前回「趣味」の話は話題の鉄板であり、この話題を1ターン以内に終わらす雑談RTAプレイヤーが世間ではコミュ症と呼ばれる、という話をした。

会話を1ターンキルし続けた結果、すでに私と世間話をするような人間は皆無になったため、これは予想でしかないが最近は「趣味は?」に並び「推しは?」という話題も雑談の鉄板になりつつあるのではないかと思う。
確かに、私と雑談する人間はいないが「聞かれていないことを勝手に話し出す」でおなじみの編集者たちも、気づけば己の推し語りをはじめており、いわゆる古のオタクでない層も何かしら推しを持つ時代になっていると実感している。
我々が何故推しを持つかについては、今すぐXでケンカがしたいなどの理由がなければ分析する必要は特にないのだが、その理由の一つとして現代人には「回復」が必要だからというのが挙げられている。
仕事や人間関係で疲れるのはもちろん、最近は1人の時間でさえSNSを見て疲れてしまったりする。よって完全なる「癒し」の存在である「推し」が必要、ということだ。
確かにスンスンのチャンネルを見ても「救われました」という、人生を骨折した大人のコメントが珍しくない。
FGOの土方さんとかが癒しかというと「癒」の部分を引いて「死」という感じがする。生命の危機を感じる推し活も「生きてる」という感じがして良いのだが、回復成分の強いバブみたいな推しも確かに必要な気がしてきた。
また現代人が疲れやすい理由として「現実がファッキソすぎる」というのがある。よって現実から目を背けるためにも推しが必要なのだ。
「現実逃避」というのは昔から我々二次元の者が言われてきたことであり、この言葉が出て来たあたりからケンカの匂いがしてきてしまうのだが、現実逃避が悪いことだとしても、現実を直視するのが良いとも限らないのだ。
鏡に映る自分の顏はこれ以上ない現実だが、見つめ続けることにより徐々にリフトアップしていくシステムではないだろう。現実というのは見つめて暗くなるだけなら時間の無駄である。だったら推しのツラを見ていた方が現実にとっても良い効果がある。
世の中には「時間があると暗いことを考えてしまう人間」というのがいる。
しかも考える内容は「いつか起こる太陽系の爆発」など、個人の力ではどうしようもないことや「中学の卒業文集に書いた『革命家宣言』」など、時空を越えなければ解決できない問題ばかりだ。
そのような「考えても仕方ないことを考える時間」からはむしろ逃避すべきであり、逃避先として推しほど良いものはない。
それを考えると、私が今まで推し活で「癒し」や「回復」をあまり感じてこなかった理由がなんとなくわかってきた。
仕事など耐えがたきを耐えた後の推し活が回復になるのはわかるし、ただ暗いことを考えるだけだった暇な時間に推しが入ることで癒されるのもわかる。
私は常に「それ以外の時間」に推し活をしてきてしまっていたような気がする。
「それ以外の時間」とは目の前にやるべきことが鎮座ましましておられる時である。
私が学生時代に推しキャラの斜め45度バストアップイラストを全集中で描いていたのは暇な時間ではなく、授業中やテスト勉強中であり、今もソシャゲをやったりYouTubeを見るのは、仕事をしなければいけない時間だ。
やるべきことを終えて「さて疲れた網膜を推しで焼き畑農業しますか」みたいな推し活をしたことがほぼなく、むしろ仕事中に推し活をしてしまっているせいで「やるべきことを終えた瞬間」が永遠に訪れないという悪循環になってしまっている。
つまり私の推し活は癒しとは逆ベクトルだったということだ。
使ってはいけない時間を使ったツケは後でやってくるので、推し活により逆に疲弊してしまっているという状態なのである。
つまり、癒しとして推し活をしたいなら、公私はしっかりと分けておく必要がある、ということだ。
しかし「やるべきでない時にする推し活」の楽しさも否定できない。
「使ってはいけないお金で有馬記念チャレンジ」や「頭(カシラ)の女に手を出してみた」など、あとで後悔するのをわかっていながら、命をかけたおもしろ企画に挑む奴がいるのも、それが抗えないほど魅力的だったからだろう。
仕事をやりとげた後に見る推しの顏ほど染みるものはないかもしれないが、やるべきことをフルシカトして見る推しの顏も爆イケなのである。
現在も、一時間後には「祖母の四十九日」のために家を出なければいけない状態であり、いろんな意味でそれどころではない状況なのだが、やっぱり推しのYouTubeチャンネルを開いてしまっている。
こういう時に見る推しの顏は破滅的に良い。
この顔を知らないで死ぬのはもったいない。やるべきことをやってから推し活をしている真面目な皆さんも、一度は親の危篤を無視して推し活など、背徳推し活をやってみてもいいんじゃないかと思う。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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