この連載は、とある事情にてお蔵入りとなった資料を、一部再編集のうえ公開できるようにし、掲載したものです。第9話の今回は、某局で制作予定だったものの諸事情によりお蔵入りとなったドキュメンタリー番組に関する一連の制作資料について。
みちこちゃん、どうか戻ってきてください。
* * *
『時を越えた手紙:奇跡の再会を求めて 40年目の失踪事件(仮)』制作資料——2012年 某局で制作予定だったドキュメンタリー番組の資料群
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I. 番組企画書(初版)
タイトル(仮) 『時を越えた手紙:奇跡の再会を求めて 40年目の失踪事件』
担当部署 ■■テレビ報道局 特番制作チーム
番組形式 50分ドキュメンタリー
企画意図 ある日、男性のもとに届いた手紙。それは40年前に失踪した妹からのものであった――難病を患いながらも失踪した少女との再会を願う家族の「愛と奇跡」に焦点を当て、密着取材する。視聴者に希望と感動を与える年末特別企画とする。
取材対象 小谷健太(仮名)さん
取材の焦点
1. 40年前、失踪に至る経緯。
2. 妹、みちこさんが患っていた難病MELAS症候群について。
3. 封筒にも入れられず、むき出しのままポストに投げ込まれていた“妹”からの手紙。
悪質なイタズラか、奇跡なのか。その謎に迫る。

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II. 小谷さんインタビュー(抜粋)
日時:2012年XX月XX日
場所:小谷氏 自宅
インタビュアー(I):■■ディレクター
I 妹さんが失踪したときのことを教えて下さい。
小谷 当時、私たち家族は■■県の山奥に住んでいました。40年前ですから、私は7歳、みちこは5歳でした。私と妹はよく山で遊んでいました。妹は持病がありましたから、よその子とはあまり遊ばず、もっぱら兄の私とばかり。私自身は小学校に上がりたてで、クラスの子と遊びたいという気持ちもあり、少し面倒に思うこともありました。
みちこがいなくなる少し前、山の中で郵便ポストを見つけました。
I ポストですか?
小谷 はい。どう見ても今は使われていないような古びたポストでした。妹が興味を示したので、「ポストに手紙を入れると遠くの人に届くんだよ」と話しました。すると、次の日からみちこは、手紙を書くようになったんです。切手も貼っていない手紙をそのポストに投函するのが日課になりました。何を書いているのか聞いても「秘密」と。もちろん、そもそも使われていないので郵便局の回収もありませんし、ゴミ箱みたいなものです。ただ「郵便ごっこ」といったような具合に楽しんでいるんだと思いました。
ポストを見つけた数日後、みちこがいつものように「手紙を出しに行ってくる」と。その日私は宿題があったのだかどうだか……理由は覚えていませんが、妹を一人で行かせました。これまでも時折一人で遊びに行かせることもあったのですが、妹はそれきり帰ってきませんでした。
警察や近所の人も総出で捜したのですが、手がかりひとつ見つからず……。
I ポストにはなにか残っていなかったんですか? 妹さんの手紙とか。
小谷 それが、あのポスト自体、見つからなかったんです。私が記憶している場所にはなくて、他も山中くまなく探したのですがやはりありませんでした。近所の人に聞いてみても、誰もポストなんて知らないと、最初から存在しなかったかのようで……。
I そのポストの写真なんかはないのでしょうか?
小谷 たしか、妹をポストの前で撮った写真があったと思います。あとで探しておきます。
I ありがとうございます。
それで……40年後に手紙が届いたと。手紙はこちらのご自宅に届いたんですか?
小谷 はい。■■県の実家はもう取り壊していまして。
I 宛名も住所も書かれていないという事は、小谷さんの家のポストに直接投函したということですよね。妹さんからのものだとしたら、なぜ小谷さんが滋賀県に引っ越されたことを知っていたのでしょうか?
率直に申し上げますと、悪質ないたずらという可能性も考えられるのではないでしょうか。
小谷 ええ、その可能性は考えました。ですが、わざわざ40年前の失踪事件を掘り返して、こんなことをする理由がわからないんです。中身も、ご覧頂いた通り子供の字ですよね。当時のみちこの字のようにも思うんです。
だから、馬鹿げた話と思われるでしょうが、タイムスリップとか、あるいはこことは違う世界からみちこが送ってきたんじゃないかって、そう思ってもいるんですよ。
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III. ロケハン記録(フィールドノート)
記録者:ディレクター補佐 D.A.2(加藤)
撮影日時:2012年XX月XX日
場所:■■県 ■■山
13:30 小谷さんと合流。40年前にポストがあったとされる地点に案内される。現場は現在、人が通った踏み跡もなく、草が生い茂っている。
14:05 ポストがあったという場所に到着。それらしきものや目印となりそうなものはない。
14:15 範囲を広げて捜索。
14:45 一時休憩。小谷さん、妹宛の手紙を持ってきていると語る。「あのポストに手紙を入れたら別の世界で幸せに生きている妹に届くのではないか」
15:20 現場を離脱。小谷さん「あの日付き添わなかったことを後悔している。妹に謝りたい」と語る。
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Ⅳ. 小谷さん提供素材
◯ポストの写真(40年前)

◯手紙
【1通目】



おにいちゃんへ
みちこだよ
みちこはいま おおきいさんといるよ
みちこはげんきだよ
いたくないよ くるしくないよ
おおきいさんが てがみをかこうねって
おおきいさんが いったよ
おにいちゃんげんき あいたいよ。
みちこ
【2通目】


おにいちゃんへ
てがみ よんだかな
でんわないって おおきいさんがいったよ
おてがみかくよ
おおきいさんは やさしいよ
ずっとねてるよ おおきいさん
だいじょうぶ ってきいたら だいじょうぶだって。
おおきいさんが おにいちゃんも がんばってっていったよ。
みちこ
【3通目】


おにいちゃんへ
みちこのてがみ うれしいかな
おにいちゃんは おおきいさんは よろこんでるって
ほんとかな
おおきいさんが みちこもうすぐかえるって
すてきなせかいで おそとはこわい
おにいちゃん はやくあいたい かえるよ
おおきいさんが くるしそう またね。
みちこ
【4通目】


おにいちゃんへ
きょうは おそとみたよ
まぶしくて ひかりがいっぱい
みちこは こわくないよ
おうちにかえれるかな
みちこ おうちわからないよ
すこしおうちわからない
だいじょうぶって おおきいさんがいうよ
みちこ
【5通目】

ワタシ モウダメデス デシタ
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本内容は、某局で制作予定だったが“お蔵入り”となったドキュメンタリー番組に関する一連の制作資料である。失踪した家族との再会を目的とした感動ドキュメンタリーとして企画されたが、制作途中で小谷みちこ(仮名)さん(享年45歳)の遺体が発見されたため、制作中止となった。
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