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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2026.06.30 公開 ポスト

「推し活休暇」や「推し活手当」について思うことカレー沢薫

推し活が一般化したことにより社員へ「推し活休暇」や「推し活手当」を支給する企業が現れはじめたという。

まず、ネットミームに企業アカが乗っかり始めた瞬間急速に冷めるように、会社が推し活に「理解」を示そうとしてきた時点で激萎えする面倒なオタクが一定数いるのは前提として、このシステムが逆に社内の輪を乱すのではないかと危惧している。

危惧らなくても、私はとっくに社会の輪からはずれているし、二度と戻れそうにないのでどれだけ乱れ雪月花しようと関係ないといえばないが、輪を乱した側だからこそわかることもある。

私がなぜ社会の輪から外れたかというと理由は5万個あるし、自分が気づいてない理由も8万個はあると予想されるが、まず周囲に比べ、ズバ抜けて仕事ができないというのがある。

個人の能力の差があるのは当たり前なので仕事ができない人間を責めても仕方がないところはあるのだが、単に業務の足を引っ張るだけでなく、周囲に「不公平感」をもたらすのが厄介なのだ。

誰かが仕事ができない分、誰かがそれをカバーする、だが給料は同じみたいな現象が起こってしまうのである。私のカバーをする人に「介護手当」が支払われていれば問題なかったが、そうではないので場はどんどん乱れていく。

人間は「不公平」にはメロスのように敏感だし、会社のように金が絡む場所ならなおさらだ。

今でも「子持ち社員が優遇されて不公平」みたいな話でXが最低年4回、春夏秋冬燃えている。

推し活支援制度は社内で極力廃さなければならない「不公平感」を誘発させるシステムな気がしてならない。

まず単純に、推しがいる人だけ得する制度のように聞こえてしまう。

ただでさえ、推しがいない人は、推しがいて当たり前な風潮に窮屈さを感じているのに、会社がそこに乗っかり、推しがいない者を冷遇しだしたらもう終わりだろう。

もちろん「不公平」という批判は出ており、推しがいる人間にだけ与えられる休暇ではなく「大切な用事の時使える休暇」として社員に平等に与えられ、使う理由は割と何でもよいらしい。

ならば「推し活休暇」などと名付けなくても良くないかとも思う、実際「リフレッシュ休暇」など、どうとでも取れる名前にしている企業も多い。

それを「推し活休暇」など、推しがいない人がピリっと来てしまう名前にわざわざする必要はないのではないかと思う。

それに推しがいる人も、そこまで堂々とやりたいと思っているわけではないだろう、むしろ会社では推し活の話はしたくないという人もいる。

推し活の為に休みたいなら「私用」の一言で有休を取ってひっそりやるはずである。

別に会社に推し活を理解してほしいわけでもないのに、急に理解のある会社君に、遠慮なく推し活で休めと言われても、逆に休みづらいだろう。

推し活休暇に関しては、名前はどうかと思うが、内容的には不公平というわけではない。

しかし「推し活手当」に関しては、いよいよ不公平な気がする。

推し活手当の申請法は様々なようだが、まずイベント名や日時など、推し活内容を事前申請するらしい。

まず、推しがいるいないで不公平があるし、推しがいる者の中でも「会社にカミングアウトできるか否か」で不公平が生じるし、推しピアニストのコンサートになど、言いやすい推し活をしている人間が有利になってくる。

少なくとも私は「東京流通センター開催の同人誌即売会「お義兄ちゃんといっしょ(イベント名)」に参加します」と申請するぐらいなら、手当を諦めるだろう。

さらにイベントに参加した証拠としてチケットの半券やイベントの写真、購入品などの写真を求められることもあるそうだ。

私がイベントでの「戦利品」写真の提出を求められたら「人権」を理由に拒否するが、そうなると今度は「不正受給」を疑われてしまうのだろう。

だったら最初から申請を諦めるし、サッカー見に行ってきましたと、とチケット半券で申請している者に不公平感を感じるだろう。

不公平をなくすためには、全社員に推し活費として定額支給が一番だと思うが、それなら推し活手当という名前にする意味はないだろう。

会社が休暇や手当を増やそうとしているのは良いことである、だがそこに差があると新たな社員の不満になってしまうのだから、会社も悩ましいところだろう。

特に推し活に関しては会社でのストレスを解消するためにしている人も多い筈である。

そこに、元凶である会社が前のめりになって、「不公平」という新たな社内ストレスを付与してしまったら意味がない気もする。

関連書籍

カレー沢薫『人生で大事なことはみんなガチャから学んだ』

引きこもり漫画家の唯一の楽しみはソシャゲのガチャ。推しキャラ「へし切長谷部」「土方歳三」を出そうと今日も金をひねり出すが、当然足りないのでババア殿にもらった10万円を突っ込むかどうか悩む日々。と、ただのオタク話かと思いきや、廃課金ライフを通して夫婦や人生の妙も見えてきた。くだらないけど意外と深い抱腹絶倒コラム。

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カレー沢薫

漫画家。エッセイスト。「コミック・モーニング」連載のネコ漫画『クレムリン』(全7巻・モーニングKC)でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』(ともに講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)がある。

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