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沈黙の患者

2026.09.22 公開 ポスト

担当編集とおしゃべりその3 目撃したことを主人公に託して

初めての取材旅行で訪れた能登半島・穴水町を舞台に執筆を始めた矢先、震災に見舞われて…南杏子

現役医師で作家の南杏子さん。デビュー作『サイレント・ブレス』(2016年9月)から10年目の同じ9月に『沈黙の患者』が発売になりました。デビュー10周年記念作品! というわけで、この10年苦楽を共にした(?)担当編集Kと南杏子さんで、ざっくばらんに色々振り返ったおしゃべりをお届けします。

第3弾は、震災に見舞われた能登半島を舞台にした『いのちの波止場』のことなど。

*  *  *

2023年秋に取材旅行で訪れた穴水町
穏やかな内浦の風景

いのちの停車場』『いのちの十字路』に続く「いのちシリーズ」第3弾にして最後の作品は、能登半島の穴水を舞台にした『いのちの波止場』。2023年秋に能登半島へ取材旅行に行きました。でも、執筆を始めようとした矢先、能登半島地震が発生してしまいました。

編集 シリーズの舞台を金沢から能登半島のどこかに移そうということで、二人で初めての取材旅行に行きました。

まずは、タクシーで能登半島を一周して。運転手さんに輪島の朝市、白米千枚田、塩田村、曽々木海岸、珠洲、穴水と案内してもらいました。

編集「まほろば診療所」の院長で、シリーズの準主役である仙川先生が故郷に戻って命を閉じるお話で、その「故郷」をどこにしようかと探したんですよね。それで穴水を舞台にしようとなったんですが、決め手は?

能登半島は海岸線がずっと綺麗だったんですが、やはり、内浦の穏やかで美しい風景が良かったのと、穴水のこぢんまりした感じが良かったです。あと、のと鉄道にも乗って、そののんびりした景色にも心惹かれました。

編集 主人公の看護師・麻世ちゃんは、のと鉄道に乗って穴水にやってくることにしたんですよね。そして、麻世ちゃんが住むアパートはここにしようとか、行きつけのラーメン屋さんはここがいいとか、一通り歩きました。それが2023年10月のことでした。

24年に入ったら執筆を始めようと思ったんですが、元日に能登半島地震が発生してしまって。

編集 どうしたらいいか、悩みましたよね。

当事者ではない自分が、震災で被害を受けた町や人を描くのは難しいと思いました。

編集 それで、24年の春からで考えていた物語を震災前の23年に設定しました。ただ、震災後に出る本なので、全く描かないわけにもいかないので、エピローグで震災後の穴水を書くことにして、24年8月に再び取材に行ったんですよね。

震災から8ヶ月も経っているのに、神社は壊れたままだし、あちこちにブルーシートで覆われた家があって、ショックを受けました。エピローグでは、仙川先生を看取って穴水を離れた麻世ちゃんが、病院やみんなの様子を見に再び訪れる、というエピソードを書きました。私自身が目撃したこと、感じたことを精一杯麻世ちゃんに託して。

編集『いのちの波止場』を出版してみて、どうでしたか?

これで良かったのかな、という思いはずっと抱き続けてました。でも、その後、金沢で看護協会の講演会にゲストで呼ばれて話をした際、会場に来てくださった能登の方々から「書いてもらって良かった」って言ってもらえて。そういうふうに受け止めてもらえたなら、良かったな、と少し安心しました。

編集 震災前の穏やかな穴水、内浦の美しい景色を小説で残せたのは、私も良かったと思います。

「NHK俳句」に出演!

編集 文庫書き下ろしの「老坂クリニック」シリーズはどうですか。軽い読み心地なので、書いていても楽しいのかな、と。

大きいものを書いてる合間に気分転換でどうですか、って編集者さんに言われたんですが……。読み心地は軽くても、やっぱり書くのは大変です。でも、「老年内科」を看板に掲げる診療所の物語はほとんど自分の普段の診療と変わらないので、楽しくはあります。

編集 主人公が短歌を詠んでますが、南さんご自分で?

そうですよ。でも短歌の先生にチェックしてもらっています。

編集 そういえば、Eテレの「NHK俳句」に出てもらいましたよね。これは完全に私の趣味です。私、15年近く句会に参加していて、南さんに依頼があった時は嬉しかった!

俳句は詠んだことがなくて尻込みしたんですが。

編集 でも、すごくいい句を詠んで、講師の先生からも「添削なし!」でした。

花冷えや母の入所を先延べし

Kさんが喜んでくれて良かったです……。

その4へ続く。

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沈黙の患者

「あのまま、一人で焼け死んだくれたら……」高齢化社会に潜む“犯罪未満”の出来事に心揺れる人々を綴る、傑作心理サスペンス。デビュー10周年を迎えた現役医師で作家の新境地!

決して他人ごとではない、日常を蝕む5篇の物語

知人に唆されて「認知症の母」をレンタルして、介護保険を騙し取ってしまった独身中年の娘。――「沈黙の患者」

子ども食堂に“他人の孫”を連れてきて、甲斐甲斐しく世話を焼く老爺に疑問を持つ女性スタッフ。――「夕方の善意」

年老いた父親が若い女性と付き合っていると知って、無理やり別れさせようとする中年姉妹。――「シル専の女」

 

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南杏子

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、都内の大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを勤める。帰国後、都内の高齢者中心の病院に内科医として勤務。

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