私の家にはほとんど客が来ないのだが、今日珍しく夫の弟が我が家にやってきた。
こういう時は一瞬だけ顔を出し、あとは自分の部屋から一歩も出ないのが、正しい社会不適合者仕草である、心配しなくても茶ぐらい夫が出す。

ちなみに「顔を出す」は比喩ではない、当然のように変な服を着ているので本当にドアの隙間から顔だけ出して挨拶する。
後で何をしに来たのかと聞くと、どうやら保険業をしている夫にがん保険の相談にきたそうだ。
従来のがん保険は、入院や手術にのみ対応していたが、真に金がかかるのはその後の通院であり、それに対応する保険ができたので切り替えを検討しているという。
ライフステージによって必要な保険は変わるし、保険の内容も変わる、入りっぱなしではなく必要に応じて切り替えを検討するのが真の情強ということなのだろう。
ところで最近「推し活キャンセル保険」が生まれたらしい。
前回の推し活休暇や推し活手当のように、何でも「推し活」とつけておけばいいみたいな風潮が生まれているような気がするし、国に目をつけられ「推し活税」とか言い出したらどうするんだという話だが、この推し活保険は「地方民」にとってはなかなか切実な保険ではある。
コンサートや観劇など、リアイベに参加するタイプの推し活の場合、地方民は推しがホームに来るのを待っていたら、己の寿命、または推しの寿命が先にやってきてしまう。
よって「遠征」して会いに行くしかなく、チケット代に加え、交通費と宿泊費がかかってしまうのだ。
ここで怖いのが、参加予定のイベントの中止である、イベントのチケット代などは返金されるだろうが、交通費や宿泊費などのキャンセル料は自己負担になってしまう。
推しのイベントは中止の上に多額のキャンセル料を取られるという泣きっ面にヘッドロックに備えるのが「推し活キャンセル保険」である。
この保険に入っていれば、イベント中止により、キャンセルとなった遠征費を限度額まで補償してくれるそうだ。
ちなみに常時加入するものではなく、イベントに併せたスポット加入の保険のようだ。
確かに、マイナス30度の中一夜を過ごす陸別町のしばれフェスティバルに参加する際は、うっかり死んだ時に備えその日だけの保険に入ることが義務付けられている。
推し活もある意味生死に関わるイベントなのだから、何かあった時のために保険に入っておくというのは正しい。
実際、3000円程度の保険料で10万円補償されたりするので、海外遠征などキャンセルになったらシャレにならないイベントの際は、お守りとして入っておくのは十分ありだろう。
しかし、この推し活キャンセル保険にも欠点がある、むしろ「推し活」と名乗るならそこをはずしてはダメだろう、という大穴が空いている。
補償対象はあくまで「イベントの中止」であり、自己都合で行けなくなった場合が対象外なのはもちろん「推しの降板」も対象外なのだ。
つまり、推しが体調不良で出演しなくても、そのイベント自体が中止になっていなければ補償対象にならないかもしれない、ということだ。
もちろん、イベント自体が楽しみなら良いのだが、推しが出演すると聞いたから、国際ローション相撲カップを見にスコペッソイ諸島への航空券を取っている人もいるだろう。
推しが不参加になった後も、せっかくだから何の興味もないローション相撲観戦をしに、どこにあるかも知らん島まで行くかというと、普通にキャンセルしたいはずであり、それが補償対象外になっているのは普通に困る。
そもそも「推し活キャンセル保険」と名乗っているのに肝心の「推し」の降板などが補償対象というのは若干納得がいかない。
しかし、推しの降板などを対象にしてしまうと、事前に誰が推しかを申請しなければいけないし、保険をかけておく推しの数によって保険料が変わるなどややこしくなるので、そこまでは無理なのかもしれない。
大金がかかる趣味に対する保険としては普通に優秀だと思うが「推し活」というなら、「推し」に対する補償も欲しかったところである。
だが本気の推しに対する保険を作ろうと思ったら、推しが熱愛保険、不倫保険、お葉っぱ逮捕保険など、さらに二次元の推しに対する死亡保険など、加入も審査も複雑すぎる保険になってしまいそうなので、シンプルに旅費交通費を対象にした保険が限界なのかもしれない。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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