 
						現在、私は「君に似合う花言葉」という舞台作品の稽古期間である。
オリジナル脚本のこの物語は、死後の世界の話でこれまでに書いたことのない作風の話だ。
数年前に、死者が蘇るという話を書いたことがあるが、それは死者が天国から現世に戻ってくるという話なので、シチュエーションとしては現世である。
今回の「君に似合う花言葉」のシチュエーションは天国と現世の狭間にある三途の川で、ファンタジーな要素が今までで一番強い作風となっている。
こういった誰も知らない世界観を書くのは楽しい。正しいのか誤りがあるのかは誰にも分からず、その世界のルールを自分で都合よく決めて、時にそのルールに縛られながらファンタジーの世界に没入する。とても身勝手で愉快な作業だ。
最近書いた別のオリジナル作品では、工事現場やヤクザ事務所といったその世界で生きる人が観ると誤りが分かるシチュエーションがあった(ヤクザ事務所の誤りが分かる人が観劇に来るのは怖いな……)。私はこのような現実にある設定を選ぶ傾向がある。
そのシチュエーションで生きる人々の葛藤や希望を想像して書くことが多い。
なので、今回のような死後の世界というのはとても新鮮である。
今回なぜこのような題材になったかというと、プロデューサーの方からのオーダーがあったからだ。
「死後の世界を書いてほしい」そう少し照れながら緊張した面持ちで私に依頼をしてくれたプロデューサーは私よりも歳が若い女性。彼女の初プロデュース作品に脚本演出として私を選んでくれたことがとても嬉しい。今後も仕事を続けていく上で1回目はとても大切だ。大成功と言ってもらえるように貢献したいと心から思っている。
打ち合わせを進めていると、若い彼女の発想や着眼点が36歳のおじさんの私とは明らかに違うと感じた。伝えたいメッセージや大切にしている想いや葛藤がとても穏やかで優しさに包まれている。私が普段活動しているホームの仲間は44歳のおじさんプロデューサーだ。そりゃ工事現場やヤクザ事務所のシチュエーションを好むなと思う。今回は鉄砲で撃ったり借金がどうこうという展開にはならない。とても温かいお話だ。
 
舞台作品のタイトルも、おじさんと創っていると至らないようなタイトルだと思う。
いくつか候補を出させてもらった中で彼女が「君に似合う花言葉」を選んだ。すでに稽古場では「きみはな」と略されて呼ばれているのを目撃して、キャッチーでポップな要素は大切なのだなと学んだ。最近の私の作品タイトルだと「霧」や「愚れノ群れ」では略称すら生まれないし、ポップさは微塵もない。「月農」なんてのもあったな。これにいたっては意味が分からない。オープニングシーンで「月農」と主人公が言うのだが、その台詞が一番難しいと主人公を演じた役者が文句を言っていた。
まだ稽古が始まって数日しか経っていないが、現場の雰囲気もとても良くギュッと濃い演劇を創れると確信している。ギスギスもトゲトゲもない心地の良い雰囲気。
それも穏やかで健気なプロデューサーの空気に現場が包まれているからなのかもしれない。
私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。
21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!
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