディアなどで知った情報をもとに、特定の本を求めるというかたが増えているように思います。様々な種類の本を気軽に手に取れる状況がなければ、本との出合いに偏りが出てしまうのは仕方がないことでしょう。
しかし悲観するだけでは、本もこの時代から取り残されてしまいます。店が売りたい本を積極的に紹介し、それをお客さまに購入していただくという機会は、いまの方がより広がっているように思います。これは何も特別なことではなく、魚屋さんがその日に入った新鮮な魚を紹介して、その魚が売れていくのと同じことです。

本屋はこれまで身近にある存在だったがゆえに、多くの店が届いた本をただ並べて、あとはお客さまに選んでいただくというスタンスでした。Titleでは入荷した本を、ツイッターなどを通じて紹介しており、WEB SHOPでも本を販売しておりますが、全国からご注文いただく本の多くは、Titleで紹介したことのある本です。近所に住んでいる顔の見えるお客さまと同様に、顔は見えなくても、遠くに住んでいる人とも、同じ価値観を共有しながら繋がることができる、そんな新しい時代に生きていることを実感しながら、毎日本を並べています。
今回のおすすめ本

自分のことで恐縮ですが、この度Titleに関する本を書きました。Titleが出来るまでと開店してからのこと、前職の大型書店のこと……。本を売ること、一つの店を作ることに関して、とにかく具体的に書いていますが、本の仕事をしていない方にも、どこか共感できる箇所があると思います。
1月10日よりTitleで先行発売、全国の書店に並ぶのは25日頃からです。Titleの店頭かWEBSHOPでご購入のお客さまには「2016年の毎日のほん」という小冊子を特典として差し上げます。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年11月28日(金)~ 2025年12月22日(月) Title2階ギャラリー
劇画家・バロン吉元が1971~72年に発表した代表作『昭和柔俠伝』(リイド社刊)の復刊を記念し、同作の原画のみを一堂に集めた初の原画展を開催します。物語の核となる名場面を厳選展示。バロン吉元はいかに時代を切り取り、そこに生きる人々の温度を紙にこめてきたのか……。印刷では伝わりきらない、いまだ筆致に息づく力を通して、原稿用紙の上で世界が立ち上がる軌跡を、原画で体感いただける機会となります。
◯2025年12月25日(木)~ 2026年1月8日(木) Title2階ギャラリー
毎年恒例の古本市が、今年もTitleに帰ってきました! Titleの2階に、中央線からは遠いお店からこの辺りではお馴染みの店まで、6店舗の古本屋さんが選りすぐりの本を持ち寄って、小さな古本市を開催します。10回目の今年は、新しい店も参加します! 掘り出しものが見つかると古本市、ぜひお立ち寄りください。
【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になります】
本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えます。同日よりその10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になります。
各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。
Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
■書誌情報
『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』
Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
心に熾火をともし続ける|〈わたし〉になるための読書(7)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
あらゆる環境が激しく、しかもよくない方向に変化しているように感じる世界の中で、本、そして文学の力を感じさせる2冊を、今回はご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。















