現役医師で作家の南杏子さん。デビュー作『サイレント・ブレス』(2016年9月)から10年目の同じ9月に『沈黙の患者』が発売になりました。デビュー10周年記念作品! というわけで、この10年苦楽を共にした(?)担当編集Kと南杏子さんで、ざっくばらんに色々振り返ったおしゃべりをお届けします。
第一弾は、持ち込み原稿から55歳でのデビュー作誕生までのお話など。

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書き直しを指示されるのは、本になる可能性、余地があるということだから嬉しくて
メールを遡ると、初めてやり取りしたのは、2014年6月。南さんが通っていた小説教室の先生を通じての持ち込み原稿を読んで、お目にかかりましょうということになったのです。ちなみにデビュー作『サイレント・ブレス』の元となる持ち込み原稿のタイトルは「さかい訪問クリニック」でした。
南 文芸担当の編集者さんが会ってくれるというので、「これで本にしましょう」というお話だと思っていたんです。そうしたら、原稿の半分くらいはいらないって言われて、何話かだけが使えそうだと言われました。
編集 いやいや、それまで持ち込みで読んだ数々の原稿の中では断トツに面白いし、なんとかブラッシュアップして刊行したい、できる、という気持ちがあってのことです。でもその上、「ミステリーになりませんか」って言ったんですよね。
南 私は終末期医療の現場を舞台に割とシリアスに、そして優しい物語を書いたのに、ミステリー? って驚いて。
編集 現役女性医師っていう“肩書”が良かったのと、その頃、医療ミステリーが人気で、色気が出てしまって。
南 シャーロック・ホームズとかそういう系統をイメージしてしまって、それは、無理かもとなったんですが。
編集 事件で人が死んだりしなくてよくて、終末期医療の現場に日常の謎が絡まるようなお話で、と。
南 それならできるかもしれない、ってなりました。休日返上で一から書き始め、Kさんに少しずつ見てもらいました。
編集 実際、ちゃんとリアルで切ない謎が入ってきて、すごいと思いました。
南 でも、そこからが大変でした。
編集 確かに。原稿いただくたびに、大小直しのご相談をして、でもその都度すごくよくなるから、私も欲が出てしまって。正直、こんなにしつこく言われてよく嫌にならなかったなと。
南 書き直しを指示されるのは、本になる可能性、余地があるということだから、嬉しくて。
編集 小説教室の延長みたい、ともおっしゃってましたよね。そして、7回くらいやりとりがあって、私はこれで行ける、入稿できると確信して、「ここからが本番ですね」って言ったら、南さんびっくりしてて。
南 え、ここから、まだ……って。
編集 ゲラでもかなりやり取りして、結局2年以上かかって『サイレント・ブレス』が刊行されました。そうしたら、発売即、重版して、すごく嬉しかったんですが。
南 私は何もかも初めてのことなので、重版しても、そういうものかと思っていました。
編集 持ち込みからのデビュー作が即重版! すごいことなんですよ。
南 ありがとうございます。
編集 実際『サイレント・ブレス』を出してみてどうでしたか。
南 私の携わる終末期医療の現場というのは、悩み多き日々の連続です。ただ決まりきった治療をすればいいというわけではなく、患者さんのご意向やご家族の思いも色々あって、正解のない中で正解を求めて医療をやっていたところもあったんです。それが、『サイレント・ブレス』を書いていくうちに、私自身の医療との向き合い方を見つめ直すというか、じっくり振り返る機会を得ました。また、小説の執筆者としては、フィクションだからこそ、想像を膨らませて話を広げることができました。書きごたえがあって、やりきったというか。大満足で2作目なくてもいいな、って思ったんですけど……。
編集 いやいや、編集者としては、いいものができて重版できて良かったね、で終わるわけにはいきません! すぐに2作目のお話をしたんですよね。デビュー第2作の『ディア・ペイシェント』は、「クレーマー患者」をテーマにしました。
南 実際その頃、そういう「カスタマー・ハラスメント」の病院版みたいなのが問題になっていました。医療者は一生懸命やっているのに、理解されずに、攻撃を受けてしまうこともあって。そういう現場の悩みを物語に落とし込みたいと思いました。
編集 女性医師が心理的に追い詰められる部分もある、読んでいて苦しいところもあるお話でした。でも、患者側にも切ない事情があるという、双方に温かい眼差しが向けられる終わり方で、とても良かったです。ドラマ化もされましたしね! 放送枠はNHK総合テレビの「ドラマ10」。デビュー第2作が連続ドラマ化なんて、これもすごいことなんです。
南 本当にありがたいです。
その2に続く。
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