私が、会ったこともない漫画家のサクセス情報に本気で嫉妬しているのは有名な話だが、今でも元気に嫉妬し続けているし、気づけば15年以上嫉妬し続けている。

私は職質など、真面目に答えなければ拘束時間が長くなるだけの時は己の職業を「無職」と言ってきたが、それ以外の時は「エゴサーチャー」「他人の不幸ソムリエ」と言って、相手の時間を無駄にさせてきた。
だがそろそろ、職業は「嫉妬」と答えてもいいレベルなのではないか、むしろ仕事でもないのにこんなに熱心に嫉妬している方が怖い、業務上嫉妬であってほしい。
だが実際、私がここまで飽きずに嫉妬を続けられているのは仕事が大きく関係している。
漫画家というのは多々ある職業の中でも他人のサクセスが可視化されやすい上、遥か遠くにいる直接関係ない同業者のサクセス情報まで目に入って来る業種だからだ。
私は会社員時代、事務職をやっていたが、少なくとも事務職というカテゴリで他人に嫉妬したことはなかった気がする。
そもそも「事務職のサクセス」とはなんだ、という話だ。
1秒間のタイピング数が違うなど、能力的な差はあるだろうし、その結果が給料額にも反映されているのかもしれないが、それを知る術はない。
まして「山形県の藪北商事(株)の総務課三上さん(38)が業績を認められ1万円の昇給」など、別の会社の事務職のサクセス情報が耳に入って来ることはまずない。
それが入ってきてしまうのが漫画家なのだ。連日のようにどこかの誰かが描いた作品がアニメ化決定したなどのニュースが目に入ってしまうのだ。
しかも「100万部突破」など「数字」で表してくるのも良くない。メディア化したからといって必ずしも単行本が売れ、巨万の富が手に入るわけではない、ということは私も身をもって知っている。だがそれを揺るぎない数字で可視化されると逃げ場がなくなる。
さらに、数字で可視化されるのは部数だけではなくなりつつある。
昔でも「雑誌の掲載順位が上の作品ほど人気がある」という可視化はあった。
しかし、じゃあ江戸前の旬やミナミの帝王は人気なかったのかい、というとそんなことはなく、掲載順位は雑誌の方針によって異なるため、確かな基準とは言い難かった。
だが、漫画がWEBやアプリで配信され、多くの配信サイトが「ランキング」という形式を採用したことにより、ここでも動かしようのない差が可視化されるようになった。
アプリではランキングだけでなく「お気に入り数」や「イイね数」など、とにかく数字を突き付けてくる仕組みになっている。
そんなわけで私はアプリ自体をあまり見ないようにしている。
どうしても見なければいけない時は明るい部屋で画面から数メートル離れる、ポケモンショック対策フォーメーションで見るようにしている。
アプリは自分の数字だけでなく、他の作品の数字も見えるため「ほう……あの人気作とは……お気に入り数が256倍差か」みたいなことまでわかるから嫌なのだ。
職業「嫉妬」としては、アプリによる数字可視化は「バブル景気到来」といっても良く、思う存分「数字」という言い訳の効かない根拠を元に嫉妬を楽しめばいい筈なのだが、それができない時点で私はまだ職業「嫉妬」を名乗る資格ないということだ。
だがこうやって、他者との差が数字で順位づけされ、それが公開される職業や分野など、なかなかないので、これは誰もが味わう苦しみではない。
そのはずだったのだが「推し活」により、同じような苦しみを持つ人が急増しているらしい。
私は去年「TVer」というものを知った。
知らない人も多いかと思うので説明するが、これを使えば見逃したテレビ番組を後から見られたりするのだ。
私はこれで推しが出ている番組やドラマなどを見たりするのだが、これもお気に入り数やいいねが可視化されており「ランキング」もバッチリ存在する。
つまり、推しの数字が伸びないことに悩んだり、推し以外の数字と比べて嫉妬したりする人が増えているらしいのだ。
他人の推しの人気と、自分の推しの人気は無関係である。
しかし数字として見えてしまっているものを気にするな、というのも無理なのである。
数字なんか見せるな、みんな違ってみんないい、鈴とことりとそれから私、俺とお前と大五郎だろう、と我が郷里が誇る金子みすゞ烈女もそう言っている。
だが、何かを選ぶ指標として数字はやはり必要であり、ランク付けをすることでまた盛り上がることも否定できない。
中には、推しが出ている番組や動画などを繰り返しリピートして数字を増やす推し活をしている人もいるそうだ。
推しを自分の応援で盛り上げていくのも推し活の楽しみの一つだからそれはいい、だが他と比較して苦しくなるようなら数字は見なくていい。
数字は見ないようにすれば意外と目に入らない、今すぐ画面から数メートル離れて推しを見る練習をしよう。
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