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私は演劇に沼っている

2025.09.26 公開 ポスト

ゴルチエに「国宝」にプロレス…エンタメを吸収中。だが執筆は停滞中私オム(脚本・演出家)

先日、とても面白い舞台を観劇した。

その舞台には、何度も作品を共に創った松村龍之介という役者が出演しており、彼が「オムさん、舞台来てください」と誘ってくれた。

龍之介はいつも気さくに私に連絡をしてくる。とてもラフにLINEをくれるので、こちらも気を遣わずに、適当にふざけた返信ができる。龍之介が「最前列の真ん中の席を取っておきますね」と送ってくれば、私は「上演中にボソボソダメ出しするね」と返し、「台本持ちながらやりますね」と龍之介から返ってきてくだらないLINEのやり取りが続く。

龍之介は酒を一緒に飲んでいると、私の言動をニヤニヤと見ていじってきたりもする。私のミスや人として不足している部分が、彼にとっては最高に楽しいみたいだ。

後輩という存在が多くはない私は彼の存在がとても可笑しく、一緒にいると愉快な気持ちになり、彼と話をしていると甥っ子と話をしているような感覚になる。

龍之介の舞台には、このエッセイで名前を出したことのある役者、定本楓馬も出演していた。

その舞台は、出演者4名の濃厚なお芝居であった。

観劇中、私が強く感じたことは、‟演じる″ということは楽しいんだな~ということだ。

出演者がとても活き活きとしているように感じた。やらなければならないこと、達しなければならないことまでの行間を埋めているのがとても楽しそうだと私には見えた。もちろん沢山の苦労と、膨大な時間をかけて行き着いた境地なのだろうが、本番という結果だけを目撃した私には、幸せそうな役者が舞台上にいるように見えた。

役者たちが満ちていた。心や体のエネルギーが、エンターテインメントで満ちていた。つまり、すべてが観客に向けられていた。当人たちが観客に向けていたのかは分からないが、私にはビシビシと伝わった。不足なく届けてもらえたと私は思っている。満足とはこのことをいうのだと知った。

そして私は、役者とは素晴らしいお仕事で不思議な生き物だな、と感じた。

心を動かし、様々な感情を知り、技術を蓄え、知識をもってベストな表現を選択して演じる。生きている視点が普通とは違うと私は思う。生きることが演じることのためになり、演じたことで人の心を動かす。素晴らしくて不思議だ。

人々に娯楽を与えることを生業として、エンターテインメントの世界で生きている人は、一般的な思考回路でなく良い意味でおかしな人が多い。

 

全く異なる種類のエンターテインメントも先日に観た。

それはファッションデザイナーのジャンポール・ゴルチエの半生を描いたショーで、全編フランス語で出演者が全員海外のダンサーや歌手の方で構成されたエンターテインメントショーであった。

多くのパフォーマーが身体を存分に使って観客にパッションで訴えかける光景に、言葉以上に伝わるものが私にはあった。今までに経験したことのない角度で、刺激を受けた。観にいけてよかったと心から思った。

観に行ったショー。
舞台でもファッションショーでも
ダンスイベントでもない
とてもクレイジーで濃厚なエンタメだった。

今月、様々なエンターテインメントに触れている私だが、執筆が進まずに頭を抱えている。面白そうなことが浮かんでは消えて、どっかで観たことがあるようなものがボーッと頭の中で漂っては消してを繰り返している。

なにか抜け出すキッカケになればと、助けを求めるようにいろんなエンターテインメントに触れている。大ヒット中の映画「国宝」も観たし、Netflixでドラマも見漁っている。

同業者たちのエネルギーをいただいて、同業者たちの成功を目撃して、私の中の何かに刺激を与えて突き動かそうとしている。

来週はプロレスを観にいく。大男たちが本気でぶつかり合うエンターテインメントに助けを求めにいく。

 

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私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。

21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!

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私オム 脚本・演出家

1989年生まれ。大阪府出身。代表作は女優の水野美紀氏との共同演出作品「されど、」や映画製作予定の「忘華~ぼけ~」や朗読劇「探偵ガリレオ」などがある。身近に感じる日常にドラマを生み出し、笑いを挟み込みながら会話劇で展開する作風は各テレビ局関係者からの評価も高い。また、10代の頃から国内や海外を放浪していた経験を持ち、様々な角度から人物を描き、人間の悩みや苦悩葛藤を経ての成長に至る描写を得意とする。近年では原作のある作品の脚本演出のオファーが相次いでいる中、自身のオリジナル作品の上演を定期的に行い、多くの関係者が観劇に訪れている。

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